小説『神神化身』第二話

「若手トップアイドル・八谷戸遠流(やつやど とおる)インタビュー」 

 誰もが認めるそのルックスと卓越(たくえつ)した演技力で世間を騒がせる今最も熱い高校生アイドル『八谷戸遠流』に聞く自分、仕事、そして「日々」のこと。

確かな実力を持ちながら努力を惜しまないストイックな彼の素顔に迫ります。

「時間は限られている。だからその中で出来る限りのことをしたい」


──この度は初主演映画『運命の恋、なんていわない。』公開おめでとうございます。

ありがとうございます。いつかは主演をやらせて頂きたいとは思っていたのですが、こうして実際にオファーを頂くとプレッシャーも大きかったです。

──若手の中では一番の演技力と言われていますが。あの陸井監督が太鼓判(たいこばん)を押したとも。

陸井監督にはしごかれましたから(笑) いや、しごいて頂きました(笑) でも、僕はまだまだですよ。『恋ない』でも事務所の先輩の橋本さんにお世話になりっぱなしで。

(※編集部注:橋本さん=キングメイツ所属の俳優・橋本昇。)

 

──今最も忙しい若手なのに、台本の読み込みもしっかりとされていたとか。

やはり演技はまだ門外漢(もんがいかん)なので。読み合わせでしっくりこないところがあればとにかく周りに聞いたり、自分で何パターンか演技を試してみたりしましたね。そこもやはりみんなのお陰です。

──今回の遠藤守役は今までの「国民の王子様」である八谷戸遠流のイメージと違ったドSな役柄でしたが……。

そうですね(笑) ヒロインにあんなにキツいこと言っていいの? とヒヤヒヤしてました。でも、台本を読んでいく内に自分と重なる部分もあって。僕が演じた守は不器用だけど繊細(せんさい)で自分を曲げようとしないんですよ。僕も頑固(がんこ)なところがあるから。

──何だか意外ですね。

友人や先輩にはよく指摘されます。

──八谷戸さんの中にドSな側面もあったり?

そんなことはないんじゃないかな? 僕はいつもイジられる側なので(笑)

──『恋ない』のCMでは「千切られたいの?」というSっ気たっぷりな台詞がハマっていましたが?

あの台詞(笑) あれヒロイン相手の台詞ですからね! おいおい守くん飛ばしすぎだろ! と(笑) 普段じゃ絶対言わないような台詞なので楽しくはありました。

──普段の八谷戸さんとのギャップでゾクゾクしたというファンも多かったとか。

何にせよ楽しんで頂けたら一番かな、と。あ、でもCMで見るより守は良い奴なんですよ! 本当に!

──撮影期間とライブツアーの期間が重なったことで、出演が危(あや)ぶまれていたこともありましたね。

そうです。それでもやりたいって言い張ったんです。そういうところが頑固でどうしようもないな、と。

──しかし、リハーサルまでには完璧に仕上げ、本番も過去最高の動員数を誇ったとか。

ファンの皆さんはわざわざ時間を割(さ)いて僕を見に来てくれるわけですから。関心を向けてもらった分、期待に応えないといけないと思うんです。

──本当にストイックですね。16歳とは思えない。

時間に対して貧乏性なだけです(笑) なにかやっていないと落ち着かない。


──本職だからか『恋ない』でのダンスも凄かったですね。ダンスはアイドルになる前から?

はい。僕の地元の浪磯(ろういそ)は舞奏(まいかなず)が有名で、舞奏社(まいかなずのやしろ)の歴史も古いんです。周りはみんな僕よりずっと踊れる人間でしたよ。覡(げき)を目指す人も多かったですし。

(※編集部注:覡とは舞奏の踊り手のこと。)

──今色々なところで舞奏も注目されていますね。

本物を見たら更に凄いですよ。皆さんには是非観囃子(みはやし)になって頂きたいです。

(※編集部注:観囃子とは舞奏の観客のこと。観囃子をより盛り上がらせた覡が優れた覡なのだとか。)

──もし八谷戸さんが覡になったら、観囃子が増えそうですね。何せ「国民の王子様」ですから。

出た。その肩書(かたがき)は恐れ多いんですよね(笑)

──そんなことないですよ!

(笑) その肩書に恥じないよう、期待に応えられたらなと思います。ただ、自分の可能性を広げてみたいなとも思っていて。今、事務所と相談しています。

──もしや、海外進出なども?

まだ詳しくは言えないですが、あれこれ考えてはいます。いずれにせよ応援してくださっている皆さんに楽しんで頂ければと。

──最後になりますが、八谷戸さんから一言頂けますか?

『恋ない』いよいよ公開になります。楽しんでください。

──ありがとうございました! ……最後に「千切られたいの?」頂いてもいいですか?

これ紙面インタビューなのに(笑) わかりました。(咳払いをしながら)……千切られたいの?

──本当にありがとうございます!

またお会い出来ると嬉しいです、八谷戸遠流でした。

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著:斜線堂有紀

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。


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