[本号の目次]
1. 調査二年目・動画カメラの開発
2. 調査二年目の成果
3. 釣りあがった魚たちと胃内容物
4. 調査二年目の反省
調査二年目・動画カメラの開発
2002年の調査では、小笠原沖の深海に潜むヒレジロマンザイウオやアカイカ、ヨシキリザメなどの姿を静止画像で捉えることができた。これだけでは論文にならないが、このような深海カメラを用いた調査を続けることによって、ダイオウイカをはじめ深海に蠢く未知の生物達の生き様が見えてくる。小笠原から戻って早々、調査二年目に向けての計画を練った。新たに開発したいのは動画の撮影のできる深海カメラである。内藤先生のロガーを開発したリトルレオナルドの鈴木さんに協力をお願いした。当時もっとも小さいビデオカメラとしてパナソニックが発売したSV-AV30-Aを利用することにした。画質は悪いが、1秒に15コマで動画を撮ることができる。今で思えば玩具のようなビデオカメラであるが、やってみなければ何も始まらない。このカメラを水深1000m耐圧の円筒に収めた。照明用の小型ハロゲンライトを同じサイズの円筒おさめ、カメラを真ん中にしてその両側にライトの筒が固定できるフレームを製作した。これをカメラ・ロガーと同じように幹縄に下向きに吊るし、その下に仕掛けを付けることにした。
調査二年目の成果
2003年、昨年とほぼ同じ10月初旬、二台の静止画ロガーと新しく開発した動画カメラを携えて、小笠原父島に戻った。二年目になると、船頭の磯部さんも乗子の平山さんも勝手知ったる調査である。早速、三本の旗流し縦延縄、吊るす仕掛け、餌などを用意して、動画カメラを吊るすハーネスも誂えてくれた。今年はNHKの小山ディレクターは同行しておらず、森さんもホエールウォッチング協会の仕事で忙しく、第八興勇丸には磯部さんと平山さん、それに私の3人だけである。漁師時間で朝まだ暗いうちに港を出て1時間半ほど航走して、調査海域に着くと二台の静止画ロガーを投入して、最後に動画カメラを幹縄に繋いで流す。漁業用の縦延縄を6本ほど入れてから、いつものハムエッグと漬物とみそ汁の朝メシで一段落。その後、縦延縄に付けた浮き球を見て回り異常な動きをしているものがあれば引揚げる。今年はずいぶんいろいろな魚が揚がってきた。釣れた魚は胃袋を割いて、何を食べているのかを調べたことは言うまでもない。
静止画ロガーの仕掛けにかかったアブラソコムツ
釣りあがった魚たちと胃内容物
釣りあがってきた魚類と胃内容物を紹介しよう。アブラソコムツは800mの幹縄に吊るした静止画ロガーの仕掛けにかかってきた。釣り針にかかってから船に取り込まれるまで、逃げようと動き回る姿が300枚を超える静止画で捉えられた。体長1mを超える大型魚である。大きな口に鋭い歯が並んでいる。胃袋からは、ほとんど消化されていない外套長30㎝ほどのカギイカと頭腕部がちぎれた外套長10㎝ほどの若いカギイカが出てきた。幹縄600mの漁業縄では、アブラソコムツによく似た大型のバラムツや体長1.5mほどの丸まる太ったメバチマグロが釣れあがってきた。バラムツの胃袋からは、クロシビカマスと思われる体長40㎝ほどの魚と外套長20cmほどのトビイカの他、消化された頭足類肉片が出てきた。メバチマグロからは、ミズウオと思われる体長40㎝ほどの魚と小さなムネエソの仲間、消化の進んだ種不明小型魚類やイカ類などが出てきた。アブラソコムツやバラムツは中深層性の比較的大型の魚類やイカ類を一飲みにしており、メバチマグロは中層域で様々な魚類や頭足類を捕食しており、小笠原沖の中深層域での食うー食われる関係は複雑である。
釣りあがってきたアブラソコムツ
アブラソコムツの胃内容(かなり大型のカギイカを丸ごと食べていた)
釣りあがってきたバラムツ
バラムツの胃内容(クロシビカマスと思われる魚とトビイカを食べていた)
釣りあがったメバチマグロ
調査二年目の反省
この年は天候にも恵まれ、10月2日から8日の1週間で6日も調査海域に出ることができた。静止画ロガーは幹縄500mと800mの2本に付けて、昨年と同様の調査を行った。二年目ということもあり、磯部さんが特製の大型イカ針を用意してくれて仕掛けの長さや仕様も少し変えてみた。ところが、初日・二日目の調査では仕掛けがイカ針に絡んだり、画面に映りこんだりして上手くいかなかった。また、幹縄が浅い方へ流されてロガーが海底についてしまうアクシデントもあった。それでも最終日には、800mの幹縄の仕掛け針にヒレジロマンザイウオがかかり、海面まで釣りあがる連続写真が得られた。動画ビデオカメラは6回撮影を試みたが、そのうちの4回で映像が得られた。しかし、期待していた大型イカ類の姿は全く得られなかった。用いた小型ビデオカメラの性能とハロゲンライトの光が弱かったこともあるが、真っ暗闇の深海で鮮明な動画を撮影するためには、超高感度で画角の広い特殊カメラと強い光が必要であることが、反省として残された。
・・・その11へ続く。
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その1:http://ch.nicovideo.jp/juf25sui/blomaga/ar1471337
*著者情報
【窪寺恒己(くぼでらつねみ)】
水産学博士 国立科学博物館名誉館員・名誉研究員 日本水中映像・非常勤学術顧問
ダイオウイカ研究の第一人者。2012年に世界で初めて生きたダイオウイカと深海で遭遇。
専門分野:海洋生物学/イカ・タコ類/ダイオウイカとマッコウクジラ/深海生物
主な著書:「ダイオウイカ、奇跡の遭遇」新潮社 2013年
「深海の怪物ダイオウイカを追え!」ポプラ社 2013年 他
詳しいプロフィールはこちら
www.juf.co.jp/seminar/kubodera/
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*頭足類の映像もあります
日本水中映像YouTube https://www.youtube.com/user/suitube7
*講演情報などもアップしています
日本水中映像FaceBook https://www.facebook.com/japanunderwaterfilms
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