後藤和智の若者論と統計学っぽいブロマガ

第52回:【思潮】「デジタルネイティブ」から「スマホチルドレン」へ?

2014/06/30 17:00 投稿

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後藤和智の若者論と統計学っぽいブロマガ
第52回:【思潮】「デジタルネイティブ」から「スマホチルドレン」へ?

「恋のまほうは魔理沙におまかせ!6」(大田区産業プラザPiO、2014年6月29日)にて配布したサークルペーパーです。

さて、Free Talkですが、今回はちょっと悩ましい話題を。
以前私はニコニコチャンネルのブロマガ(「後藤和智の若者論と統計学っぽいブロマガ」http://ch.nicovideo.jp/kazugoto)にて「デジタルネイティブ」論を採り上げたことが何回かあります。

第8回:【思潮】「デジタルネイティブ」論を批判的に読み解くために(第1回)
http://ch.nicovideo.jp/kazugoto/blomaga/ar28476
第12回:【思潮】「デジタルネイティブ」論を批判的に読むために/第2回
http://ch.nicovideo.jp/kazugoto/blomaga/ar133169
第16回:【思潮】「デジタルネイティブ」論を批判的に読み解くために(最終回)
http://ch.nicovideo.jp/kazugoto/blomaga/ar186652

ここで採り上げた「デジタルネイティブ」論というのは、(少なくともわが国において使われている意味では)子供の頃からコンピュータや携帯電話などといったデジタル機器・インターネットに慣れ親しんだ〈若者〉が、これからの社会を変えていくというある種の若者擁護論として流通しているものでした。そして私はこの短期の連載の中で、第一に人間の本質などそう簡単に変わるものか、上の世代からの「変化」や「違い」を過度に強調した、いわば宿命論的なものになっているとしました。

昨年10月に出した『「あいつらは自分たちとは違う」という病――不毛な「世代論」からの脱却』(日本図書センター、2013年)でもその一端を示しているのですが、我が国における〈若者〉概念とは単なる年代や世代によって規定されるものではなく、「特殊性」をもたらすものという考え方を包含しています。それこそ先の連載で採り上げた、「デジタルネイティブ」としての〈若者〉が社会を変えるという議論はまさにその典型です。

〈若者〉とは、上の世代が自分たちとは「違う」という特徴、もしくは当事者世代が上の世代とは「違う」という特徴を絶対視した上で使われる、ある種の社会運動的な概念として捉える必要があります。〈若者〉としての「彼ら」が自分たちとは「違う」ことによって下の世代への過度なバッシングやあるいは過度な擁護論・肩入れを正当化してしまう、また〈若者〉としての「自分たち」が上の世代とは「違う」ことによって象徴的な「勝利」に酔い痴れるというのは、〈若者〉という概念が「特殊性」を中心に動いている故に起こるものであるということに注目しなければなりません。

さて、最近になって、日経新聞を中心に「スマホチルドレン」なる言葉が積極的に使われるようになっています。今年5月には中公新書ラクレより竹内和雄『スマホチルドレン対応マニュアル――「依存」「炎上」これで防ぐ!』(中公新書ラクレ、2014年)が刊行されました。また同じ著者は『スマホチルドレンの憂鬱』(日経BP社(電子版)、2014年)という本も電子書籍として刊行しております。

著者である竹内和雄が描いているシナリオとは、スマートフォンが子供達に普及することによって今までの〈大人〉では対処しきれないような新たな問題が生じている、というものです。しかし『スマホチルドレン対応マニュアル』を見る限り、竹内は子供達における”異変”なるものの原因を、過度に〈スマホ〉に求めている気がしてならないのです。本来であれば人間関係とか家庭環境とか、あるいは経済的環境とかも考慮しなければならないのに、さも〈スマホ〉によってもたらされたものの如く描くことにより、子供達、すなわち〈スマホ〉という「特殊性」に規定された〈若者〉の問題は最早〈大人〉には手に負えない問題であるという視点で捉えるべきものとなってしまっています。そしてそのような扱い方は、政策的なケアや解決を放棄しているものにしかなっていないのではないか。

※あ、こんな書き方すると、兵庫甲山あたりの自称社会学者から「そんな教育社会学的な見方なんて糞の役に立たない、後藤は「若者」を十把一絡げにして擁護している」とかなんとか変な文句が来そうですけど、「物事を多面的に見よ、もしかしたら解決の糸口が見つかるかもしれない」とか「問題のマクロ的な解決にはやっぱエビデンスが必要じゃん」とかいうことしか言ってませんからねーいい加減社会学者なら理解しろやゴルァ!

閑話休題、このような構図はどこかで見たような気がします。例えば「早寝早起き朝ご飯」が陰山英男あたりによって話題にされた頃は、本田由紀などからそれは「家庭」に過度に責任を押しつけるものであり、例えば母子家庭とか経済的に困窮している家庭とかはしたくてもできないのではないか、本来であればそういう家庭に対する経済的な支援こそ必要なのに、と指摘されました。また「ネットいじめ」が話題になったときにも、実際にはリアルの人間関係がネットに持ち込まれているだけなのでは、という指摘がなされていました。今般の「スマホチルドレン」言説もそのような構造を持ち越しているものでしかないのではないでしょうか。

「スマホチルドレン」言説も「デジタルネイティブ」言説も、「特殊性」に規定された〈子供〉〈若者〉の問題として捉えられていることにより、より大きな社会構造の観点が見逃されているのではないかという気がしてならないのです。なぜメディアやコミュニケーションが「特殊性」をもたらすものとして過度に認識されやすいのかということについては各種のメディア論、特に荻上チキ『社会的な身体』(講談社現代新書、2009年)あたりに譲りますが、若年層をめぐる種々の問題を”彼ら”の「特殊性」からもたらされる問題として捉えることの悪影響について、多くの人が認識すべきではないでしょうか。

そしてその根本にあるのは、「特殊性」に寄り添うことこそが若い世代を「解放」するものであるという一部の社会学やマーケティングの態度です。それを養成してきた社会学・メディアサイドの問題も、今一度認識されるべきです。

第53回:未定
第54回:未定

(※「「艦これ」遠征の評価・改二」の発表は、都合によりしばらく延期とします。)

【近況】
・「第11回博麗神社例大祭」新刊『風見幽香の幻想郷開発計画――市民のための経済学の基礎』がメロンブックスにて発売中です。また電子版もあります。
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情報ページ・第1章サンプル:http://ameblo.jp/kazutomogoto/entry-11834272689.html
第2章サンプル:http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43107677
電子版(Kindle):http://www.amazon.co.jp/dp/B00JYGUN26/

・「第8回東方名華祭」併催イベント「幻想郷フォーラム2014」新刊の『香霖堂の社会思想ゼミ――市民のための「社会」をめぐる思想講座』がメロンブックスにて発売中です。
情報ページ:http://ameblo.jp/kazutomogoto/entry-11795422870.html
サンプル(pixiv):http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=42211933
通販ページ:http://shop.melonbooks.co.jp/shop/detail/212001071156
電子版:http://www.melonbooks.com/index.php?main_page=product_info&products_id=IT0000170807

・「コミックマーケット86」に当選しました。
開催日:2014年8月15~17日(金~日)
開催場所:東京ビッグサイト(東京都江東区)
アクセス:ゆりかもめ「国際展示場正門」駅から徒歩すぐ、東京臨海高速鉄道りんかい線「国際展示場」駅より徒歩5分程度
スペース:3日目(17日)東館「N」ブロック37a

・「アンダーグラウンドカーニバル」(東方地霊殿オンリーイベント)にサークル参加予定です。
開催日:2014年7月13日(日)
開催場所:名古屋国際会議場(愛知県名古屋市熱田区)
アクセス:名古屋市営地下鉄名城線「西高蔵」駅または同名港線「日比野」駅より徒歩5分程度
スペース:「A」ブロック30

・日本図書センターより5年ぶりの商業新刊『「あいつらは自分たちとは違う」という病――不毛な「世代論」からの脱却』が刊行されました。内容としては戦後の若者論の歴史をたどるものとなります。
Amazon:http://www.amazon.co.jp/dp/4284503421/
楽天ブックス:http://books.rakuten.co.jp/rb/12468953/

(2014年6月30日)

奥付
後藤和智の若者論と統計学っぽいブロマガ・第52回:【思潮】「デジタルネイティブ」から「スマホチルドレン」へ?
著者:後藤 和智(Goto, Kazutomo)
発行者:後藤和智事務所OffLine
発行日:2014(平成26)年6月30日
連絡先:kgoto1984@nifty.com
チャンネルURL:http://ch.nicovideo.jp/channel/kazugoto
著者ウェブサイト:http://www45.atwiki.jp/kazugoto/

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