全ての試合が終わっても、オクタゴンでの出来事、衝撃的で残酷な映像が僕の頭の中から消えない。
そんな状態の僕を乗せ、アルティメット大会観戦ツアーのバスが会場を後にした。バスの中では日本からツアーでやって来た観客たちのテンションが徐々に上がっていく。会場ではシーンとして誰もが口を閉ざしていたのに。口が利けないほど凄惨な試合が連続した第2回アルティメット大会。
人があんな目に遭うのを連続に、しかも真近で見たのはあのデンバーでの夜だけだ。バスに乗り込むと、あの凄惨で残酷な試合の映像が僕の頭の中でどんどん大きくなっていった。バスの窓から見える景色は真っ暗な闇。デンバーというアメリカの田舎町の片隅で行われた第2回アルティメット大会。おそらく、わざわざ片田舎を選んで会場を決めたんじゃない。そこしか出来る場所がなかったんだろう。アメリカはバイオレンスに対する認可が厳しい。だから都会では開催することはなかなか出来なかった。田舎のほうで、さらに法律が緩い州でしか大会開催の許可は出なかったのだ。アメリカは州によって法律が違う。
会場を出ると周りには何もない、ひたすら道路だけがある。バスの周りは真っ暗闇。窓から見える外も真っ暗。真っ暗な外の景色を見てると、さっき見た凄惨な映像が浮かんでくる。大きく広がっていく映像がそのうち、頭の中から更に進み心の内側にまで入ってくるような感じがした。その映像に僕は脅え始めていた。とにかくあの映像がどんどん頭の中で大きくなってゆく。そして大きくなるにつれて、どんどん怖くなった。僕は口を閉ざす。人と喋るような気分じゃなかったのだ。
ところがバスに乗っている他の人たちは、だんだんと陽気になっていった。誰もがさっきまでオクタゴンの中で起こったことを興奮気味に語っていた。試合の振り返りを喋ってる人たちの声は次第に大きくなってゆく。そしてほとんどの人が目を輝かせながらこんなことを言う。
「きっと僕たちだけが見た」
「あんな物凄い試合を見たのは僕たちだけだ」
「日本にいる人は誰もまだこんな試合があったことさえ知らない」
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