電書革命(Twitter連投 2010年)
1●マスコミは「電子書籍元年」と呼び、電子書籍の時代が本格的に登場したというファンファーレを鳴らしている。日本の出版関係者の間でも、集まれば話題の中心は電子書籍だ。果たして、電子書籍は日本の出版業界に何をもたらすのだろうか。
2●18世紀の後半にイギリスでスタートした産業革命は、人間の労働力を機械に依存するようになり、生産の効率化と拡大を果たした。余剰価値と余剰時間が生まれ、資本家と余暇という概念が生まれるようになり、近代的な個人の成立基盤となる。
3●私たちの読書という習慣は産業革命なくしてありえなかっただろう。しかし、その革命において、それまで肉体を行使して生産につとめていた多くの肉体労働者や技術者が職を奪われることになり、ラッダイト(機械打ち壊し)運動がヨーロッパ各地で起きた。
4●20世紀、コンピュータの登場により、同じように職を奪われそうになった事務処理労働者たちは、似たようなコンピュータ打ち壊し騒動を起こしている。
5●我が日本でも、コンピュータによる事務合理化に反対した組合などは、「コンピュータの導入は認めるが、今まで通りの帳面記帳作業は残せ」という、訳の分からない要求をして、長く、そうした無駄な人件費が支払われていたのである。
6●日本の出版文化は、明治の近代化による印刷技術の発展と轍を一にする。オフセット印刷による大量生産のシステムが出来たからこそ、100万部のベストセラーが登場し、最盛期800万部と言われた少年ジャンプの発行が可能になったのである。
7●その延長線上に登場したのが、電子書籍という近代の印刷技術とは無縁の異邦人である。無縁どころか、印刷業界、書籍流通業界を無用にしてしまう破壊者である。
8●現状の電子書籍コンソーシアムの賑わいは、電子書籍の未来への期待と渇望というより、職を奪われる側が中心となって作られた、非暴力のラッダイト運動ではないかと思われる。
9●メーカーはともかく、中心になるべき出版社の煮えきれない態度がそれを表している。電子書籍コンテンツの流通の拡大は確実に、既存のリアル書籍の売上げを、今まで以上に押し下げるのは明白だからである。
10●グーグルの電子書籍化の提案に対し、日本の出版業界は業界をあげて反対し、全く停滞したままだ。アメリカでは、グーグルの呼びかけに応えた出版社数はすでに25000社を超え、ほぼ大半の出版社が参加していることになる。
11●日本は反対するだけで、独自の道を探るわけでもなく、放置のままである。無気力なラッダイト運動と言われても仕方ないだろう。
12●日本の出版業界は、ニューメディアの時代から、こうした方法でぬらりくらりと時代の流れを停滞させながら生き延びてきた。しかし、永久に未来から押し寄せる波から逃げ切れるものではない。
13●こうした閉塞状況の中で、ユーザーである読者の側から、世界的にも類を見ない、全く新しいムーブメントが起こりつつある。それは、版元が電子書籍を販売しないのなら、自前で電子書籍を作るという「自炊」と呼ばれている行動である。
14●自分で購入した書籍を、断裁機とドキュメントスキャナーでPDF化し、iPadやKindleで読むのである。スキャナーは、評価の高い富士通のscansnapが爆発的に売れており、電子書籍自炊の流れが、少数のマニアだけのもではなくなっていることを示す。
15●無気力なラッダイト運動の既存出版社に対する、強烈な草の根ユーザーの反乱であり、この流れは更に加速されるだろう。この動きは、日本の出版業界にとって無視できない大きな動きになるはずだ。
16●ちなみにアメリカでの自炊の動きは聞かない。なぜなら出版社が電子書籍コンテンツ化しているので、手間暇かけないでもKindleで安く購入できるからである。
17●すでに書籍のスキャン代行サービス会社が数社、登場していて自宅にある本を宅急便で送付すると、1冊100円でPDF化してくれる。また、自炊向けの本の断裁サービスを行う製本業者も現れた。
18●断裁後の本のリサイクルを扱うサイトも登場したが、これはさすがに早々と撤退した。あくまでも個人で購入した本を個人でPDF化して電子書籍化することは、法律的に何ら問題はない。
19●狭い住環境の中で大量の蔵書の山に、奥さんに嫌味を言われながらも、捨てるには惜しいと思われてる方は多いのではないか。自分の蔵書を電子化すれば、すべて解決がつく。
20●書籍の電子化は、出版社がイニシアチブを取る前に、個人のレベルで急速に拡大しているのである。
21●近いうちに、アマゾンジャパンが、データのダウンロード販売サービスを開始するという情報が入った。アメリカではすでにサービスインしているが、さまざまなデータ情報をダウンロードで販売するサービスが、本格化するだろう。
22●他人の書籍のPDFデータを販売するのは犯罪であるが、著者自身が、自分の原稿テキストを再編集してPDFデータとして販売することが安易に可能になる。出版社・書店を中抜けして、著者が個人出版社になれる体制が着々と進んでいるのである。
23●電子書籍の革命は、単に書籍を電子機器で閲覧することだけではなく、近代の印刷・流通にもたれかかっていた版元の立場を崩壊に追い込むだろう。
24●インターネットはさまざまな局面において、根底的な中抜けを果たして古い業界に衝撃を与えた。出版業界も、著者がインターネットの海を介して、直接、読者と結合することが出来るようになる。
25●書籍の編集は、音楽の世界におけるバンド活動に近いものになるであろう。著者と編集者とデザイナーとエンジニアがいれば、自分たちの好きな電子書籍が作れる。
26●バンドとリスナーが直接つながってしまえば、どんなに巨大であろうとも老舗であろうとも出版社の組織的なスケールに意味はなくなる。
27●近代における出版社の役割は金融である。印刷費や編集費の投資を行う必要があったから組織の規模は重要であった。しかし、電書においては印刷費は不要。クリエィティブは、それぞれが自分の能力を持ち合い、売上げの配分を決めればよいだけ。
27●旧来の出版人は「電子書籍においても編集作業は必要だ」と言う。しかし、それは、編集者という個人が必要なのであって、出版社という組織が必要なのではない。
28●まして、老舗ブランドや書店店頭の棚取りなどの既得権益にあぐらを書いて、編集もデザインも外注に任せていた出版社には、電子書籍時代には存立する理由がない。
29●私たちは、多種多様な電書書籍バンドの呼びかけを行っている。デンピカ参照。http://bit.ly/aHRzc1
30●電子化の波は、紙に印刷してトラックで全国の書店に運ぶビジネスモデルの上で成長してきた出版社にとっては、やっかいで、出来たらかかわりたくない存在であると思う。そして、出版業界には、もうひとつ、やっかいな存在がある。ブックオフである。
31●ブックオフに代表される新古本流通は、旧来の業界にとってはアウトサイダーであり、著者や版元に利益の還元のされない嫌われ者である。
32●この新古本というビジネスが生まれる以前に、違う動きがあった。駅のホームのゴミ箱などに捨てられていたマンガ週刊誌をホームレスが拾って、駅前で100円で売り始めたのだ。
33●80年代後半ぐらいだっただろうか。当時、元少年マガジンの編集長だった故・内田勝さんと雑談していたら「橘川くん、あのホームレスが売ってる古本、市場規模が100億円だってさ。その分、出版社の売上が落ちてるわけさ」と聞かされた。
34●その数字がどういう調査なのか分からないが、そんなもんだろうな、と思ったことがある。
35●それで僕は内田さんに言った。「あきらかに出版社に不利益なビジネスなのに、出版社やマスコミが何の抗議もしないのは、あれがリサイクルだからじゃないですか」と。
36●出版社の人間はインテリなので、大量生産・大量消費の弊害は心の底では理解している。古い出版人は返本の多い本を作ると自虐的に「ああ、またゴミ作っちゃった」ということがあった。
37●また社会正義に強い人も多いので、大量生産されたマンガ雑誌を、ホームレスが拾い集め、販売して自分たちの生活資金にする姿を、あからさまに否定することは出来なかったのではないか。
38●オウムのサリン事件をきっかけに駅のゴミ箱が撤去されたことにより、ホームレスの雑誌販売は減ってきた。そのあたりから急速に拡大したのがブックオフである。
39●創業社長は「ゴミを売ってるんだから儲かりますよ」と言っていたと思う。
40●さて「ブックオフ」と「電子書籍」この出版業界の嫌われ者同士が結合するという悪夢が出版業界を襲う。その本を買って、自炊すれば、安価な電子書籍が出来上がってしまうのである。
41●ベストセラーほど、ブックオフやアマゾンのマーケットプレイスでいくらでも安価に入手できるので、それを自炊すれば良いことになる。
42●すでに、自炊サービスの会社では、アマゾンや楽天で購入した本を直接、サービス会社に送付してPDF化して、お客にはPDFデータをダウンロードして届けるという仕組みを開始している。
43●出版社がいくら著作者の電子化の権利を押さえ、電子書籍化をこれから本格的に推進しようとしても、新古本の流通がそのままであれば、その努力も水泡に帰すかも知れないのだ。
44●出版社が電子書籍の新しい流れに飛び込むのを躊躇している間に、事態は思わぬ方向に動き出してしまった。
45●「電子書籍と言っても、ベストセラーしかコンテンツにならないのでしょう」と訳知り顔に言う識者もいるが、むしろ事態は逆の方向に動いているのではないか。
46●電子書籍市場では、ベストセラーよりも、マスヒットはしなかったが、丁寧に作られた、3万人のための良書が、長い期間をかけて売れていくロングテールモデルが実現するのではないか。
47●小規模な専門出版社や、地方で地道な活動をしている出版社などに電子書籍の可能性が広がっている。
48●出版社が万を期して電子書籍事業に本格参入しても、その時はすでに、ベストセラー書籍は読者のiPadやKindleの中に大量に眠っていることになるかも知れない。
49●既存出版社のサボタージュ的ラッダイト運動により、逆に著作の権利を持つ著者に、考える時間を与えてしまったのも、ビジネス戦略的にはマイナスであったろう。
50●twitter上では、出版社が提示した印税が15%というのは納得いかないというような議論を沸騰している。
51●グーグルの黒船が来た時に、わからずやの著者を説得して、一気に電子書籍化に舵を切れば、出版業界も今は別の状況になっていたはずである。現在の権利に固執する余り、未来の権利を喪失したのであろう。
52●いずれにしても電子書籍は、まだ本格的に登場したばかりである。アップル社が先行したが、日本の家電メーカーやグーグルなども、追撃態勢をとっている。
53●日本の出版社だけが、のんびり穴熊戦法をとろうとしても、大地ともども根こそぎ大波にさらわれて丸裸にされてしまうのは目に見えている。
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橘川幸夫放送局通信
橘川幸夫
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