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木野龍逸の「ニッポン・リークス」
                   2019/6/2(No.63)
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【No.63】経産省のHPを見ながら福島第一の今を整理してみる(続)
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■センター試算と政府試算に大きな差があり、政府はセンター試算を批判

 前回の本稿では、経産省HP(https://www.enecho.meti.go.jp/notice/topics/037/)に掲載されている「福島第一原発事故の処理に向けて ~2018年の取組〜」の、いかにも廃炉作業が進んでいるかのような書きぶりや、東電と政府が被害者に対してきちんと責任を果たしているかのような紹介のの仕方をしていることの問題点を書き連ねてみた。

 今回は、同HPが(3)「事故処理には今後いくら必要になるの?」として取り上げている事故処理費用についてみていきたい。そもそもこのHPは、日本経済研究センター(以下、センター)が2019年3月7日に事故処理費用の試算を発表した直後に出現したので、個人的には事故処理費用が巨額になることを示した試算を批判するために、急遽、造ったのかと思っていた。

 センターの試算によれば、事故処理費用は廃炉までの40年間で35兆円〜81兆円になる。一方で政府は、2016年12月に、当時開催していた「東京電力改革・1F問題委員会」(以下、東電委員会)の中で事故処理費用について、賠償、除染と中間貯蔵、廃炉と汚染水対策などで総額21.5兆円という数字を示した。センターの試算の下限とも13.5兆円の開きがある。

 このためエネ庁は「国の方針とは異なる独自の仮定」に基づいた試算であると主張。このほか、センターの試算には事実誤認もあると批判した。

 実際、センターの試算の中の賠償については、センターの数字に誤認があった。センターはこれまでの賠償実績を、原子力損害賠償紛争審査会の資料から8.7兆円としていたが、この中には除染にかかった費用、約2兆円を東電が政府の求償に応じて支払ったものが含まれていた。この2兆円が、センターの試算では賠償と除染の両方に計上されていたのだった。エネ庁は反論文の中で、2兆円の二重計上をわざわざ赤字で表記し、間違いを強調していた。

 けれどもセンターが示した試算は35〜81兆円なので、二重計上を差し引いても33兆円〜79兆円になる。政府予測との開きが巨大なのは変わらない。赤字で指摘することにどれほどの意味があるのかとは思う。