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その11 武術の型の意味と効用。(前半)


 

武術の学びが進むと色んなことが分かってくる。武術とは現代の常識とは違った世界から成り立っているのだ。武術が盛んだった時代は現代の日本から見れば行ったこともないような遥か遠い世界と同じ。行ったことのない世界のことは行って見なければ理解は出来ない。僕は武術の学びが進むごとに遥か遠い時代の話を聞かせて頂き、その時代の方々の武術と同じ感覚を感じるようになってきていた。


武術には型というものがある。型とは武術のご先祖様からのプレゼントであり、手紙だと僕は教えて頂いた。そして現代では、あまり聞かない型の解釈も聞かせてもらった。それは、型は使えないように出来ている……だ。型をいかに分解して使えるようにするのか? これが現代の武道の課題だったりもする。型が使えないならそれをやっても上手くいくはずがない。確かに型を試合で使っている強い人を見たことはない……。


技の名前を覚えると弱くなるよ。技は覚えると一度弱くなる。これも……?だ。技を覚えるから強くなるんじゃないのか? 学びの始まりだったら全く理解が出来ない話。だから最初はこんな話題は出てこなかった。少しは学びが進んできたから出て来た話題なのだろう。


僕が学んだ武術では初めに、歩くことを行う。徹底的に歩く。その歩き方は現代では見たことのないヘンチクリンな歩き方。それをやって身体を変えたら、今度は型をやる。型をやりながら身体を変えてゆく。初めは全く意味が分からない。それでも毎日やる。毎日やると身体が変わってくるのだ。


ヘンチクリンな動きを毎日やると今までと違った身体になってゆく。身体が変わると身体を動かす時や、普段の時の感覚も変わる。その変化を師匠に報告し、その報告が正しければ次のコツを聞かせてもらえる。間違っていればそのまま続ける。


間違った動きは身体に悪い。だから不調が出てくる。その不調の原因を自分で探る。そうやって自分で工夫しながら続けていると、正しい動きになり正しい身体の変化が訪れる。そしてその変化を報告する。正しければ次のコツを聞かせてもらえる。正しくなければまたやり直しになる。僕はそうやって続けてきた。


武術には口伝というものがある。遥か遠い時代から口頭で伝えられてきた言葉、武術を修行する際のコツとやり方が口伝だ。こうやって立つとかこうやって歩くとか、最初はごく基本的な身体操作を口伝どおりに行ってゆく。


口伝に従い、日々そのとおりに繰り返すことを鍛錬と呼ぶ。鍛錬とは刀鍛冶の使う言葉。武術と刀は深い関係を持つ。深い関係というよりも表裏一体の存在なのだ。お互いを学び合い、お互いを活かし合う。かの宮本武蔵先生も柔術をやっていた。実は宮本武蔵先生による柔術に関する口伝も残っているのだ。


刀を鍛錬するとは熱い火で刀を焼き叩き急速に冷やす。そうやって鍛錬すると不純物が消えてゆく。不純物が消えて行けばいくほど刀はしなやかになり、なおかつ強くなる。鍛錬とは単純に鍛えるのとは違った意味を持つのだ。鍛えながら余計なものを省いていく。余計なものとは、当然身体の余計な力のことである。武術の鍛錬は口伝という遥か遠い時代から受け継がれた言葉によってコツが伝えられてきた。