後藤和智の若者論と統計学っぽいブロマガ
第3回:【思潮】若者特集を読む(第2回):『ウレぴあ』2012年秋号

 今回は、『ウレぴあ』というあまり聞き慣れない雑誌の特集を見ていこうと思います。少なくともこの雑誌のタイトルから、これが「ぴあ」の派生であると言うことは分かると思いますが…。

 この雑誌は基本的にマーケティング路線のようです。そしてなぜ私がこの雑誌を採り上げるのか。というのも、この雑誌が、1982~1987年生まれ、すなわち所謂「ロスジェネ」の直下の世代に対して「プレッシャー世代」という名前をつけているのです。ああ、またくだらない名付けが来たな、とこの雑誌に関するミクシィニュースを見たときに思いました。とはいえ読まないで論評するのは、世代論の研究者としての名が廃るというものなので、検討してみることとします。ちなみにこの雑誌の表紙にも、《ゆとり世代じゃない!》という言葉が踊っており、暗に「ゆとり世代」との差を強調することにより、自分の世代の優位性を強調するような作りになっていることが窺えますね。このような傾向は世代論の最も悪しき傾向です。

 閑話休題。なぜ「プレッシャー世代」なのか。p.11には、この名前の発案者として、sugioなるブロガーが採り上げられています。そしてsugioは、《'82年生まれの北島康介さんのように、人生の大一番で実力をフルに発揮できるスポーツ選手が目についたからです。また有名芸能人を見てみたところ、下のゆとり世代や上のポスト団塊ジュニア世代に比べて、明るい中にも独特のピリっとした雰囲気を漂わせる方が多いように見受けられました。そこに彼らが過ごした時代性が反映されているのではないか、様々なプレッシャーに耐えてきた世代なのではないかと考え命名しました》と述べております。

 …はい、ご覧の通り、統計的根拠はなく、ただの思い込みか、もしくは極めて単純な時代反映論、世代論でしかないことが分かるはずです。そういえば私の愛する東北楽天ゴールデンイーグルスの先発投手陣は、1988年生まれの田中将大や塩見貴洋、1990年生まれの辛島航、1993年生まれの釜田佳直といった、sugioやこの雑誌の特集の範疇では「ゆとり世代」として貶められる人たちが多いような(あと、見事パ・リーグの今期MVPに輝いた、日本ハムの吉川光夫も1988年生まれですね)。まあこれもまた統計的根拠のない戯れ言なのですが、少なくとも「自分はこういう世代なんだ!」って名付けられて喜んでいる様は、見ていて痛々しいだけでなく、他の世代へのバッシングを含んでおり、極めて危険なものと言うほかありません。

 また、当然の如くこの特集には、この世代のオピニオンリーダーである(?)古市憲寿もこの特集には登場します(古市は弊ブロマガの第1回でも採り上げましたね)。もっとも古市の言説もまた、従前の若者論を繰り返しているだけなので新味もおもしろみもありませんが、いくつか見ていこうと思います。

「ロスジェネ世代は、少し上の世代までは経済的な恩恵を受けられていたのに、自分たちはそれを受けることができなかったという剥奪感を抱いています。一方、現在25歳から30歳の世代は、ロスジェネ世代と比べるとずっと楽観的です。この世代は日本の景気がよかった時代を知りません。'82年生まれだと、10歳の頃にはバブルがほぼ終わっていました。日本の経済がよくなるとも思っていないし、現状にそれほど不満も持っていません。高度成長やバブルを知っている世代は日本の現状を悲劇と捉える傾向がありますが、この世代はそもそもの準拠点がないため、自分たちのことを卑下しないし、過度の悲観とも無縁です」(p.12)

 何度でも言いますが、このような認識は、下記の点から、極めて危険なものであると言うほかありません。第一に、このような世代論が、上の世代に対して、お前たちはバブルというものの幻想を引きずっているから新しい感覚を生み出せないというバッシングにつながりかねないと言うこと。これは、ロスジェネ系の論客が、自分たちはバブルを知っている最後の世代であるということを過度に強調したがる傾向(最近だと、熊代亨[2012]など)の裏返しでしかありません。第二に、古市は経済的な状況について、経済統計や雇用統計などの客観的に観測しうるものではなく、主観的なものに求めている。そのような態度は、経済を蝕む要因、例えばデフレなどに対して解決ではなく順応を若い世代に強要するという行為に他なりません。そしてそれは、さらに経済を衰退させるものにしかなり得ないのです。

「恋愛はいわば日常の延長で、昔のようなスリルはなくなりつつあります。そもそも携帯電話登場前の時代には、相手と連絡を取るのも難しかったのですが、現在はそういったハードルも下がり、常につながっていられるようになった。その結果、恋愛そのものが非日常ではなくなってきています。いつでも会えるのだから、恋愛でロマンが成り立ちにくい。Jポップでは『会いたい系』と呼べるような歌詞を歌うシンガーが増えましたが、今の時代ではいつでもどこでも会えるのだから、逆に『会えないこと』が憧れなんです」(p.14)

 果たして古市はどのような根拠に基づいてそのようなことを言っているのでしょうか?「会いたい」というのは、それこそ万葉集とか古今和歌集とかの時代からの感覚だと思うのですが。このような単純な社会変動論、技術決定論に基づいた世代論が「受ける」という現実に直面する度、それに対する批判的検討をライフワークとしている私は戦慄を覚えざるを得ないのです。

 古市の言説への検討はこのくらいにするとして、この特集においては、「プレッシャー世代が変える力」として、ブロガーのイケダハヤト、「なでしこジャパン」の丸山桂里奈、ビジネス関係だとピクシブ社長の片桐孝憲などがインタビューとして登場しております。しかしこれらのインタビューについては、単にその世代で「目立っている」人の動向を、統計的根拠もなく「新しい」ものとして採り上げているだけで、学術的になんの深みもないものです。

 そしてこの世代へのメッセージとして笠原健治(ミクシィ社長)や勝間和代などへのインタビューが掲載されていますが、それも同様です。

 またpp.16-19の松田久一によるこの世代の消費行動の採り上げ方も疑問です。それは松田の言説と言うよりは、この特集における採り上げ方に問題があります(松田の言説は取り立てて問題視するところはない)。そもそもこの若い世代について「この世代がものを買わなくなったのは嘘だ」ということを採り上げていますが、それは単に就職などして、まがりなりにも経済的に余裕が出てきたからではないでしょうか?そういうことを無視して、この世代の新しい消費動向をもてはやすというのはあまりにも無理があります。「消費するようになって始めてまともな世代として採り上げられる」という、1980年代の「新人類」以降の世代論を、この特集は反省もなく繰り返しています。それこそが現代の若者論を堕落せしめた最大の要因だって言うのに…。

 やはりこの特集の問題点は、世代に名前をつけて、「この世代が一番輝いているんだ!」ということを、根拠もなく採り上げることにより、承認欲求を満たすことで読者を獲得しようとする浅ましい考え方が見受けられます。それを象徴するのが、pp.36-39における、「ゆとり部下・後輩とうまく付き合う、5つの方法」でしょう。「ゆとり世代」という、バッシングでしかない概念を用いている時点でアウトだと思います。もちろんここで採り上げられている「ゆとり世代」の特徴なるものを裏付ける統計的根拠など見られません。たといこの文章が明確なバッシングになっていないとしても、蔑称を使い、その心理的傾向を簡単に決めつけてしまい、しかもそれを「当たり前」のものとして検証しないのは、バッシングと同罪です。

 このような根拠のない礼賛と、下の世代への蔑視は、これまでの若者論、同世代論において繰り返されてきた悲劇の、諸悪の根源としか言いようがなく、『ウレぴあ』はそれを無反省に繰り返しているものでしかありません。たちの悪いことに、このような劣化言説に基づく人生訓というのは、『自己啓発の時代』(勁草書房、2012年)著者の牧野智和も指摘しているとおり、社会に完全に組み込まれてしまっているのです(牧野智和[2012])。劣化言説に基づいた自己啓発言説が横行し、自分の世代を根拠もなく礼賛し、下の世代を劣化したものとして採り上げるという世代論の傾向こそ、社会の分断をもたらすものに他なりません。

 もう、世代論はやめにしませんか。

特集以外の引用・参考文献
熊代亨[2012]『ロスジェネ心理学』花伝社、2012年10月
牧野智和[2012]「自己啓発書が描く現代の「ライフコース」-3-(ポスト「ゼロ年代」の自己啓発書と社会・第11回)」http://president.jp/articles/-/7410、「PRESIDENT Online」配信、2012年10月

【今後の掲載予定(原則として毎月5,15,25日更新予定)】
第4回:【政策】Evidence Based Policy――日本の教育政策に欠けているもの(2012年12月5日掲載予定)←ブロマガ衆院選特集に参加します。以下の予定は繰り下げ。
第5回:【政策】雇用戦略対話を総括する(第1回)(2012年12月15日掲載予定)
第6回:【思潮】「デジタル・ネイティブ」論を批判的に読み解くために(第1回)(2012年12月25日掲載予定)←予定変更

【近況】
・「コミックマーケット83」(3日目)にサークル参加します。
開催日:2012年12月31日(月)
開催場所:東京ビッグサイト(ゆりかもめ「国際展示場正門」駅下車すぐ、りんかい線「国際展示場」駅下車徒歩5分程度)
スペース:東2ホール「パ」ブロック29b

・「コミックマーケット82」新刊の『現代学力調査概論――平成日本若者論史3』がCOMIC ZIN及びコミックとらのあなにて委託販売中です。

・「仙台コミケ204」新刊の『徹底批判 新日本国憲法ゲンロン草案』の冊子版がCOMIC ZIN及びコミックとらのあなで、電子書籍版がKindle及びブクログのパブーで販売しております。

・筆者が以前刊行した同人誌の電子書籍版、『「若者論」を狙え! Electronic Publication Version』がKindle及びブクログのパブーで販売中です。

(2012年11月25日)

奥付
後藤和智の若者論と統計学っぽいブロマガ・第3回「【思潮】若者特集を読む(第2回):『ウレぴあ』2012年秋号」
著者:後藤 和智(Goto, Kazutomo)
発行者:後藤和智事務所OffLine
発行日:2012(平成24)年11月25日
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