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窪寺博士のダイオウイカ研究記-その27

2020/05/14 15:29 投稿

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【本号の目次】
1. オバマ新大統領
2. 科学研究助成金の不採択
3. 2009年、国際頭足類研究シンポジウム
4. シンポジウムの研究発表


オバマ新大統領

  2009年は年明け早々、米国の大統領が共和党のブッシュ氏から民主党のオバマ氏に移行した。対岸のことではあったが、好戦的なブッシュ大統領から穏健派で初めての黒人大統領、それも学者肌ということで、今後の世界平和や学術研究の進展に大きな期待が持たれた。私もその快挙に拍手を送った一人である。
  3月にはルーティンワークのマッコウクジラ胃内容物の調査のため、清水市にある東海大学海洋学部の大泉研究室に出向いた。鯨類研究所からは田村さんと磯田さんが押っ取り刀で駆けつけた。いつものように有志の学部学生にお手伝いをお願いして胃内容物の処理作業が始まった。今年は大泉研の大学院生を始め12~15名ほどの学生が参加してくれた。しかし解析する胃内容は北西北太平洋で捕獲された雌3頭分のサンプルしかなく、実質3日で作業が終了、すこし不完全燃焼的な幕切れとなった。クラゲイカとヒロビレイカが主体をなしたが、常連のキタノスカシイカ、キタノクジャクイカ、ニュウドウイカが出現した他、特大のタコイカ、テカギイカ属数種、ツクシユウレイイカなどが出てきた。魚類では消化の進んだイレズミコンニャクアジが査定され、マッコウクジラが捕食する魚類として新記録となった。

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マッコウクジラの胃中から出てきた半分消化された大きなイカの口から上下顎板を取り出し、種の査定をするとともに大きさを測り、生きていた時の大きさと体重を推定する。このイカはニュウドウイカと査定された

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消化の進んだ胃内容物から頭足類の上下顎板、寄生虫のアニサキス、大型イカの精莢をソーティングする

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マッコウクジラの胃内容物として魚類はほとんど出てこないが、今回は消化の進んだ魚類の頭部が見つかり、顎骨格、耳石の形態からイレズミコンニャクアジと査定された

科学研究助成金の不採択

  平成21年度がスタートした4月初旬、科学研究助成金担当の職員からメールが入った。なんと昨年申請しておいた「中深層性大型頭足類とマッコウクジラの共進化的行動生態に関する先駆的研究」が不採択になったとの知らせであった。直ちに、プロジェクトのメンバーである天野・青木グループ、大泉・庄司グループ、小笠原の森さんと磯部さん、そして深海カメラ開発の五島さん、リトルレオナルドの鈴木さんに科研費不採択のメールを送った。皆から落胆の返事が返ってきた。

  なんてこった・・・

 研究費がなければ新しい超小型深海HVカメラやバイオロガーの開発も小笠原での調査も駿河湾の新たなプロジェクトもすべて水の泡になってしまう。来年度の科学研究助成金に再度応募するとしても、この一年間のブランクは致命的になるかもしれない。しかし、無い袖はどうしても振ることはできない。ここは視点をかえて、来年度の科学研究助成金に採択されるための戦略を1年かけて練ることにした。共同研究の皆さんの意見をしっかり聞いて納得のいく申請書を用意するのだ。

2009年、国際頭足類研究シンポジウム


 2009年は三年おきに開催される国際頭足類諮問評議会(CIAC)のシンポジウムが、9月にスペインの古都ビゴで二週間にわたって予定されていた。1988年に米国ワシントンで開かれた第二回のシンポジウムに初めて参加して以来、東京、英国ケンブリッジ、米国サンタバーバラ、スコットランド・アバディーン、タイ・プーケット、豪州ホバートと毎回顔を出して9回目を数える。前回の2006年のホバートでは、小笠原父島沖で撮影したダイオウイカの連続静止画を解析した研究成果を口頭発表して、参加していた200名あまりの頭足類研究者の度肝を抜いた。
  今回は科研費がないので自費の参加となるが、日本代表として行かないわけにはいかない。参加するからには前回同様、世界の頭足類研究者がアッというような研究発表をしたい。そこで、この三年間小笠原父島近海で行ってきたHD深海カメラ調査を総括し、撮影された映像を詳細に見直すことにした。

シンポジウムの研究発表要旨

 研究発表のタイトル:
”In situ observations on bait-attacking behaivours of neon flying squid and diamondback squid off the Ogasawara Islands”(小笠原諸島沖のアカイカとソデイカの餌攻撃行動の直接観察)
 
 要旨:
 2006年から2009年の3ヵ年の調査で、HD深海カメラの撮影は延べ108回におよび、総計135.4時間の深海映像を得ることができた。出現したイカ類は、アカイカ、ヒロビレイカ、ソデイカの3種で、1時間当たりの出現回数は、1.87、0.18、0.01の順でアカイカの出現率が最も高かった。また6~12月の調査期間中、3種ともに12月の出現率が高かった。アカイカは水深450~1000mまで出現するが450~700mで出現率が高く、ヒロビレイカは600m以深に出現し、700mで出現率が高い。ソデイカは水深600mで2個体が撮影されただけで、ダイオウイカと同じように光に寄ってこない習性があると示唆された。
 餌を襲う際の映像から、アカイカとソデイカは視覚により餌を認識していると推察された。この二種は、発光器をつかったヤツデイカの攻撃行動よりも比較的単純な行動パターンで、腕を前に直線的に接近して八本の腕を大きく広げて餌を抱え込むように襲うことが示された。また、アカイカは餌を襲う場合や交接の際に体全体から瞬時に光を発することが確かめられた。この光は、雄と雌が出会い交接する際に、なんらかの意思疎通手段として使われるものと推察された。

 研究発表で使ったパワーポイントのスライドを何枚か紹介する。

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発表スライド:2006~2008年の調査時期と調査海域、深海カメラ操業回数、実質撮影時間

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発表スライド:月別・水深別のアカイカ・ヒロビレイカ・ソデイカの出現率(1時間当たり)

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発表スライド:アカイカの餌攻撃行動(動画)

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発表スライド:ソデイカの餌攻撃行動(動画)

 世界各国から集まった200名を超える頭足類研究者の前で、ビデオ映像を交えて口頭発表をおこなった。前回のダイオウイカとは比較にならないが、アカイカの発光やソデイカのアタックなど、それなりの反響はあった。

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研究発表の行われたシティーホール会場(200名を超える頭足類研究者が参加した)

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期間中にエクスカーションで訪問したサンティアゴ・デ・コンポステーラ大聖堂。9世紀頃、エルサレムで殉教した聖ヤコブの遺骸が埋葬されたという伝説のあるキリスト教「ヨーロッパ三大聖地」の一つ

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