後藤和智の若者論と統計学っぽいブロマガ
第24回:【科学・統計】データで楽しむプロ野球――セイバーメトリクスとは何か

7月4日、日本製紙クリネックススタジアム宮城(Kスタ宮城)にて、東北楽天ゴールデンイーグルス対千葉ロッテマリーンズの試合を観戦してきました。結果は銀次の長打+A.ジョーンズのホームランという合わせ技が2打席連続で起こったほか、銀次が攻守で活躍、投手陣も川井貴志が強豪のロッテ打線を5回2失点に抑え、8-4で楽天の勝利となりました(ちなみに8-4というのは、楽天ファンにとっては軽くトラウマな数字ですが、そこは置いておきます)。

さて、近年のプロ野球をめぐる言説では、打率や防御率などといったデータよりもさらに詳細なに基づいて選手やチームを評価しようとする動きが現れています。また近年では、野球に限らず、各種スポーツのデータの収集や分析をビジネスとして扱い、プロやアマチュアのチームに対して提供する企業も現れています。また個人サイトやブログのレベルでも、データに基づいたスポーツの分析を行っているものも目立つようになっています。

今回は野球について説明します。野球の世界では、選手やチームを統計学的に評価する手法が、「セイバーメトリクス」として確立されています。アメリカのメジャーリーグにおいては、この手法が定着しているようで、李啓充は、アメリカでセイバーメトリクスが定着したきっかけとして、野球のライターが、例えば打者の指標について、旧来の「打率 / 打点 / 本塁打」から「打率 / 出塁率 / 長打率」という表記を積極的に用いるようになったことに触れ、《メディアが積極的に使った》(李啓充[2012]p.111)ことを挙げています。

日本ではどうでしょうか。例えばセイバーメトリクスの指標の一つで、打者の指標であるOPS(=出塁率+長打率)は、打率よりも得点との相関係数が高い値とされ、2006年ヤクルト監督の古田敦也や、2009年広島監督のマーティ・ブラウンはOPSを重要な指標として導入したことで知られているようです(Wikipedia「OPS」より)。OPSは出塁率と長打率の単純な和で求められるので、出塁が過小評価されていたり、あるいは走塁が無視されているなどの問題点は指摘されているものの、打者の指標としてひと味違った野球の見方をすることができます。

実際私も先日のロッテ戦の観戦のとき、OPSに注目して観戦していました。楽天の本拠地であるKスタ宮城においては、スコアボードの横にCMなどが流れる大型ビジョン(創造電力VISION)があるのですが、試合中は投手と打者の詳細な成績が表示されます。特に打者指標については、打率や打点・本塁打のほか、長打率や出塁率も表示されるので、「マギーのOPSは~か。かなり活躍しているな」「井口はOPS~、手強い相手だ」といった楽しみ方ができます。

ちなみに7月4日終了時点での楽天の打者のOPSは、1~5番の選手だと、聖澤諒0.746、藤田一也0.627、銀次0.826(規定打席未到達)、A.ジョーンズ0.845、C.マギー0.935、となっております。一方ロッテなら、1~4番で、根元俊一0.698、角中勝也0.757、井口資仁0.989、今江敏晃0.787、となります。ちなみに同日現在のパ・リーグ首位打者の長谷川勇也(ソフトバンク)のOPSは0.921、セ・リーグ首位打者のH.ルナ(中日)は0.988です(データは全てヤフースポーツより)。

ところで、今最も一般向けで手に入りやすいセイバーメトリクス本といえば、鳥越規央の『本当は強い阪神タイガース――戦力・戦略データ徹底分析』(ちくま新書、2013年)でしょうが、同書では、先ほど採り上げたOPSや、投手に関する代表的なセイバーメトリクス指標であるWHIP(1イニングあたりに許してしまうランナーの数の平均値)、打者の指標のひとつであるRC27(計算式は鳥越規央[2013]p.42を参照)を用いて、阪神タイガースを評価しています。同書では他にも、監督の采配を評価する指標として、得失点から適正な勝率を予測する値であるピタゴリアン期待値、打者の指標としてチームの勝利確率をどれだけ上げたかを評価するWPA、投手指標では投手のみの責任による失点を評価するDIPSなどが用いられており、セイバーメトリクスの見方を学ぶためにはおすすめの本です。

インターネット上のサイトなら、プロ野球の有名なデータサイトである「プロ野球ヌルデータ置き場」(http://lcom.sakura.ne.jp/NulData/)は、たくさんのセイバーメトリクス指標を提供しています。そのほかにも様々なサイトが、セイバーメトリクス理論に基づくプロ野球の分析をしています。

いまデータジャーナリズムなどの注目で統計学が見直されていますが、スポーツの世界においても、野球におけるセイバーメトリクスなどのように統計学的に評価を行う動きに注目が集まっています。しかし、前述の李啓充が指摘しているとおり、統計学的な見方の普及には、やはりメディアが積極的にデータに基づいた知見を提示するなどの後押しが不可欠です。

引用・参考文献
李啓充[2012]「米国におけるセイバーメトリクス浸透度」、『セイバーメトリクス・マガジン』第1号、pp.110-111、デルタクリエイティブ、2012年11月
鳥越規央[2013]『本当は強い阪神タイガース――戦力・戦略データ徹底分析』ちくま新書、2013年4月

【今後の掲載予定:定期コンテンツ(原則として毎月5,15,25日更新予定)】
第25回:【科学・統計】レビュー系サイト・同人誌のための多変量解析入門(最終回:テキストマイニング)(2013年7月15日配信予定)
第26回:【政策】現代学力政策概論(第1回:全国学力テスト)(2013年7月25日配信予定)
第27回:【思潮】「草食系男子」論とは何か(第3回:非モテ――「当事者」の語りとそれがもたらした爪痕)(2013年8月5日配信予定)

【近況】
・「ガタケット128」にサークル参加します。
開催日:2013年7月7日(日)
開催場所:新潟市産業振興センター(新潟県新潟市中央区)
アクセス:各線「新潟」駅よりバス
スペース:「D」ブロック30a

・「東方螺茶会 筑前の宴」に委託参加します。
開催日:2013年7月7日(日)
開催場所:福岡国際会議場(福岡県福岡市博多区)
アクセス:JR各線「博多」駅、西鉄天神大牟田線「西鉄福岡(天神)」駅、福岡市地下鉄「天神」駅などからバス
スペース:委託「b」ブロック01

・「アンダーグラウンドカーニバル」に同人誌『古明地さとりの自己形成論講義』を委託します。
開催日:2013年7月14日(日)
開催場所:名古屋国際会議場(愛知県名古屋市熱田区)
アクセス:名古屋市営地下鉄名城線「西高蔵」駅または同名港線「日比野」駅から徒歩5分程度(共に各線「金山」駅の隣です)
委託先:「C」ブロック34「虹の戦士」様

・「コミックマーケット84」2日目にサークル参加します。
開催日:2013年8月11日(日)
開催場所:東京ビッグサイト(東京都江東区)
アクセス:ゆりかもめ「国際展示場正門」駅より徒歩3分程度、または東京臨海高速鉄道りんかい線「国際展示場」駅より徒歩5分程度
スペース:東館「R」ブロック19b

・本年9月15日に、日本図書センターより5年ぶりの商業新刊が刊行されます。内容としては戦後の若者論の歴史をたどるものとなります。現在初校ゲラ修正作業中です。

・「サンシャインクリエイション60」新刊の『「働き方」を変えれば幸せになれる?――平成日本若者論史7』のKindle版がリリースされました。
http://www.amazon.co.jp/dp/B00DKCYYJ8/

・ 「第10回博麗神社例大祭」新刊の『古明地さとりの自己形成論講義――市民のための「自己」をめぐる社会科学講座』と『新・幻想論壇案内――東方 Project系「評論・情報」コンテンツの新たな展開』がメロンブックス、とらのあな、COMIC ZINで発売中です。またいずれも電子版もメロンブックスDLで配信中です。
『古明地さとりの自己形成論講義――市民のための「自己」をめぐる社会科学講座』
告知ページ:http://ameblo.jp/kazutomogoto/entry-11524050938.html
サンプル(pixiv):http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=35542729
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とらのあな:http://www.toranoana.jp/mailorder/article/04/0030/12/16/040030121698.html
COMIC ZIN:http://shop.comiczin.jp/products/detail.php?product_id=16239
電子版(メロンブックスDL):http://www.melonbooks.com/index.php?main_page=product_info&products_id=IT0000163554
『新・幻想論壇案内――東方Project系「評論・情報」コンテンツの新たな展開』
告知ページ:http://ameblo.jp/kazutomogoto/entry-11524045526.html
サンプル(pixiv):http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=35543054
メロンブックス:http://shop.melonbooks.co.jp/shop/detail/212001061206
とらのあな:http://www.toranoana.jp/mailorder/article/04/0030/12/17/040030121701.html
COMIC ZIN:http://shop.comiczin.jp/products/detail.php?product_id=16240
電子版(メロンブックスDL):http://www.melonbooks.com/index.php?main_page=product_info&products_id=IT0000163553

(2013年7月5日)

奥付
後藤和智の若者論と統計学っぽいブロマガ・第24回「データで楽しむプロ野球――セイバーメトリクスとは何か」
著者:後藤 和智(Goto, Kazutomo)
発行者:後藤和智事務所OffLine
発行日:2013(平成25)年7月5日
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