小説『神神化身』第四話
「看板店員六原くんにランチ誕生のきっかけ リストランテ浪磯(ろういそ)」

 地元の食材をふんだんに使った料理が名物の「全力食堂リストランテ浪磯」にて、今月12日より一ヶ月の期間限定「全力浪磯ランチ」(1000円)が提供される。すっと伸びた背筋にさわやか笑顔が印象的な看板店員の六原三言(むつはらみこと)くん (17)の意見をふんだんに取り入れた同メニューは、朝獲れの地魚を使った焼き魚に小鉢二品、そしてカツ丼と味噌汁を合わせたボリューミーな内容。提供される地魚は水揚げ次第だが、浪磯で獲れる地魚はどれも絶品なので心配ご無用。
 
 魚と肉が『全力』で楽しめるこのメニューに対し、店主の小平勇勝(こだいらゆうしょう)さん(46)は「全力で満腹にしてやる覚悟。空腹という言葉の意味を二度と思い出せないようにしてやる」と意気込みを見せている。
 
 提供の発端(ほったん)となった六原くんは「ボリュームのあるランチになりました。おかずに合わさるのが白米じゃなくてカツ丼だったらもっと嬉しい。そんな夢のようなメニューで」とにっこり。地魚は皿に載りきらないほど大きく、カツ丼は分厚いロースがさっくり衣に包まれた逸品。この組み合わせが1000円というのは破格だ。

 期間限定でこの『夢』が実現したのには理由がある。六原くんは地元の舞奏社(まいかなずのやしろ)に所属し、覡(げき)としても活動しているのだ。店主の小平さんは六原くんの覡としての活動を応援しており、こうして「食」の面から若者を支援することが出来ないかと考えたのだとか。来たる舞奏競(まいかなずくらべ)にも意欲を燃やす六原くんは、日々舞奏の稽古に励んでいる。激しい稽古の後にこのボリュームはピッタリだろう。

 「全力食堂リストランテ浪磯」には六原くんと同じく舞奏の稽古に励むノノウたち(※舞奏社に所属していない舞い手のこと)も多く訪れるため、需要は多そうだ。
 
 また今月同日から食後のデザートとして六原くんの開発したチーズケーキの提供も始まる。食堂という場にややそぐわない気もするものの、しっとりとした口当たりに上品な甘さと味が確かなので話題を呼びそうだ。開発の動機について、六原くんは「幼なじみの二人に食べてもらいたくて作りました。といっても、比鷺(ひさぎ)は甘い物が苦手だから試食してもらえなくて、遠流(とおる)は忙しいから半年会えてないんですけど」と笑顔で語る。これは六原くんなりのジョークなのだろう。仲良しの二人に食べてもらえることを願うばかりだ。

 夜は日本酒の提供も行っており、グッと大人の雰囲気に。「全力食堂リストランテ浪磯」では選んだ日本酒に合う地魚料理をその場その場で提供してもらえる「全力晩酌(ばんしゃく)コース」(5000円~)もあり、酒好きにも嬉しい。また逆に、注文した地魚料理に合った日本酒も選んでもらえる為、日本酒初心者にもありがたい。

 気風の良い店主に元気で努力家な名物店員が揃う「全力食堂リストランテ浪磯」を、こちらも全力で楽しもう。

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著:斜線堂有紀

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。



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