1991年頃、私はカナダに赴任していた。べラフォンテがオタワに来た。歌手と楽団と観客が一体となって「ジャマイカさよなら(Farewell,)」を歌う時、「ああ、これがエンターテイナーか」と感心した。今でもこの歌を聞くと、カナダのホールにいた心地が蘇る。
幸い、ロンドン、モスクワ、ボストンとクラシックの盛んな都市に赴任した。ボストンでは家族四人が定期的にボストン交響楽団を聴きに行った。と言っても金がないから公式の演奏会ではない。講演直前、最後のリハーサルを一般公開する。指揮者が時々ストップして指示をした。だが私に最も強烈な印象を残しているのはイラクの首都でのバグダッド・オーケストラの定期演奏会である。当時イラン・イラク戦争の最中だった。月一回はイランからミサイルが飛来した。建物が破壊し、道路に穴があく。その中で生きていた。隔離された地域でひたすらペストの終焉を待って生きていくカミュの『ペスト』