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2017年4月9日に設立されたMAAでは、4月に全国から会員が集まって設立記念総会を開催することが恒例でした。しかし昨年は新型コロナウイルスの感染状況を考慮して延期となり、今年度も各レクリエーションの企画段階から厳しい状況が続いていました。 そこで事務局会議で冒頭のような検討を経て決まったのが、4月24日(土)に開催された第12回インターバルレクリエーション「超歌舞伎『御伽草子戀姿絵』」オンライン鑑賞と感想会・交流会です。 開演前に参加者がZoomに集まって挨拶を交わし、一度解散して各自がそれぞれのデバイスで超歌舞伎を視聴、終演後Zoomに戻って感想を語り合い創立5年の交流会を続けるというレクの流れは、美術館の入口に集合したあと自由に個別鑑賞、時間を決めて再集合し場所を移して会食、という通常の文化レクに似ていて、リアルとオンラインの違いこそあれMAAらしくてよかったのではないかと思いました。
ドワンゴが開催するイベント「ニコニコ超会議」の企画の一つである超歌舞伎は、2016年に初めて上演された「超歌舞伎・今昔饗宴千本桜(はなくらべせんぼんざくら)」が、伝統芸能である歌舞伎と現代のテクノロジーから生まれたボーカロイドの融合、先端技術を駆使した演出や新作歌舞伎の生中継などを評価され「第1回クールジャパン・マッチングアワード・グランプリ」を受賞しています。 その後毎回、中村獅童さんと初音ミクさんの共演が人気を呼んでいますが、ニコニコ超会議では生放送で中継されるその舞台をなんと誰でも無料で視聴できるのです。 会場で鑑賞するにはチケット購入が必要ですが、ネット視聴は無料。 役者さんも演出も舞台装置も映像も全部本気の本物なのに、ネット視聴は無料。 ニコニコさん、ありがとう!
さて。 この日は千秋楽。中継で映し出された会場の幕張メッセには、マスク着用・掛け声禁止などの制約はあるもののリアルのお客様がいらっしゃいます。手にしたペンライトが、これから始まる舞台への期待を表すような光を放っていました。 そしていよいよ開演となり、裃姿で登場した獅童さんが「みんなに会いたかった!」と語り掛けると、会場のペンライトが一斉に揺れ、視聴者の「おかえり!」「待ってました!」というコメントが画面を埋め尽くすように流れていきます。獅童さんの声からは、最善の方法を模索しながらこの日を迎えるまでに重ねられたであろう運営側の苦労と感謝が感じられました。 その後、ミクさんが舞台に現れ獅童さんと並んで口上を述べるのですが、二人の位置取りや声の合わせ方などは画面で見る限りとても自然で、本編への期待が高まります。
今回の演目「御伽草子戀姿絵(おとぎぞうしこいのすがたえ)」はこのあと京都・南座での公演が予定されており、これまでの超歌舞伎と同様DVD化もされるようですので、ここでは物語の詳細には触れず、楽しく、驚かされた3点を振り返ってみたいと思います。
まずは、やはりミクさんの魅力ですね。 この舞台では「初音ミク」というボカロキャラクターもほかの役者さんと同じリアルな出演者の一人。口上で獅童さんが「ミクさん」と呼び掛けるやり取りからは共演者として尊重されていることが伝わりました。 歌う(謡う)ような歌舞伎の台詞回しはボカロとの親和性が高いのか、ほかの役者さんたちとの掛け合いにもミクさんは違和感なく溶け込みます。この舞台の演出・振付を担当する藤間勘十郎さんの動きをモーションキャプチャーで取り入れた舞い姿は指先まで繊細で、「お稽古すごく頑張ったんだろうなあ」と本気で思ってしまうほど。艶やかな着物の衣擦れの音さえ聞こえた気がしました。MAAの文化レクで文楽を鑑賞したときは人形に命を吹き込むような黒子の方々に感動しましたが、ミクさんの後ろにも、その自然さを支える多くの方がいらっしゃるのですね。 その黒子さんの一人(?)が、NTTの超高臨場感通信技術「Kirari!」。こちらは2016年の超歌舞伎の動画ですが、年々進化しているということで、パソコンのモニタ越しでも圧巻の映像美です。物語の中盤、「愛し(糸し)愛しと言ふ心」の台詞と共に左右に糸を放つミクさんの姿には「演目名の『戀』の字、こう来たっ?!」と、その迫力と美しさに震えてしまいました。
そして2つ目は、歌舞伎としての確かさ。 初演時は入門的だった内容が次第に中級から上級へと本格的になってきて、今回も随所に歌舞伎ならではの「型」を守った演出がちりばめられていたそうです。知識の浅い私にはわからないことも多かったのですが、それで物語が理解できなくなるわけではありません。「わかればさらに興味が広がる」という気付きを得ることは次の歩みへの後押しになります。「超」でありながら軸足がちゃんと古典に置かれていることが伝わる舞台は、ここを入口として歌舞伎への関心を広げる、とても贅沢なきっかけになるのではないでしょうか。「温故知新」という言葉がありますが、ここでは、超歌舞伎という新しさを知ることで古典の素晴らしさに触れる、そんな楽しみ方ができる気がします。
本物としての矜持を保ちつつ見方や楽しみ方は「何も知らなくてもいい、全部わからなくても大丈夫」とこちらに委ねてくれる、そんな懐の深さが感じられる超歌舞伎ですが、でも、知らないまま見ているだけだと、それを知らないことにさえ気づけないーー。そんなときのために美術館などで用意されているのがイヤホンガイドですよね。MAAのレクでは私もよく利用していて、歌舞伎鑑賞の文化レクでは登場人物や舞台装置についての理解を深めることができました。 でも、この超歌舞伎にはそれがありません。 では、どうすればいいか。
ここで3つ目の楽しさ、ニコニコユーザーの底力です。 ニコニコ生放送の魅力の一つは視聴者がリアルタイムでコメントを書き込めることですが、超歌舞伎ではこの「知らない、わからない」を助けてくれるコメントが流れてきます。それはまるで「字で読むイヤホンガイド」です。
「解説屋!」
大向こうからの掛け声(コメント)のとおり、歌舞伎に詳しい視聴者の方々が台詞や小道具、場面について解説を書いてくれるのです。なんて素敵! 物語に沿ったユーモアあふれるコメントが次々に流れてくるのも楽しく、舞台を見ながら文字を追うのが大変でした。 そしてこのニコニコユーザーの力を信じて、超歌舞伎には会場のペンライトとコメント弾幕を生かした演出が組み込まれています。舞台と客席、画面越しの視聴者が一体となって生み出す最後の盛り上がりは本当に素晴らしく、カーテンコールでミクさんの歌声を聴きながら、舞台は幕となりました。 語彙力ゼロで言い切りましょう。
すごかった!
個人が情報や音楽を気軽に発信できるプラットフォームが増えた今、ニコニコも時代を見据え少しずつ変化していて、超歌舞伎もそんな中での新しい挑戦の一つなのかもしれません。「ボカロ=音楽」「歌舞伎=芸術文化」「ニコニコ=ネット」 こう考えると超歌舞伎は、名称にMusicを含み、芸術文化に親しむこと目的にネットの特性を生かして発足したMAAにぴったりの企画だったのではないかと感じます。そもそもMAAは理事長がニコニコに置いたコミュニティから生まれた団体で、このブロマガだってニコニコ。ちょっと忘れかけていたかもしれませんが、とってもお世話になっているではありませんかー。激戦必至に違いないですが、来年はしっかりチケット代を払って幕張でリアルに鑑賞できるといいなと思っています。 ニコニコさん、これからもよろしくお願いします!
新型コロナウイルスをめぐる状況はまだまだ予断を許さず、MAAでもオンライン中心の活動が続くことになりそうです。様々な機関がネット上で提供してくださっている素晴らしいコンテンツを活用したり独自の企画を立てたりしながら、創立5年目の活動を楽しめることを願っています。(記:パピルス)
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