橘川幸夫放送局通信

メディアに関すること(5)システムに関すること(ロッキングオン49号 1979年)

1979/05/01 10:32 投稿

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標題=メディアに関すること(5)システムに関すること
掲載媒体=ロッキングオン49号
発行会社=ロッキングオン社
執筆日=1979/05/01
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 メディア社会、もしくはシステム化社会に対する最大の恐怖は、人間を極端に2種類に分けてしまうことだ。メディアの場合だと、少数の送り手と多数の受け手。システムの場合だと、例えば、テレビは技術の進歩で、そのハードウェアはますます複雑になりブラックボックス化していくが、使用者はますます簡単に便利に使いこなせるようになる。その結果作る側はより高度な技術と理論を要求されるが、大多数の受け手側は、ボケーッとその恩恵だけを甘受していればよくなる。 

 食いもの屋の場合だと、こうなる。昔だったら特別の老舗は除いて、食いもの屋の客というのは、その周辺地域の住民であった。だから、うまい店は当然はやるし、まずい店は当然のことながら客が集まらないからつぶれる。

 しかし社会がシステム化されて、ファーストフードが盛んになってくると、うまいまずいなどという個人レベルの意識でうだうだ言ってるまえに、全地域に店が広まり、とにかく食べさせられてしまう。味覚なんて、もともと経験だから、食べる回数が多くなれば慣れ親しんでしまう。おふくろの味というのも、単に数量的に多かった味覚の体験だ。

 ファーストフードの店には「うまいものを食いたいから行く」というより「食べたくなったから行く」というカンジで行くだろう。これも、ボケーッとして与えられる「恩恵」には違いない。

 個人生活を無視した、システムのためのシステム化は無意味だ。人間はまず個人生活(意識)の充実を目指し、そこを突きぬけてシステム化にいたりつく。個人生活や生活態度がシャンとしていないところで、上から押しつけの「地域コミュニティ」などというシステムだけをあてはめようとしても、うまくいきっこない。あるいは「ニューファミリー」などという、概念(ワク)を先につくって、そこに生きた人間を押しこめようとしても破産する。

 個人と全体を結ぶフィードバック装置は絶対に必要だ。特に、食いもの屋に関するフィードバック装置は早急に必要だと思う。
(ついでだが(1)西武流通グループの堤さんは、最近「職人」をヨイショしていますが、これは何んとも奇妙です。例えば肉屋のおやじが牛を解体する、魚屋のおっつあんが三枚におろしてくれる……ぼくはこういうことを職人仕事だと思うのです。西武はこれまで、そういう発想を否定してスーパーの展開をはかったのではないか。それをいまさら「クラフトマン・シップ」だなんて。そうか堤さんのいう職人って、焼きものとか、はたおりとか、芸術的範囲での職人なんですね。なんでえ、趣味じゃねえか)。

(ついでだが(2)ROは最近、レビューの頁が投稿頁みたくなってしまいましたが、ROはすべて投稿によって成立する雑誌であります)。

(ついでだが(3)表面にあるものが本質であるなどという大昔の言葉を思い出している。本質は現象しなければならないし、現象したものだけが本質である。人間には内面も深淵もない。あなたの顔があなたそのものだ。可能性とか未来に甘えてもしょうがない。最近はなんとなく肯定的というか、世界を抱きしめてしまう夢をみたりして不可思議。例えば、角川映画に群がった人たちっているでしょ。今でも気色悪いとは思うけど、以前のように頭から批判できない。もしかしたら、あの動きも、自分が楽しむものが自分だけで楽しんでいるのではない、という一種の同時代意識を確認したい衝動ではなかったのか。内容を無視してそれをあおった角川さんや、安易にうかうかと乗ってしまう人々には腹立たしいが、それをわけ知り顔で批判した自分にも腹立たしい。時代はどんどんハードウェア的に完成されている。完成に近づけば近づくほど、ぼくたちの入りこむ余地がなくなり、さびしくなってくる。そして、ついに「遺書を残す相手すらもいない」という完全な孤独のなかで、子供たちが死んでいく。ぼくたちには、まだ「遺書を書くために自殺する」という種類の、ごまかしの余地が残っていたのに。ぼくたちの完成はまだとおい。

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