みなさん、こんにちは。6月最初のむしマガをお届けします。
先週あたりからパリも初夏のような陽気に包まれています。そんな心地良い空の下で、我が家はプチ改装作業をしています。
いや、ただ新しく買った家具を壁に取り付けたりしているだけなんですけどね。
・とあるフランス人大工さん
といっても結構な手間がかかるので、家具を取り付けてくれる方を日本人向けのパリ情報サイトで募集してみました。お小遣い稼ぎをしたい学生さんにでも来てもらえれば、と思っていたのですが、日本人妻をもつフランス人のプロの大工さんに来てもらえることになりました。
この方、さすがプロというだけあって作業が的確で速い速い。しかも僕が気付かなかった配水管の問題を指摘してくれたりと、ものすごく親身に仕事をしていただきました。
そして朝から夜までずっと働き通しというのに、こちらがご飯を差し出しても口にしようとしません。結局口にしたのはコップ一杯の水だけ。
申し訳ないと思い、最初にオファーした日給に色を付け手渡させてもらいました。その後、お礼のメールを日本人の奥さんに送りました。
奥さんからの返信メールには、こう書いてありました。
このフランス人の旦那さんは言われた仕事だけをしてお金をもらえばいい、という人ではないということ。自分の妻が日本人だから、フランスにいる日本人をとにかく助けたいという強い使命感を持っていること。
電車の中でも日本人観光客を見かければ、あなたのバッグの持ち方ではスリに狙われる、などのアドバイスをしているそうです。
しかし悲しいことに、このような善意でしていることがちょっと変な行動に見えて、大半の日本人からは敬遠されてしまうとのこと。
日本人宅の改装工事で色んなアドバイスをしても、余分な金を巻き上げようとしているんじゃないかと疑われてしい、奥さんはもどかしく悲しい思いをしているそうです。
確かに、フランスでは日本に比べて何かにつけて非道徳的なお金の稼ぎ方をする業者が多い気がするので、警戒心をもった日本人からはそんな風に見えてしまうのかもしれません。
しかし、フランスにもこの旦那さんみたいな人、今の日本ではまずお目にかからない善意の塊のような人がいるということを知り、何かの傾向を国や人種で一括りにしてはいけないなと強く感じました。
この旦那さんの本意に気付く日本人がもっと増えてくれることを願っています。
★クマムシトリビア その9
読者からのクマムシにまつわる様々な疑問に対して堀川が回答します。
◆ 質問:
近所のコケからクマムシを見つけました。何の種類か知りたいので、ぜひ鑑
定してもらえないでしょうか?(その3)
◇ 回答:
前回はクマムシの標本作りの話をしました。今回は、クマムシの種を見分けるための観察の主なポイントをお話しします。
・外皮
クマムシは、異クマムシ類と真クマムシ類に大きく分けられます。まず、外皮をチェックして、どちらのグループのクマムシなのか見極めます。もし、そいつが鎧みたいな外皮を持っていれば異クマムシの仲間、持っていなければ真クマムシの仲間です。
異クマムシ
真クマムシ
・体表面の突起
体の表面に出ている突起の有無、そしてその位置や数は、クマムシの種を判断するのために重要な指標になります。真クマムシでは突起を持つ種類は限られますが、異クマムシでは様々な突起のパターンが見られます。
・爪の形と大きさ
爪の形や大きさも大事なポイントです。クマムシの仲間はシャープな爪を備えていますが、この形や大きさが種類ごとに違うのです。
クマムシ(Dactylobiotus dispar)の爪
たとえば真クマムシの仲間では、チョウメイムシの爪が短い傾向にあり、ヤマクマムシの仲間は爪が長く大きい傾向にあります。ちなみに、私が飼育しているヨコヅナクマムシもヤマクマムシの仲間です。
爪の長さは数ミクロン(1ミクロンは1000分の1mm)ほどで、これを高倍率の顕微鏡を使って測るのですが、これは本当に細かくしんどい作業です。僕はこの作業を経験して心にダメージが蓄積していくのを感じ、自分が分類の研究者には向いていないことを悟りました。
・ところで
ここで色んな種類のクマムシの名前が出てきて、混乱されている方もいるかもしれません。真クマムシや異クマムシは「綱」というレベルでの分類です。チョウメイムシやヤマクマムシは「科」のレベル。ヨコヅナクマムシは「種」のレベルです。つまり、
綱>科>種
という順に分類が細かくなっているわけです。本当はこれらのレベルの間にもいくつかのレベルがあるのですが、詳しく説明すると余計にややこしくなるので割愛します。
・卵の突起の形
クマムシでは卵の突起の形も種ごとに異なり、多様性に富んでいます。あるものは針のようなものを、そしてあるものは吸盤のような突起を持っています。
クマムシ(チョウメイムシの一種)の卵
クマムシ(ヨコヅナクマムシ)の卵 (右: 通常状態 左: 乾燥状態)
とはいえ、卵の突起の形だけで種を特定することはできません。ですので、卵を水の入ったシャーレの中にいれて数日間放置し、卵の中で個体の発生が進んで器官が発達したところで標本を作ります。
こうして卵を観察すると、中の孵化前の個体が透けて見えるために観察することが可能です。つまり、卵の突起とその中の個体の形態特徴を観察することで、より信頼性の高い種の同定が可能になります。
ところで、卵をコケや土の中から見つけるのは、非常にくたびれるものです。幼体や成体のクマムシならば動いているので見分けやすいのですが、卵は動かない上に小さいからです。クマムシ分類研究者泣かせの作業と言えるでしょう。
・口管の長さと幅の比
クマムシの咽頭にある口管という器官は非常に固く、標本になってもあまり形が崩れません。この口管の長さと幅の比は種ごとにほぼ一定で、pt比と呼ばれます。
先週あたりからパリも初夏のような陽気に包まれています。そんな心地良い空の下で、我が家はプチ改装作業をしています。
いや、ただ新しく買った家具を壁に取り付けたりしているだけなんですけどね。
・とあるフランス人大工さん
といっても結構な手間がかかるので、家具を取り付けてくれる方を日本人向けのパリ情報サイトで募集してみました。お小遣い稼ぎをしたい学生さんにでも来てもらえれば、と思っていたのですが、日本人妻をもつフランス人のプロの大工さんに来てもらえることになりました。
この方、さすがプロというだけあって作業が的確で速い速い。しかも僕が気付かなかった配水管の問題を指摘してくれたりと、ものすごく親身に仕事をしていただきました。
そして朝から夜までずっと働き通しというのに、こちらがご飯を差し出しても口にしようとしません。結局口にしたのはコップ一杯の水だけ。
申し訳ないと思い、最初にオファーした日給に色を付け手渡させてもらいました。その後、お礼のメールを日本人の奥さんに送りました。
奥さんからの返信メールには、こう書いてありました。
このフランス人の旦那さんは言われた仕事だけをしてお金をもらえばいい、という人ではないということ。自分の妻が日本人だから、フランスにいる日本人をとにかく助けたいという強い使命感を持っていること。
電車の中でも日本人観光客を見かければ、あなたのバッグの持ち方ではスリに狙われる、などのアドバイスをしているそうです。
しかし悲しいことに、このような善意でしていることがちょっと変な行動に見えて、大半の日本人からは敬遠されてしまうとのこと。
日本人宅の改装工事で色んなアドバイスをしても、余分な金を巻き上げようとしているんじゃないかと疑われてしい、奥さんはもどかしく悲しい思いをしているそうです。
確かに、フランスでは日本に比べて何かにつけて非道徳的なお金の稼ぎ方をする業者が多い気がするので、警戒心をもった日本人からはそんな風に見えてしまうのかもしれません。
しかし、フランスにもこの旦那さんみたいな人、今の日本ではまずお目にかからない善意の塊のような人がいるということを知り、何かの傾向を国や人種で一括りにしてはいけないなと強く感じました。
この旦那さんの本意に気付く日本人がもっと増えてくれることを願っています。
★クマムシトリビア その9
読者からのクマムシにまつわる様々な疑問に対して堀川が回答します。
◆ 質問:
近所のコケからクマムシを見つけました。何の種類か知りたいので、ぜひ鑑
定してもらえないでしょうか?(その3)
◇ 回答:
前回はクマムシの標本作りの話をしました。今回は、クマムシの種を見分けるための観察の主なポイントをお話しします。
・外皮
クマムシは、異クマムシ類と真クマムシ類に大きく分けられます。まず、外皮をチェックして、どちらのグループのクマムシなのか見極めます。もし、そいつが鎧みたいな外皮を持っていれば異クマムシの仲間、持っていなければ真クマムシの仲間です。
異クマムシ
真クマムシ
・体表面の突起
体の表面に出ている突起の有無、そしてその位置や数は、クマムシの種を判断するのために重要な指標になります。真クマムシでは突起を持つ種類は限られますが、異クマムシでは様々な突起のパターンが見られます。
・爪の形と大きさ
爪の形や大きさも大事なポイントです。クマムシの仲間はシャープな爪を備えていますが、この形や大きさが種類ごとに違うのです。
クマムシ(Dactylobiotus dispar)の爪
たとえば真クマムシの仲間では、チョウメイムシの爪が短い傾向にあり、ヤマクマムシの仲間は爪が長く大きい傾向にあります。ちなみに、私が飼育しているヨコヅナクマムシもヤマクマムシの仲間です。
爪の長さは数ミクロン(1ミクロンは1000分の1mm)ほどで、これを高倍率の顕微鏡を使って測るのですが、これは本当に細かくしんどい作業です。僕はこの作業を経験して心にダメージが蓄積していくのを感じ、自分が分類の研究者には向いていないことを悟りました。
・ところで
ここで色んな種類のクマムシの名前が出てきて、混乱されている方もいるかもしれません。真クマムシや異クマムシは「綱」というレベルでの分類です。チョウメイムシやヤマクマムシは「科」のレベル。ヨコヅナクマムシは「種」のレベルです。つまり、
綱>科>種
という順に分類が細かくなっているわけです。本当はこれらのレベルの間にもいくつかのレベルがあるのですが、詳しく説明すると余計にややこしくなるので割愛します。
・卵の突起の形
クマムシでは卵の突起の形も種ごとに異なり、多様性に富んでいます。あるものは針のようなものを、そしてあるものは吸盤のような突起を持っています。
クマムシ(チョウメイムシの一種)の卵
クマムシ(ヨコヅナクマムシ)の卵 (右: 通常状態 左: 乾燥状態)
とはいえ、卵の突起の形だけで種を特定することはできません。ですので、卵を水の入ったシャーレの中にいれて数日間放置し、卵の中で個体の発生が進んで器官が発達したところで標本を作ります。
こうして卵を観察すると、中の孵化前の個体が透けて見えるために観察することが可能です。つまり、卵の突起とその中の個体の形態特徴を観察することで、より信頼性の高い種の同定が可能になります。
ところで、卵をコケや土の中から見つけるのは、非常にくたびれるものです。幼体や成体のクマムシならば動いているので見分けやすいのですが、卵は動かない上に小さいからです。クマムシ分類研究者泣かせの作業と言えるでしょう。
・口管の長さと幅の比
クマムシの咽頭にある口管という器官は非常に固く、標本になってもあまり形が崩れません。この口管の長さと幅の比は種ごとにほぼ一定で、pt比と呼ばれます。
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