後藤和智の若者論と統計学っぽいブロマガ

第16回:【思潮】「デジタルネイティブ」論を批判的に読み解くために(最終回)

2013/04/05 23:00 投稿

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第16回:【思潮】「デジタルネイティブ」論を批判的に読み解くために(最終回)

「デジタルネイティブ」論について見てきたこの連載企画ですが、予定を繰り上げて、今回を最終回としたいと思います。というのも、今回ネタとして採り上げる予定であった、松下慶太『デジタル・ネイティブとソーシャルメディア』(教育評論社、2012年)が、今まで見てきた本とほとんど知見や視点が変わらず、ネタとして新しいのはせいぜい東日本大震災に関する行動についてで、それも古市憲寿『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社、2011年)レベルの「分析」でしかなかったからです。そんなわけで、今回は企画の最終回として、なぜこのような議論が生まれるようになったかについての考察をしてみたいと思います。

「デジタルネイティブ」論に代表されるように、なぜ若者論はコミュニケーション論偏重になってしまったのか。それについては1980年代以降の若者論の流れを見る必要があります。それは若手論客の側と、若者論の側の2つの側面から捉える必要があります。

まず若手論客の側面から。1980年代に生まれた言葉として、「おたく族」があります。これは、中森明夫が雑誌『漫画ブリッコ』のコラムにおいてコミックマーケットに来るような若年層を、半ば揶揄的に採り上げる言葉でした。そして1989年、連続幼女殺傷事件(宮崎勤事件)において、「おたく族」がバッシングの対象になりました。

そんな中、「おたく族」の当事者として、この事件を「自分の問題として」受け止め、このような事件を生み出してしまったかについてどう向き合うかということを積極的に発言した論客として、大塚英志がいました。大塚は『Mの世代』(太田出版編集部:編、太田出版、1989年)に収録された中森との対談で、自分たちの世代が置かれたメディア状況について論じており、宮崎の事件の「背景」について述べていました。また大塚の著書として、宮崎の事件のほとんど直前に出された『少女民俗学』(光文社カッパ・サイエンス、1989年)や、1991年に出された「中島梓」こと栗本薫の『コミュニケーション不全症候群』(筑摩書房)、そのほか香山リカや切通理作など、サブカルチャー論系の論客(それも1990年代にオウム事件などを通じて若者論を主導していく論客)の発言力が増していきました。彼らは若年層を巨視的に捉えた調査などではなく、漫画などの受容・消費から若年層のコミュニケーションを語り、そこから若年層の「現実」を解き明かしていくというスタイルで売り出しました。

もう一つは若者研究の側の変化です。1980年代から、様々な雑誌と「若者文化」が乱立し、「若者」という統一的な指標では若年層の現状を見ることや、また商品化・メディア化により「若者文化」が上の世代とは切り離された下位文化ではなく全世代的なものになったことから、「文化」から若年層を「分析」することが困難になったという認識が広がりました。そのため若年層を検討していく過程としてコミュニケーションに注目が集まるようになりました(このあたりは、『リーディングス 日本の教育と社会18 若者とアイデンティティ』(日本図書センター、2009年)の解説で浅野智彦が詳細に論じているのでそちらをご参照ください)。ここで中心的な役割を果たした論客としては宮台真司が挙げられます。

このように若年層をコミュニケーションやメディアの受容から捉えるという傾向が、1990年代以降一気に進行しました。しかし、そのような議論は、オウム事件絡みで女子高生を擁護していた宮台が、1998年になると突如として「脱社会的存在」と言い出して若年層の危機を煽ったり、大塚英志はそもそも1990年代半ば頃から自分が共感できるかどうかを基準にして若年層を語っていたりと、論客の主観によって非常にぶれやすいものであることを付け加えなければならないと思います。

本来であればそのような議論は、詳細な調査と共に裏付けしていく必要がありました。しかし現状の若者論を見てもわかるように、若者論において求められているのはもっぱら若年層をいかに上の世代と違った心理やコミュニケーションのあり方に立っているかということを(悪い言い方をすれば差別的に)描くことです。他方で「メディアの変化」を口実に、若者論の側は客観性の乏しさという批判を忌避してきました。「デジタルネイティブ」論も、そのような若者論の現状から生まれたものに過ぎません。

「デジタルネイティブ」論とは、結局のところ、サブカルチャー系の論客の一人相撲であった若者論に何ら批判的な視座を加えないまま、そこにただ乗りするだけのものに過ぎないのです。そのような若者論を検証する必要があるのだということを述べつつ、連載を締めたいと思います。思潮カテゴリではまた新たな連載を予定しておりますが、テーマは未定です。


【今後の掲載予定:定期コンテンツ(原則として毎月5,15,25日更新予定)】
第17回:【科学・統計】レビュー系サイト・同人誌のための多変量解析入門(第3回:クラスター分析)(2013年4月15日配信予定)
第18回:【政策】若者雇用戦略を総括する(第4回)(2013年4月25日配信予定)
第19回:未定(2013年5月5日配信予定)

【近況】
・「杜の奇跡20」新刊の同人誌『統計学で解き明かす成人の日社説の変遷――平成日本若者論史5』が現在発売中です。また、電子版は4月頃にKindleでの刊行を予定しております。
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http://tsuda.ru/tsudamag/2013/02/2033/

・「検証・格差論」の最終回が掲載された『POSSE』第18号が発売中です。
http://www.npoposse.jp/magazine/index.html

・「超文学フリマ in ニコニコ超会議2」にサークル参加します。
開催日:2013年4月28日(日)
開催場所:幕張メッセ(JR京葉線「海浜幕張」駅より徒歩5分程度、またはJR総武本線「幕張本郷」駅・京成千葉線「京成幕張本郷」駅より京成バス利用)
スペース:未定

・「第10回博麗神社例大祭」にサークル参加します。
開催日:2013年5月26日(日)
開催場所:東京ビッグサイト(ゆりかもめ「国際展示場正門」駅より徒歩3分程度、東京臨海高速鉄道りんかい線「国際展示場」駅より徒歩5分程度)
スペース:「す」ブロック37a

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『紅魔館の統計学なティータイム』
告知ページ:http://ameblo.jp/kazutomogoto/entry-11422949903.html
とらのあな:http://www.toranoana.jp/mailorder/article/04/0030/08/67/040030086743.html
COMIC ZIN:http://shop.comiczin.jp/products/detail.php?product_id=14496
電子書籍(メロンブックスDL):http://www.melonbooks.com/index.php?main_page=product_info&products_id=IT0000160128
『社会の見方、専門知の関わり方――俗論との対峙から考える』(COMIC ZIN専売)
http://shop.comiczin.jp/products/detail.php?product_id=14728

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(2013年4月5日)

奥付
後藤和智の若者論と統計学っぽいブロマガ・第16回「【思潮】「デジタルネイティブ」論を批判的に読み解くために(最終回)」
著者:後藤 和智(Goto, Kazutomo)
発行者:後藤和智事務所OffLine
発行日:2013(平成25)年4月5日
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