1.『続・平謝り』 〜格闘技界を狂わせた大晦日10年史〜
この10年間、格闘技は未曾有の盛り上がりを見せたが、結果的にそれを盛り上げたK-1もPRIDEも崩壊してしまった。そこには様々な原因があるが、良くも悪くも一番の原因は大晦日イベントにあった。テレビ局も含めて当事者の谷川貞治(元K-1イベントプロデューサー)が『平謝り』にも書いていない内幕を綴って、検証する。
●第3回 2001年(後編)『打倒・紅白!』
ミルコ・クロコップが藤田和之に勝ったことで、紅白歌合戦の裏番組で格闘技をやろうというムードは一気に高まりました。それも、K-1とも違う、PRIDEとも違う『イノキ・ボンバイエ ~猪木軍vs K-1軍全面対抗戦~』という新しいコンセプトが生まれ、8月の成功で自信をつけたからです。
最初に言ってきたのが、日本テレビでした。しかし、日本テレビには条件が付いていました。それは、当時人気のあった『進め! 電波少年』の枠の中でやるということ。紅白裏で高視聴率を上げていた『電波少年』を日テレは捨てきれなかったのです。
その一方でTBSは19時からの『レコード大賞』に続き、21時から2時間半まるまる格闘技に開けてくれるというオファーを来れました。僕らの選択は当然TBSです。そして、この大晦日イベントは普段どおりTBSに放映権だけを売るのではなく、スポンサー、チケット事業も全てTBSがリスクを持つというスキームが組まれたのです。
それをK-1が窓口となり、PRIDEがイベント制作を行い、猪木軍とK-1から選手を出すというやり方を取りました。つまり、TBSに全社あげて応援する形のスキームを組んでもらったのです。それを柳沢忠之と榊原信行氏と僕で練り上げましたが、その調整役として活躍したのが、「PRIDEの怪人」百瀬博教さんでした。
紅白の視聴率に格闘技がどこまで迫れるか?
まず広告塔には、格闘技界一の知名度の猪木さんがいる。猪木さんには主にプロモーションの顔として活躍してもらうことにしました。猪木さんは、百瀬さんと一緒に東京中を宣伝カーに乗って走り回り、選挙活動のようにPRしてもらったり、新宿公園でホームレスに炊き出しをするなど、いろんなパフォーマンスをしてもらいました。もちろん、TBSも大晦日に向けていろんな番組に枠をとり、この大晦日格闘技イベントの特集を組んでもらったのです。
猪木さんという広告塔がいて、『イノキ・ボンバイエ』のタイトルも「猪木軍vs K-1軍」のコンセプトもいい。あとは、できるだけ知名度のある選手同士のマッチメイクを組んで、必死にプロモーションすることだけ。しかし、ここで選手に関しては大きな障壁がありました。毎年12月には、K-1の本番イベント『K-1 WORLD GP』があり、それまでK-1選手が選べなかったことです。これは、その後の大晦日でもずっと苦しみました。
K-1グランプリの前に選手を選ぶことは、もしK-1の試合で怪我してしまったらというリスクがあるし、なんと言っても簡単に発表したら、K-1を放送するフジテレビを怒らせることになってしまう。そんなことになったら大変。ということは、K-1が終わる12月半ばまでカードも発表できないのです。しかし、それではTBSが納得しない。
そこで、僕らはその年のK-1の優勝戦線に関係のないファイターをまず中心にカード編成を考えました。ミルコに、マイク・ベルナルド、サム・グレコ、レイ・セフォー…ちょうど2000年代に入り、これらの知名度のあるベテランファイターは優勝戦線に絡まなくなってきたのです。そして、夏の前哨戦では猪木軍が負けたので、僕らは勝ったミルコより、あえて負けた藤田のリベンジをテーマにしょうと、メインは藤田に当時一番人気のあったジェロム・レ・バンナをぶつけることにしました。メインが決まればイベントは煽りやすい。ところが……。
猪木軍は実質、新日本プロレスに力を借りるしかなく、これがなかなか決まらない。K-1軍より、むしろ猪木軍がなかなか決まらない。しかも、一番協力的な藤田がアメリカの練習中に怪我をしてしまったのです。
どうしょう? メインのインパクトが欠けたら、初の大晦日興行が成功しない。なんとかしなければならない。そこで、まず白羽の矢を立てたのが、小川直也でした。それは大会まであと3週間に迫ったギリギリのタイミング。当然、小川が出れば何も言うことはありません。
しかし、この小川が相当厄介で、百瀬さん-猪木さんラインをしてもなかなか首を縦に振らない。そこで、石井館長まで小川を口説くことに乗り出しましたが、小川の返事は「1億円のファイトマネーで、対戦相手がピーター・アーツなら考える」というものでした。その小川の態度に、石井館長は相当キレていましたね。
だいたいアーツはK-1グランプリで足を痛めていたし、総合には向いていない選手。アンディ亡き後のK-1の象徴でもあります。さらに、今回出場するK-1ファイターは、ミルコを除いてほとんどMMAの練習もロクにしておらず、大晦日の3週間前にはK-1のグランプリがあったばかりなのでボロボロの状態でした。
それほどのハンディを背負いながら、なんでMMAの試合に出さなきゃいけないんだ、という思いが石井館長には根本的に強かったのです。こっちは必死なのに、猪木軍は全然選手を揃えてくれない。大会名も、挽回しなきゃならないのも猪木軍の方でしょうと。しかし、イベントをやると決めた以上、TBSのプレッシャーも強い。
そこで、僕らはジェロムにケン・シャムロックを、レイ・セフォーにホイスを、シリル・アビディにフランク・シャムロックを…という具合に一流のMMAファイターをマンツーマンでコーチにつけることにしました。これはプロモーションの意味もありましたが、ファイトマネーだけでなく、そういうことにもお金をかけたのです。
しかし、石井館長、猪木さん、百瀬さんをもってしても、
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