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小説『神神化身』第十一話 「燎原館集団失踪事件(1958年)」

2020/07/31 19:00 投稿

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小説『神神化身』第十一話

「燎原館(りょうげんかん)集団失踪事件」(1958年)

雑誌「次世代に語り継ぎたい謎」より(ルポライター・未解決事件研究家:柵原元之筆)


【概要】

 燎原館(りょうげんかん)集団失踪事件とは、1958年4月7日の夕方に××県張之宮で起きたとされる男女7人の集団失踪事件である。事件名は失踪した7人が燎原館という洋館の住人であったことに由来する。今に至るまで燎原館事件の関係者は見つからず。未だに全容が解明されておらず、不可解な点が多く残された未解決事件である。事件後7年にわたって燎原館に立ち入ることが禁止された。


 行方不明者たちは男性4名・女性3名からなる。氏名は以下の通り。


燎原均(りょうげんひとし)(58・燎原館大家)、燎原小百合(さゆり)(60・燎原館大家・均の妻)、宇佐川一(うさがわはじめ)(20・張之宮大大学生)、野道弘(のみちはじめ)(19・張之宮大大学生)、商野(しょうの)たま(22・ウエイトレス)、米谷淳子(よねたにじゅんこ)(20・無職)、クラミタカオ(?・無職?) 

 
 この中でクラミタカオのみ正確な氏名・出自(しゅつじ)が判明していない。

 クラミタカオは張ノ宮出身ではなかったとされているが、公式の記録が存在しないため、真偽は未だ不明である。

 以上の7名は当日バラバラの場所にいたとされているので、当初警察はこれを集団失踪とみなしていなかったが、『いずれもほぼ同時刻に失踪』『関係者全員が燎原館の住人』ということから見解を改め、以後集団失踪事件として捜査。

 

【失踪】

 以下、各関係者の失踪場所(最後に存在が確認された場所)・失踪推定時刻。失踪推定時刻については目撃者などの証言・状況証拠による。

・燎原均:燎原館・自室? 16時22分に玄関にて近所の人間と話していた。

・燎原小百合:八百屋。16時43分に茄子を購入している。その後失踪。

・宇佐川一:張之宮大学・物理学研究室。16時46分の実験点呼の際にいたが、次の瞬間に失踪。後述の米谷淳子のケースと同じく密室からの消失である。

・野道弘:本屋。16時40分前後に店内で立ち読みをしていたとの報告あり。その後失踪。

・商野たま:喫茶友露宇(トゥモロウ)勤務中。「気がついたらいなかった」とされているが、16時45分に休憩に入ると同僚のウエイトレスに告げている。

・米谷淳子:列車車内。実家(茨城)に帰省する為に列車に乗っていた。17時には既に失踪していたとの周囲の証言があるが、16時30分頃に隣席の客が彼女と談笑している。列車は16時10分から18時22分の間一度も停車していなかった為、米谷淳子は走る密室の中から消えたとして大きく取り上げられる。

・クラミタカオ:不明。最後に確認されたのは4月6日19時頃、燎原館の夕食後。散歩に出てくるとの証言あり?(正確な出典無し)また、同日19時12分にも、舞奏社(まいかなずのやしろ)付近にて目撃証言あり。



【不審火の謎】

 集団失踪が起きた4月7日の16時40分頃、燎原館周辺にて火事が発生。近くの林と納屋が半焼した。しかし、燎原館には火事の被害が無かった。

 一方で、専門家を交え現場検証を行ったところ、周囲の状況から出火元が燎原館であると断定される。つまり、出火元である燎原館のみが無事で、周りのみが火事の被害を受けた形である。この不可解な火事は失踪事件と結びつけられることが多い。


【捜査】

 前述の通り、関係者が誰一人として見つかっていない上に手がかりがほぼ無かったため、捜査は難航した。あまりの進展の無さに、これは政府が何らかの事実を隠蔽していると扇情的(せんじょうてき)な記事を書き立てるものもいた。警察はそれを否定するものを何一つ持っていなかったため、燎原館集団失踪事件および燎原館周辺の火事は超常現象や地球外生命体、秘密兵器などを含む様々な原因と結びつけられた。

 

【クラミタカオについて】

 この事件において焦点となるのがクラミである。彼は公式な記録が一切存在せず、燎原館に残る日記や周囲の証言にて存在が確認されただけの住人である。

 クラミは推定20代前半であったとされ、主に芸事で身を立てていた旅芸人のようなものだったとされている。クラミの名前を知っている人間は、主に彼の芸を楽しんでいる層であった。しかし、クラミがどのような芸を行っていたかは記録に残っていない。

 クラミが燎原館に入居したのは1956年の10月14日である。


 以上のような「素性がはっきりしていない」「彼のみ4月7日の時点ではなく4月6日の時点で失踪している」という点から、犯人説が繰り返し唱えられる存在でもある。しかし、クラミ犯人説はバラバラの場所にいた人間を同時刻に略取・誘拐することは不可能であるという理由から、その都度否定されている。

 

【共犯説】

 現在主流となっているのが、失踪した7人全員が何らかの理由で失踪することを選んだ共犯説である。しかし、その点でも何故彼らが失踪しなければならなかったのか。そして何故クラミのみが4月6日の時点で失踪したのかの疑問は残る。


 また、共犯説においても燎原館の火事については解決されない。

 



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著:斜線堂有紀

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

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