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【第210号】『アリータ: バトル・エンジェル』とキャメロンの異常愛

2019/02/27 07:00 投稿

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マクガイヤーチャンネル 第210号 2019/2/27
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おはようございます、マクガイヤーです。

まだ大丈夫、まだ異常なし……と現実から目を背けていたら、とうとうやってきました、花粉症の季節が。

今年は鼻水というよりも、目が痒くて痒くてしょうがないという症状なのですが、頑張って耐えていきたいところです。




マクガイヤーチャンネルの今後の放送予定は以下のようになっております。



○3月10日(日)19時~「俺たちも昆活しようぜ! Volume 2」

昨年の8月、ご好評頂いた昆虫回が帰って参りました。

今回も昆虫にちょう詳しいお友達のインセクター佐々木さん(https://twitter.com/weaponshouwa)をお呼びして、昆虫の魅力について語り合う予定です。

漫画に出てくる昆虫……果たしてどんな昆虫話が飛び出すのか?!

ちなみに前回の放送はこちら




○3月20日(水)19時~「映画『バンブルビー』公開記念 トランスフォーマー講座」

3月22日より映画『バンブルビー』が公開されます。

実写映画版『トランスフォーマー』の7作目にしてスピンオフですが、『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』で名を馳せたトラヴィス・ナイトが監督を務め、既に公開された米国ではシリーズ最高傑作と評判も高いです。

そこで、当チャンネルでは映画公開前に、玩具を中心としてトランスフォーマーの魅力を再確認できるような放送を行います。

ちなみに前回の放送「トランスフォーマー 上級編」はこちら

ただいま出演して頂ける豪華ゲストを調整中です!



○4月前半(日時未定)「俺たちの『スーパーロボット大戦』」

3月20日にPlayStation 4/Nintendo Switch用ゲームソフト『スーパーロボット大戦T』が発売されます。また、年内にはスマートフォン用ゲームアプリで初のシミュレーションゲーム系システムが採用された『スーパーロボット大戦DD』が配信予定です。『スーパーロボット大戦』シリーズの最新作になります。

1991年のGB版『スーパーロボット大戦』発売から28年、シリーズも50作(数え方に諸説あり)を越えた「スパロボ」は、いつの頃からか単なるお祭りや公式二次創作やロボットアニメ回顧コンテンツではなく、「スパロボ」ならではの新しい魅力を産み出すようなムーブメントになってきました。

そこで、シリーズの歴史や魅力を振り返りつつ、「スパロボとはなにか?」に迫るような放送を行ないます。

アシスタント兼ゲストとして、友人の虹野ういろうさん(https://twitter.com/Willow2nd)をお招きする予定です。



○4月後半(日時未定)「最近のマクガイヤー 2019年4月号」

詳細未定。

いつも通り最近面白かった映画や漫画について、まったりとひとり喋りでお送りします。



○文学フリマに出店します。

5月6日に東京流通センター第一展示場にて開催される第二十八回文学フリマ東京に出展します。

藤子不二雄Ⓐ作品評論本を売る予定です。



○『やれたかも委員会』に取材協力しました。

『やれたかも委員会』(https://note.mu/yoshidatakashi3/n/na63c34ee5adc)の「童貞からの長い手紙」に取材協力しました。単行本1巻分のエピソードになるそうです。

ちなみに基になったお話はこちら

https://ch.nicovideo.jp/macgyer/blomaga/ar1011063





さて、今回のブロマガですが、ドキドキしながら映画『アリータ: バトル・エンジェル』を観たので、その話をさせて下さい。



●『アリータ: バトル・エンジェル』と『銃夢』

『銃夢』は1991~95年にビジネスジャンプで連載されたSFアクション漫画です。記憶を失ったサイボーグである主人公の少女ガリィ(映画ではアリータ)が、強敵との戦いを通じて生きる意味や過去の記憶を発見していく……というのが、だいたいのストーリーになると思います。

アラフォー男子の例に漏れず自分も『銃夢』がめっちゃ好きで、だからこそ『銃夢』の映画化作品である『アリータ: バトル・エンジェル』には複雑な心境でした。


・長年アナウンスされていたキャメロンではなくロバート・ロドリゲスによる監督

・プロモーション映像に出てきた異様に眼が大きいCGIキャラクター

・そこはかとなく漂う『DRAGONBALL EVOLUTION(2009)』『ゴースト・イン・ザ・シェル(2017)』と同じ類の雰囲気

『ジャスティス・リーグ』と同じく、Rotten tomatoでのTomatometerとAudience Scoreの剥離


……なんか、どうしても期待しちゃうのだけど、あんまり期待しないで映画館に行くのが良さそうだわあ……という話をニコ生でもブロマガでもしましたね。


で、公開日である2/22、ドキドキしながら映画館に行って『アリータ』を観たのですが、これが思いのほか面白かったのですよ! いや、良かったねぇ。



●お着替えしまくるアリータと「不気味の谷」の逆利用

なにが良かったかというと、普通のアクション映画としての出来の良さ――


・単行本1~2巻の内容に「『アリータ』といえばこれをやんなきゃウソだろ?」と先出しな感じで「モーターボール」要素を入れてもギリギリ破綻しない構成(スタジアムの外に出るのは上手いですね)

・野良モーターボールや防御リングといった観客が始めて目にする異物を、先出しして説明して伏線も張る丁寧さ

・主人公を必ず画面中央に配し、高速なのに何が起こっているのかきちんと分かるアクションシーンの描き方の上手さ


――といった点も良かったのですが、自分が注目してしまうのはやはり主人公であるサイボーグ少女アリータの「お着替え」です。


映画は、クズ鉄町の中心部にあるゴミの山の中から頭部だけのアリータをイドが見つけ出すところからはじまります。この時、アリータに髪は無く、ところどころ破損してメカ部分が剥き出しになっており、顔の生体(にみえる)部分と相まって、いかにも痛ましい感じなのは原作と同じです。

サイバネ医師であるイドはアリータを自宅のサイバネ病院に持ち帰り、修理します。この時、アリータに与えられたボディが、全身に装飾が入りつつ、一部がギラついた金属、一部が半透明の強化プラスチックらしきものでできており、フェチ感溢れるものであるのがたまりません。関節部分に可動用のスペースが多めにとられていて向こう側がみえたり、おなかの部分だけ透明度が高かったりするあたりに、言い逃れできないフェティシズムを感じてしまうのです。


プロモーション映像では、異様に大きな眼によるキャラクターデザインが話題でしたが、実際に映画を観ると納得してしまいます。眼というか、瞳の大きな眼球を持ったアリータは、「人形」そのものです。そして、この眼による感情表現と、普通の眼を持ったその他のキャラクターとの比較が重要だったのです。日本のアニメや漫画、特に原作の作画を意識したのは勿論でしょうが、これを「人形」、それも「人間の心を持った人形」という表現に落とし込んだのが上手い。「不気味の谷」を逆に利用する上手さ、とでも表現すれば適当でしょうか。


嗚呼、これを作ったやつらは球体関節人形にエロを感じて、いい年こいたおっさん(あるいはおばさん)になっても毎晩フィギュアやプラモデルで遊んでいて、現実の女と人形の女が混淆となった存在にえもいわれぬ魅力を感じていて、そのことを理論武装している押井守みたいなやつに違いない……ということが、同族の一人である自分にはよく分かります。


この種のフェティシズム表現については、『ゴースト・イン・ザ・シェル(2017)』は完全に失敗しており、『ロボコップ(2014)』『エクス・マキナ(2015)』はあともう少しという感じでしたが、またしても完成形を出してきたのがキャメロンだったということに、感慨深いものがあります。特に、「人間の心を持った人形」という点では『ゴースト・イン・ザ・シェル』と同テーマなわけで、SF映画は本当に作り手のセンスが出るのだなあと痛感してしまいます。


『アリータ』が凄いのはここからで、そのフェティシズム溢れるボディを、なんと服で隠すわけですよ。しかもシーンごとに、ダサい体操服であったり、花柄の寝巻きっぽい部屋着だったり、若干色気づいた紫のニットだったりと、特に映画前半では頻繁に着替えます。映画後半ではコートだったりレザーだったりと、原作準拠の、そしてちょっとオトナっぽい服装になります。

ここで重要なのは、サイボーグが金属剥き出しボディでうろうろしていてもそれほど恥ずかしくない世界観であること(背中にタトゥーならぬアステカカレンダー様の彫刻を入れているザパンはむしろ誇示しています)と、アリータはモーションキャプチャーを基にしたCGIキャラクターであり服を着た日常シーンの方が観客が違和感に気づきやすいという点でアクションシーンよりもハードルが高いことでしょう。にも関わらず、アリータに服を着て野良モーターボールをしたり、チョコレートを齧ったりさせてるわけです。


原作では、連載と共に上がっていく著者 木城ゆきとの画力に相まって、ガリィの髪描写がどんどん多彩になっていくことが隠れた見所の一つだと考えているのですが、映画『アリータ』でも「水で塗れた髪」とか「レース中にヘルメットがとれて風に流れる髪」といったものをしっかりやってます。前者は、欧米の映画によくある、水の中に入るカトリックの洗礼と主人公の(まるで生まれ変わったかのような)成長(の予感)を重ね合わせた描写で、だからバーサーカー・ボディはどんなに重くても老婆のように背中に抱えるのではなく子供のようにピエタ抱っこをしなくてはならないのですが、いつもと違う塗れた髪形だと非キリスト教圏の人間にもなんとなく聖的で特別なシーンであることが分かるという良い演出でした。


つまり作り手は、「好意を持っているヒューゴの前でサイボーグのボディを恥ずかしがるアリータ」とか、「少女の成長や内面の変化に合わせて変わっていく髪や服装と、その延長線上としてのサイボーグ・ボディ」というのを1.7億ドルの制作費のうち数千万ドルをかけてやってるわけなのですが、はっきりいってこれはかなり成功しているといって良いのではないでしょうか。本作はアメリカでもヨーロッパでもアジアでもヒットしているのですが、映画後半に置かれたアクションシーンに感情移入できるのは、映画前半でしっかりと「何者でもなかった主人公が、恋を知り、己を知り何者かになろうとする」という普遍的なさまを描いているからでしょう。


また、本国ではPG-13指定なせいか、人間はおろか犬すら惨殺シーンがスクリーンに直接映ることはありませんが、サイボーグはどんなに残酷にバラバラになってもOKというのもみどころでしょう。あ、これはテレビ版の『ロボコップ・ザ・シリーズ』が先にやってましたね。



●異常な原作再現愛

もう一つ『アリータ』のみどころを挙げるとすれば、ハリウッド映画の定型を無視してでも原作を再現しようとしているところでしょう。

たとえば、ハリウッド製アクション映画では、最初に観客の心を掴むアクションシーンがあるのが常道ですが、本作は「神話的なゴミ捨て場と黄昏時のクズ鉄町」という、しっとりとした美しいシーンから始まります。これは原作通りなのですが、『アバター』も導入部は未来の葬式シーンでしっとりしていたからなあ、などと考えていると、イドへの疑念で話が進んでいくのも原作通りです。(隔)週間連載漫画特有の「次回への引き」が、映画前半で観客を感情移入させる仕掛けに利用されているわけです。

 

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コメント

アバターを見直して感じたのですが、キャメロンはこの映画がまさしくアバターがそうであったようにありがちな「白人によるマイノリティ理解モノ」(ジャンルとしては政治意識が高いものの、大前提としてマジョリティ目線で植民地主義的なパラダイムから抜け出せていない)になってしまう事を避けたかったではないでしょうか。マクガイヤーさんがご指摘の原作再現愛、改編部分やこの映画の制作体制の座組そのものもこの「脱植民地主義的パラダイム」の観点から理解すると腑に落ちる気がします。

No.1 69ヶ月前
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