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ほぼ週刊若者論テキストマイニング 第5回:中川淳一郎『ウェブはバカと暇人のもの』ほか5冊

2014/10/15 19:30 投稿

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「第10回東方紅楼夢」(2014年10月12日、インテックス大阪)で配布したサークルペーパーを編集しております。

今回分析するのは、小学館のニュースサイト「NEWSポストセブン」などをはじめとする、ネットニュース編集者である中川淳一郎氏です。中川氏は博報堂を退社後、テレビ雑誌などの編集者を経て、2006年よりニュースサイトの編集者を行っていますが、氏がネットニュースの編集を行う過程で知ったネットの「現実」について述べたのが、今回分析する『ウェブはバカと暇人のもの――現場からのネット敗北宣言』(光文社新書、2009年)であり、ベストセラーになりました。その後中川氏はインターネットにおける「バカ」に関する論考をいくつか刊行しています(そして本稿ではそれを分析します)。

私が中川氏の言説に初めて出会ったのは、2009年12月に刊行された『今、ウェブは退化中ですが何か?――クリック無間地獄に落ちた人たち』(講談社、2009年)でした。この中で中川氏は、ネット上の有名人や芸能人、若年層(同書の中には「デジタルネイティブ=約束ができない人たち」という決めつけを、ただ自分の思い込みだけで断定している箇所がある)、そしてウェブに対して過剰に「希望」を投影するような人たちに対して悪罵を投げつけているだけでした――今回の分析に際して同書を読み直しましたが、この感想は変わっていません。また『ウェブを炎上させるイタい人たち――面妖なネット原理主義者の「いなし方」』(宝島社新書、2010年)では、インターネットの普及のせいで日本人の生産性が落ちただとか、今の20~30代はネットによって堕落させられた世代だとかいう、これまた根拠に基づかない世代論を述べていました。その後も、例えば中川氏の「お仲間」の常見陽平氏(祝! 来年度より千葉商科大学専任講師就任!)ととあるウェブラジオ番組に出演した際に失態を犯すなど、私の中での中川氏のイメージはよくありません。

ただ中川氏は、広告代理店やネットニュースの編集者をやっていたという経験上なのか、インターネット上のマーケティングについては、具体例や改善策を挙げて極めて良質な論説、提言を行うということは言えると思います。私は今回の分析において、初めて『ウェブはバカと暇人のもの』を読んだのですが、劣化言説にまみれた「ネットのバカ」論「以外」のところであるウェブマーケティング論については興味深く読みましたし、また中川氏のウェブマーケティング論の体系的な論説である『ウェブで儲ける人と損する人の法則』(ベスト新書、2010年)は、ウェブマーケティングに関わる人なら読んで損はないと思います。

ただ中川氏がウェブマーケッター、編集者として良質な視点を持っている「が故に」、ネット上の、中川氏の言うところの「バカ」に対する煽りや失望、偏見などが暴走しているのではないか、ということも言えるのではないかと思います。今回分析対象とした著作を読む限りにおいては、中川氏は、ネット上における自分の思い通りにならない人たちを「バカ」と呼び、従前よりわが国において跳梁跋扈している劣化言説に肩入れし、彼らをバッシングすることによって自らの不全感を埋め合わせているのではないか、という。このことは、長澤秀行氏によって出された『メディアの苦悩――28人の証言』(光文社新書、2014年)の中における中川氏のインタビューからも伺うことができます。

中川 正直、バカを相手にしたほうが、あんまり知恵を使わないで儲かるんです。だからオレはそっちをやろうと思っているんです。頭のいい人を相手にしようとする人が増えるのは、すばらしいことなんです。で、オレも正直そっちへ行きたいんです。でも、それは難しいことなんですよ。だからやってないんです。

で、本当に頭のいい人を相手にした商売をする人が現れたら、とんでもなく応援したいと思います。その方が道を切り拓いてくれたら、そこを後押しすべく、オレも頑張れる。ただ、自分が切り拓こうとは思わないんですよ。理由は、バカを相手にした商売が、今とんでもなくイケてるからです。今、現段階で自分のビジネスを考えると、まだバカを相手にする方がいいと思っているんですよ。(長澤秀行『メディアの苦悩――28人の証言』pp.31-32)

しかし、中川氏の著書や記事などを見る限りにおいては、「バカ」の実像についてはなんとなくしか見えない(中川氏が『ウェブはバカと暇人のもの』や『ネットのバカ』(新潮新書、2014年)で叩いているような人なんだろうな、程度の像しか結び得ない、しかもその叩きの対象は限りなく拡散している)し、ましてや中川氏の言うところの「頭のいい人」に至っては誰のことか全く見てないし、ましてやそちらを相手にしたビジネスなんて、皆目見当が付かないのです(まあ挙げるとすれば、芹沢一也氏の「シノドス」とか、あるいは毎日新聞デジタル報道センターの石戸諭氏あたりの試みとかになるのではないかと思いますが…)。中川氏が「バカ」を語ることでいったい何を目指しているのか、ということは問い直されて然るべきではないでしょうか。

さて、中川氏の著作について質的なところを述べたところで、今度は量的な分析に入っていきたいと思います。冒頭でも述べたとおり、中川氏の次の著作に対して形態素解析を行い、そこから得られたデータを元に分析、テキストマイニングを行いたいと思います。分析に用いた書籍は次の通りです。

書籍1:『ウェブはバカと暇人のもの』光文社新書、2009年4月
書籍2:『今、ウェブは退化中ですが何か?』講談社、2009年12月
書籍3:『ウェブを炎上させるイタい人たち』宝島社新書、2010年2月
書籍4:『ネットで儲ける人と損する人の法則』ベスト新書、2010年10月
書籍5:『ネットのバカ』新潮新書、2013年7月

各書籍のパラメータについては表1に、単語の集計結果については表2にまとめました。ツイッターについては、書籍1には出ていないのですが、その刊行から8ヶ月後に刊行された書籍2では既に扱われています。形容動詞語幹「馬鹿」(「バカ」「馬鹿」を統一)については、書籍2,3での出現数が多くなっています。また名詞「ブログ」は書籍1,2,3では多いものの、書籍4,5ではかなり少なくなっています。「バカ」個人に焦点を当てた書籍で多くなっているという感があります。そのほか、名詞「世代」は書籍3で飛び抜けて多く、同書の世代論としての特徴を表しているように見えます。

使用した辞書はこちら(Ver1.4)

表1
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表2
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次に、多次元尺度法(出現数76以上の集計対象単語、ただしB分類を除く、小見出しごとに集計しJaccard係数を算出)によって単語を配置したのが図1になります。まず横軸を見ると、左側にはインターネット関係の単語が配置され、右側には社会関係の単語が配置されているように見えます。そのため横軸は「社会評論/インターネット評論」ということができると思います。また縦軸は、上のほうにはコミュニケーションや世代論に関する単語が、下のほうにはビジネスに関する単語が見られます。そのため縦軸は「コミュニケーション/ビジネス」の単語として捉えることができるでしょう。この軸に基づいて単語を見てみると、第4象限(社会評論・ビジネス)には「マスコミ」「CM」などと言った既存マスメディアに関する言葉のほか、広告や宣伝に関する言葉、さらには「ブロガー」までという言葉があり、広い意味での「メディア」論関係の単語が並んでいると言えるでしょう。逆に第3象限(インターネット評論・ビジネス)には、インターネットに限定したメディア論、マーケティング論の言葉が並んでいます。「炎上」や「叩く」などの、中川氏言うところの「ネットのバカ」評論に関する単語は、第2象限(インターネット評論・コミュニケーション)に配置されています。第1象限は世代論(社会評論・コミュニケーション)と言えるかもしれません。

図1
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次に対応分析です。私は分析対象の5冊を通読して、私は中川氏の述べる内容は2つの方向性を持っているのではないかと思いました。まず一つ目は、「バカ」論、あるいは劣化言説、もう一つは、インターネットにおけるマーケティングに関する言説。前者に特化したのが書籍2,3、後者に特化したのが書籍4で、書籍1,5はその両方を含んでいます。そして、2009~2010年に立て続けに出された書籍1~4と刊行時期が大きく離れている書籍5については、書籍1~4の議論を再生産しているだけではないか、と思いました。
試しに予備分析として、出現数76以上の集計対象単語のみを用いて対応分析を行ったところ、なんと書籍5がほとんど原点に配置されてしまいました(図2)。このことから、書籍5は書籍1~4の議論の再生産ではないか、ということは言えると思います。

図2
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さて、本番の分析として、出現数34以上の集計対象単語を用いて対応分析を行ったのが表3,4及び図3になります。本分析でも、書籍5は原点の近くに配置されています。主成分で見ると、第1主成分の寄与度が他と比べて際立って高く、単語を見ても、第1主成分は「劣化言説/マーケティング」と言うことができると思います。そして第1主成分の正方向に配置されているのが書籍2,3、負方向が4で、中間が1,5というのも、当初の見立てが証明された形となりました。

第2主成分は、書籍1と他を分つものになっています。単語を見ると、正方向に配置されているのが「ソーシャルメディア」「課金」「フェイスブック」「フォロワー」「ツイッター」などといったソーシャルメディア関連の言葉になっていますが、これらは書籍1では見られないものです。中川氏の言説においては、書籍1ではもっぱらネットニュースなどでしたが、書籍2からソーシャルメディアが中川氏の言説において重要になってきたということでしょう。第3主成分は、こちらは書籍5を他と分つ結果となっています。正方向には、ソーシャルメディア関係の単語とともに、「韓国」「フジテレビ」といったネット上の差別扇動の動きに関する単語が来ています。ちなみに第3主成分の負方向にある「梅田」は大阪ではなく、インターネットに関する希望的観測を積極的に述べていた梅田望夫氏のことであり、中川氏は書籍3などで、梅田氏が日本のネットメディアは「残念」だということを述べたことを、しきりに中川氏言うところの「ネット原理主義者」「ネット教信者」を攻撃する材料に用いていました。第4主成分は、どちらの報告もマーケティングに関する言葉ですが、正方向は口コミやソーシャルメディアといったのソーシャル、バイラルマーケティング、負方向は既存のメディアや広告によるマーケティングと言うことができます。第5主成分は正方向が世代論、負方向が社会評論といった感じでしょうか。

表3
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表4
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図3
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最後に、コーディングルール(別掲)を使って集計した結果を表5、図4に示します。「ネット教信者」については、劣化言説との親和性が強い書籍2,3で使われていますが、逆に「若者」については、意外なことに書籍1,2,3での使用頻度が少なくなっています。その代わり書籍4での使用頻度が多く、中川氏にとっての「若者」というものに対する認識はマーケティング的な視点によって形成されていると言えます。ただし「彼ら」の使用頻度は、やはり劣化言説に親和的な書籍2,3で多くなっています。中川氏の劣化言説で使われている単語と言えば「バカ」ですが、コーディング「莫迦」の使用頻度も、やはり書籍2,3において高くなっています。

#基本

*若者
若者 | 若い+人 | 若い+世代

*学生
学生 | 生徒

*子供
子供 | 子ども

*彼ら
'彼ら' | 'かれら'

*今
今 | いま | 現代 | 昨今

*かつて
昔 | むかし | かつて

*今の若者
<*今> & <*若者>

*かつての若者
<*かつて> & <*若者>

#基本/推測に基づく断定/文末表現

*かもしれない
'かもしれない。' | 'かもしれません。'

*~と言える。
'いえる。' | '言える。' | 'いえます。' | '言えます。'

*~だろう。
'だろう。' | 'でしょう。'

*確かだ。
'確かだ。' | '確かです。'

*思われる。
'思われる。' | '思われます。'

#基本/推測に基づく断定/中間

*(し)つつある
'つつある'

*おそらく
おそらく | 恐らく

*最早~ない
seq(もはや-ない) | seq(最早-ない) | seq(もはや-ます-ん) | seq(最早-ます-ん)

#書籍オリジナル

*ネット信奉者
'ネット教信者' | エヴァンジェリスト

*ミクシィ
ミクシィ

*ツイッター
ツイッター

*2ちゃんねる
2ちゃんねる

*ブログ
ブログ

*ソーシャル系
'ソーシャル'

*インターネット
ネット | ウェブ | インターネット

*ブランディング
ブランディング

*莫迦
馬鹿 | バカ | '馬鹿' | 'バカ'

*暇人
暇人 | '暇人'

*マーケティング
'マーケ'

*ステマ
'ステマ'

*現実
リアル | 現実

*炎上
炎上

*マスコミ
マスコミ | 新聞 | テレビ

*『ウェブはバカと~』
ウェブ & <*莫迦> & <*暇人>

*世代
世代

表5
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図4
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コーディングの集計結果を使って対応分析を行うと、書籍5のみ少し離れた結果となりました。これは、単語の対応分析における主成分3主成分のように、書籍5では、以前の書籍に比べてソーシャルメディアが言及される割合が高くなったことを示しています。またこちらの第1主成分では、書籍1,4,5が負方向、書籍2が中央付近で、書籍3が大きく正方向に流れています。配置されたコーディングを見るに、これは劣化言説への親和性と言えるでしょう。書籍3は分析対象の他の書籍に比べて、極めて劣化言説に親和的なものだということが言えるかもしれません。

図5
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表6(コーディングの関連語(Jaccard係数))
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このページの分析には「KH Coder」を使っています。

参考文献
樋口耕一『社会調査のための計量テキスト分析――内容分析の継承と発展をめざして』ナカニシヤ出版、2014年

第6回:古市憲寿『絶望の国の幸福な若者たち』『僕たちの前途』(共に講談社、2011年/2012年)、『だから日本はズレている』(新潮新書、2014年)
第7回:「サンシャインクリエイション65」新刊『「新しい生き方」は誰のため?――平成日本若者論史12』として刊行します。間に合わなかった場合はちきりんか谷本真由美の著書から3冊程度。
第8回:未定

【その他告知】
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サンプル(pixiv):http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=44689358

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http://www.amazon.co.jp/dp/B00NMO2A0E/

・「サンシャインクリエイション65」にサークル参加予定です。
日時:2014年10月26日(日)
場所:サンシャインシティ(各線「池袋」駅から徒歩10分程度、東京メトロ有楽町線「東池袋」駅直結)
スペース:Bホール「ケ」ブロック02a

・「第百二十九季 文々。新聞友の会」にサークル参加予定です。
日時:2014年11月2日(日)
場所:京都市勧業館みやこめっせ(京都市営東西線「東山」駅より徒歩8分程度、京阪本線・鴨東線「三条」駅より徒歩15分程度)
スペース:「花」ブロック58

・「杜の奇跡23」にサークル参加予定です。
日時:2014年11月9日(日)
場所:仙台市情報・産業プラザ(JR各線「仙台」駅北口直結、仙台市地下鉄「仙台」駅より徒歩5分程度)
スペース:未定

・「コミティア110」にサークル参加予定です。
日時:2014年11月23日(日・祝)
場所:東京ビッグサイト(ゆりかもめ「国際展示場正門」駅直結、東京臨海高速鉄道りんかい線「国際展示場」駅より徒歩3分程度)
スペース:未定

奥付
後藤和智の若者論と統計学っぽいブロマガ
ほぼ週刊若者論テキストマイニング 第4回
著者:後藤 和智(Goto, Kazutomo)
発行者:後藤和智事務所OffLine
発行日:2014(平成26)年10月15日
連絡先:kgoto1984@nifty.com
チャンネルURL:http://ch.nicovideo.jp/channel/kazugoto
著者ウェブサイト:http://www45.atwiki.jp/kazugoto/

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