2014年03月13日発行 第0788号 特別
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■■■ 日本国の研究
■■■ 不安との訣別/再生のカルテ
■■■ 編集長 猪瀬直樹
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「俊才たちの春」(猪瀬直樹著『昭和16年夏の敗戦』から)
まもなく新年度、卒業・入学のシーズンです。
開戦迫る昭和16年(1941年)の4月1日、若きエリートたちが密かに霞が関
に集められました。まもなく“組閣”された彼らの“模擬内閣”がシミュレー
ションを重ねて導き出した結論は、米戦必敗という予測だった――。知られざ
る実話をもとに日本が<無謀な戦争>に突入したプロセスを描き、意思決定のあ
るべき姿を示す『昭和16年夏の敗戦』からの抄録です。
* * *
経済同友会代表幹事佐々木直は日本銀行総裁を二度経験している、といえば
消息通は首をかしげるだろう。
昭和29年、47歳で日銀理事に就任したとき、「通常より10年早い」と評され
「日銀のプリンス」といわれた。のち、昭和44年から5年間日銀総裁を務めた
のは周知の事柄である。
ではもう一度とは、いつのことか。
昭和16年7月12日、土曜日。前日から降り続いた雨は、少し勢いが衰えたと
はいえ、いっこうに止む気配がない。梅雨明けの遅い夏だった。
首相官邸脇の坂を下った窪地、いまのヒルトンホテル(編注、現在はザ・キ
ャピトルホテル東急)の斜め向かいあたり、木造二階建ての、田舎の小学校に
似た建物があった。一階は職員室と小部屋が六つ。大学のゼミナール室を想像
してもらおう。二階は講義室が二つと食堂(兼集会室)が一つ。新築だがこぢ
んまりとした粗末な建物である。
廊下に掲示板があり、人だかりになっている。生徒たち、といっても31歳か
ら37歳までの少しとうの立った学生が35人、掲示板にくいいるように見入って
いる。
総理大臣 窪田角一
外務大臣 千葉 晧
内務大臣 吉岡恵一
大蔵大臣 今泉兼寛
陸軍大臣 白井正辰
海軍大臣 志村 正
司法大臣 ………
閣僚の顔ぶれが続く。最後から2番目に「日本銀行総裁・佐々木直」の名が
あった。佐々木直は、この時34歳である。総力戦研究所が36人の研究生をかか
えてスタートしたのは3カ月前の4月1日である。
優秀な研究生を集めて開所にこぎつけたのはいいのだが、なにをどう展開し
ていいのかわからず、飯村穣所長(陸軍中将)をはじめ所員も試行錯誤を繰り
返していた。彼らはいずれも所属する機関の突然の命令で総力戦研究所に出向
してきていた。
大学のように講義や体操の時間まであったので、研究生の間には不満がくす
ぶり始めるのも当然である。「30歳を過ぎて、なにをいまさら……」という空
気があった。そして試行錯誤の結果、辿りついたのが、模擬内閣なのである。
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〔編集部より〕
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