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窪寺博士のダイオウイカ研究記-その8

2018/06/03 15:36 投稿

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[本号の目次]

1. 小笠原村は東京都
2. 第八興勇丸・磯部康郎船頭
3. 旗流し縦延縄仕掛け
4. ロガーのお作法

小笠原村は東京都

 小笠原諸島は、東京メトロポリタンの南南東遥か1000㎞ほど離れた太平洋に南北に点々と連なる30余りの小島からなり、伊豆・マリアナ島弧の一部をなしている。諸島は、さらに三つの列島に分けられて北から、聟島列島、父島列島、母島列島と呼ばれる。一般人の住む島は、父島列島の父島と母島列島の母島の二島で、住民は各々2000人、500人ほど。いまだに空便はなく、東京竹芝桟橋と父島二見港を結ぶ「おがさわら丸」というフェリーでほぼ一昼夜の航海でやっと到着できる、距離的にも時間的にも国内で最も遠い処である。母島にはさらに二時間ほど船に乗らないとたどり着けない。亜熱帯・海洋性の気候で、周年を通じて気候は穏やかで、年平均気温は23度、最高・最低気温は32度と15度程であるが、台風の通路にあたり時に大時化に見舞われる。調査を開始した2002年には、衛星放送を除きテレビ番組は見られず、ネットはおろか携帯電話もドコモ以外は使えない超不便な環境であった。ただし、郵便局でATMが使えたのには驚いた。2011年にユネスコ世界自然遺産に登録されてから、観光客が年々増加して島も賑やかになってきたが、今でも海の果てであることには変わりがない。

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小笠原諸島・父島
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小笠原父島・二見港、時たま大型客船が湾内に停泊する。この船は「ふじ丸」。
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父島を出航する「おがさわら丸」

第八興勇丸・磯部康郎船頭

 父島二見港の桟橋には10月というのに夏の日差しが降り注ぎ、ながい乗船に倦んだ乗客が列をなしてタラップを降りてくる。その周りには、民宿やダイビングショップ等のお迎えの人々がプラカードを掲げて集まっている。その人混みのなか、小笠原ホエールウォッチング協会の森さんとその横に漁師とおぼしき精悍な顔つきの男が立っていた。

「森さん、やっと島に帰ってくることができました。マッコウクジラやダイオウイカなど様々な情報をありがとうございました。今回も調査の協力をお願いします」

森さんは、横に立っている真っ黒に日に焼けた男を第八興勇丸の船頭、磯部康郎さんと紹介してくれた。ホエールウォッチング協会の調査や研修などに協力してくれる、島では奇特な漁師さんとのことである。ちょっと取っ付き難そうな感じはしたが、携えたロガーを手渡し調査の内容を詳しく説明したところ

「面白いことを考えますね。私でできることがあれば協力させてください」

との嬉しい言葉をもらった。それが、その後十数年にわたる長い交友の第一歩になるとは思いもよらなかった。

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小笠原二見港のお迎え風景
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最初に会ってから8年目になる2010年11月、小笠原ホエールウォッチング協会の前に立つ第八興勇丸船頭の磯部さん(左)と私(右)。小笠原の太陽は半端ではなく、本物の漁師ほどではないが10日ほどの調査でこんがりと日焼けしてしまう。

旗流し縦延縄仕掛け

 磯部さんからメカジキやメバチマグロ、ソデイカ等を狙った旗流し縦延縄漁の仕掛けを見せてもらい、森さんを交えて中深層性大型イカ類を撮影する作戦を練った。基本的な仕掛けは旗流し縦延縄である。4mほどの旗竿に3個の浮き球をつけて、その下にテトロン・ナイロン幹縄を結び、その下端にロガーを下向きに吊るすことにした。この幹縄は径2.5㎜ほどの赤褐色の細い糸で、ロガーを吊るして大丈夫かと心配したが、100kgをこえるような大型のメカジキでも切られることは滅多にないとのことである。幹縄の長さは水深に合わせて、400~1000mで適宜調整することにした。さらに、ロガーの下には3mほどのナイロン・モノフィラメントの仕掛けラインを吊るし、一番下に錘として磯部さんが鉛を仕込んで作った長さ23㎝もあるマグナム・イカ針を付けた。イカ針は三重連の針を備え、そこに餌としてスルメイカを付けることも考えた。仕掛ラインからは二本の枝糸を出して、上の枝糸の先にはソデイカ用のイカ針にスルメイカを付け、下の枝糸には誘引物質としてオキアミを詰めた袋を付けることも試みることにした。磯部さんは、漁業組合長にも話を通してくれて、調査の支度は整った。

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左:旗流し縦延縄を基にした深海カメラ用仕掛け


ロガーのお作法

 内藤先生が貸してくれた3台のロガーは、リトルレオナルドという小さな会社と内藤先生が、精巧かつ小型化の著しい電子機器・機材の発達を背景に手作業で開発した、いわばハンドメイドの機器で、デジタルカメラとストロボ、タイマー、水深計が組み込まれている。水深計は数秒間隔で水深を記録して、カメラは設定によりある水深を超えてから、またタイマーの設定によりある時間経過後に一定の間隔でストロボと同調して150KBほどの静止画を600枚近く撮影して記録できる性能を持っていた。既製品とは異なり、ロガー内蔵の水深計やタイマーの設定、画像の取り出し方、パソコンとの接続方法、ロガー本体への充電など、ロガーを使うには様々な「お作法」があり、小笠原に来る前に国立極地研究所の内藤研究室を訪れて、当時助手をしていた佐藤克文さん(現:東京大学大気海洋研究所・教授)から詳しい手順を伝授してもらった。ストロボの充電に約30秒かかるので、実際の調査の際には、水深200mを超えてから30秒間隔で画像を撮り始めるように設定することにした。撮影を開始してから5時間ほど稼働することになる。

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国立極地研究所で佐藤さんからロガー操作の手順を習う




・・・その9へ続く。

一番最初からから読みたい方は下をクリックしてください。
その1:http://ch.nicovideo.jp/juf25sui/blomaga/ar1471337


*著者情報
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【窪寺恒己(くぼでらつねみ)】
水産学博士 国立科学博物館名誉館員・名誉研究員 日本水中映像・非常勤学術顧問
ダイオウイカ研究の第一人者。2012年に世界で初めて生きたダイオウイカと深海で遭遇。

専門分野:海洋生物学/イカ・タコ類/ダイオウイカとマッコウクジラ/深海生物
主な著書:「ダイオウイカ、奇跡の遭遇」新潮社 2013年
     「深海の怪物ダイオウイカを追え!」ポプラ社 2013年 他

詳しいプロフィールはこちら
www.juf.co.jp/seminar/kubodera/

「烏賊解剖学のススメ」を日本水中映像チャンネルにて公開中!是非ご覧くださいhttp://ch.nicovideo.jp/juf25sui



*頭足類の映像もあります
 日本水中映像YouTube https://www.youtube.com/user/suitube7

*講演情報などもアップしています
 日本水中映像FaceBook https://www.facebook.com/japanunderwaterfilms




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