1.『続・平謝り』 〜格闘技界を狂わせた大晦日10年史〜
この10年間、格闘技は未曾有の盛り上がりを見せたが、結果的にそれを盛り上げたK-1もPRIDEも崩壊してしまった。そこには様々な原因があるが、良くも悪くも一番の原因は大晦日イベントにあった。テレビ局も含めて当事者の谷川貞治(元K-1イベントプロデューサー)が『平謝り』にも書いていない内幕を綴って、検証する。
●第5回 2002年 (後編) 『テレビ戦争前夜』
2018年、国立競技場は東京オリンピック開催を見越して、巨大な開閉式のドーム型競技場に改装されるそうです。今でも時々、千駄ヶ谷の国立競技場駅の近くを通りますが、よくあんなデカイ競技場で格闘技のイベントができたものだと、つくづく思います。国立競技場が改装されたら、もう一度あそこでイベントができるのか? そのくらいの夢は持ちたいですね。
さて、2002年に行われた『Dynamite!!』は、ドタバタしたものの大きな成功をもたらしました。当日の観客動員は9万人。スカパーのPPVの視聴世帯数は13万件。これはいまだに破られていない日本のPPVの記録です。映画やアダルト、アイドルのコンサートより、僕らがやった格闘技イベントがPPVの記録を持っているのです。
選手に関しては、やはり吉田秀彦の参戦が大きかった。これまで、PRIDEをはじめ、MMA人気は「プロレスラーvs格闘家」の構図が主軸となっていましたが、吉田の参戦により「一流のアマチュア・アスリートがどこまで通用するか?」という、新たな強烈なテーマが生まれたのです。そして、これまでオリンピックに出るような柔道選手、レスリング選手、あるいは相撲取りも、プロになる道はプロレスラーしかなかったのですが、そういう選手にもプロ格闘家という道が開けたのは、大きいでしょう。また、ファンにとっても「次はどんな大物が参戦するか?」という、新たな幻想が生まれたのです。この吉田参戦により、時代は「プロレスラーからアマチュアのトップアスリートへ」と、移っていったと言っても過言ではありません。吉田の参戦がプロレスラーのMMA参戦を終わらせましたね。
また、思いもよらないこともありました。このDynamite!!で、ボブ・サップが当時のPRIDE王者のアントニオ・ホドリコ・ノゲイラと「あわや」という良い試合をし、大ブレイクするきっかけを作ったのです。「こいつは面白い」と、僕は次のK-1グランプリにサップを無理矢理出場させ、あろうことかフォータイムス王者のアーネスト・ホーストとぶつける賭けに出ました。もちろん、サップはK-1のド素人です。しかし、これが見事に当たって、サップのまさかの大勝利。フジテレビの煽りのうまさもあって、サップは史上空前の大ブレイクをしたのです。
決勝戦でもホーストvsサップの再戦をやったのですが、この大会は東京ドームでK-1史上最高の観客動員を記録しました。ドームのチケットが完売しましたからね。今では考えられない話です。さらに、新日本プロレスの東京ドーム大会に貸し出したところ、中西学と良い試合をし、この一戦だけで東スポのプロレス大賞まで獲得したのです。
このようないい流れで、2002年はやることなすこと、いい方向に転がっていきました。だから、大晦日についても、吉田秀彦とボブ・サップで十分。あとは、そこにミルコ・クロコップ、藤田和之、安田忠夫、佐竹雅昭らを入れれば、十分いいカードが組めたのです。結果的に2002年ほど、楽だった大晦日はありません。
大会名は『イノキ・ボンバイエ』にしましたが、この年は猪木軍vsK-1軍だけでなく、PRIDE軍を合わせた三つ巴の闘いにし、あえて両軍の負担を減らしました。2002年は、それほど勢いで突っ走れたのです。しかし、唯一困ったことが僕らの身の上に起こりました。それがのちの大晦日格闘技戦争へと繋がっていくのです。
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