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標題=メディアに関すること(5)読者に関すること
掲載媒体=ロッキングオン49号
発行会社=ロッキングオン社
執筆日=1979/05/01
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ここのところ疲労のためか、体中に電気が走ってしょうがない。夜などは肉体はぐくっと沈んでしまうんだけど、頭の中では電気が放電しているようなのだ。酒などを飲むとすぐまいってしまう。感性がヒリヒリしてしまうのだ。こないだなんか、マムシ酒のマムシの頭をくいちぎってしまった。ひええい。
ROの読者ってなんなのか、ずうっと考えているんです。8年間という不思議な歴史を作ってしまったんだけど、スタッフの側には、ひとりひとり違う種類のものだけど、読者に対する、ある種の信頼感と絶望感があるはずだ。そのことはすでに個別に表明している。
ぼくの場合だけど、何年か前に「みんなはまだ若いけど優秀なんだから、あと数年して社会に出て仕事をはじめれば・・・・・・云々」という、ひどく調子の良い、無責任なことを言ってしまったことがある。もしかしたら、こういう、ぼくらの期待じみた信頼感が、逆に「RO病」みたいな気色の悪い人種を生み出してしまったのかもしれない。
・・・・・・ちょっと言葉がつまったので、言いたいことを整理します。(最近は整理しきれない断片的な想いが、次から次へと湧いてきて、苦労する)。
(1)ROの長い読者には、1つのことを言えば2つも3つものことを分ってもらえる。でも、もうそんなことで分りあいたくない、と思った。
(2)RO(に限らないが)を読んで、それを客観的な言葉としてとらえ、金科玉条のごとく言いまわすなんて、アンアンを読んでそこに載ってるのと同じ格好するのと、なんら変わらない。メッセージが単に言葉や表現でしかないのなら、それはただ、ファンとエピゴーネンを生産するだけだ。
(3)渋谷が言ってるように、8年間で実に多くの人が群がってきた。大半が、かっこいいことを一言いって消えてしまった。ぶざまな現実を一緒に引きずってはくれずに、それとはかけはなれたところで御意見たれてくれただけだ。現実をになっているという認識の欠けた(別にROをになっているという意味ではない。この今を共に生きるということだ。)言葉は、単なる語呂合わせだ。まあ、人それぞれ事情があるのだろうけど、みんな何をしてるんだろう。
(4)さて、これは女房に言われてしまったのだけど、問題なのはメディアの上で分りあったり納得したりすることではない。メディアを利用して発言する、ひとりひとりの生活が充実しなければ意味がない。ファッション雑誌、インテリア雑誌・・・・・・すべて雑誌の中だけ充実している。それを作ったり読んだりする人、ひとりひとりの生活を、どう想像すれば良いのだ。メディアの上で「あるべき世界像」をイメージしあうことは、それが書き手と読み手の具体的な行動につながらないなら、北欧家具でデコレートされたインテリア雑誌を安アパートの一室で、ステキだなぁ、と、ながめている風景と同質だ。
(5)他人を変えることはできない。人間が人間を変えられるのは、かろうじて自分自身だけだ・・・・・・これは、60年代の終わりに確認済だった。ぼくはあなたを変えることが出来るなどというゴーマンなやさしさを持ちあわせていない。ちっぽけな自分のことで精一杯だし、誰だってそうなのではないか。ぼくは、ただ、ぼく自身を変えようとして、その経過なりをこの雑誌で報告してきただけだ。この世界での、ぼくの役割り(パート)を見つめようとしてきただけだ。自分を表現しようとか分ってもらおうとしたわけではない。
(6)やばいのかなあ、と思うこともある。だけど、ぼくにはもう「地獄から帰ってきたもののやさしさ」も「天国から帰ってきたものの残酷さ」も必要ない。今を生活するだけだ。一生の問題を決定する瞬間も、今晩の夕メシを何にするか決める瞬間も、同じように大変なことだし、同じように何気なくやりたい。
(7)ぼくは、正しいことを言うために何かいろいろ言ってるわけではない。なんとか、正しい方向を見つけようと思って、いろいろ言ってきたんじゃないか。だから・・・・・・。
(8)これまで何人かの人に「よく、ROって煮つまりませんね」と言われた。ぼくたちのコトバには、書いた人の生活があったはずだ。言葉は煮つまることはあっても、生活は煮つまりはしない。生きている限り煮つまらない。毎日、生産していくものがあるからだ。むしろ<メディアの上の世界だけが現実>と錯覚し、そこにひたりこみ、自分自身の生活と現実をなおざりにしたものが、勝手に煮つまってしまった。ぼくは今、メディアの上だけで煮つまる方法論はダメだと考える。メディアの上で完結してしまう、カッコヨイ破滅もキンキラキンの栄光もダメである。そこには当事者の生活がないからだ。生きつづけるという瞬間の連続がないからだ。ぼくたちがスターを必要としなくなったのも、単にアキたからではなく、そこにはちゃんとした意味があったはずだ。あなたは確認してありますか?
(9)すでにこれまで何人もの人が煮つまってしまった。突然、ぼくの視界から消え去ってしまった人も多いし、ぼくの知ってる限りでも数人の人の精神が破滅してしまった。むしろ、ここで今、あいもかわらずおめでたい原稿を書くことのできるぼくの方が破滅しているのかもしれない。そして、平然と、いかにも何食わぬ顔して、何もなかったような顔をして毎日をやり過ごしている人の方が、破滅の度合は深いのかもしれない。いや、言葉に酔うのはよそう。ぼくは、ただ、出会った人とは一生ちゃんとつきあっていきたいだけだ。
(10)夜はいつもエロチックだった。一晩中ぼくはしゃべりまくっていたのに、君はいつも笑って受けとってくれるだけだった。ぼくが、君の子供にぼくの子供をはらませようと企んでいたことは、とっくにみすかされていたんですね。ごめん。伝言だけ伝えて、あとは誰かにやってもらおうなんて、許しがたいな。
(11)街は白く明るい。10年前のマンガ雑誌を開くと、今も、あの時と全然かわらない豊かな女がピンナップ写真の中で笑っている。ロックはなぜあの時、あんなに大きな音でなくてはならなかったのだろう。そして、なぜ、今のロックは音が小さいのだろう。なぜ?
どうして、バトンを持ったまま、どこかに行っちゃうの、なぜ?
ぼくはもう29才です。だけど大学のキャンパスを歩くと、まわりの人がみんなおじいやおばあに見える。なぜ?
読んでくれてありがとう。なぜ?
(12)部屋の、そこら中に「なぜ?」と語りかけて、ついに「なぜ?」の重さに押しつぶされてしまった友人のことを思い出してしまった。ぼくだって同んなじようなものさ。今晩は、まだたくさんしゃべるつもりだけど、紙の上に載せられるのはこれ位のもんだろう。ぼくは信じる側の人間だ。
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橘川幸夫放送局通信
橘川幸夫
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