結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2015年10月13日 Vol.185
はじめに
おはようございます。 いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
この「はじめに」を書いているのは2015年10月12日。 世の中は祝日のようですが、私は普通に仕事をしています(^^)
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ベクトル本の話。
『数学ガールの秘密ノート/ベクトルの真実』は、 来月(2015年11月)に刊行されます。
今週の火曜日(ちょうどこの結城メルマガの刊行日ですね)に、 編集部に行って初校の「読み合わせ」を行います。 初校ゲラを前にして、著者の私と編集者とが一ページ一ページめくりながら、 内容を確認していく作業です。
まあ、本を出版するときにはいつも行っている作業ですが、 毎回新鮮な気持ちで向かうようにしています。 熟練するのは大事なことですが、慣れたり馴れ合ったりするのはよくありません。
初校→読み合わせ→再校→読み合わせ、と来るまでがんばり、 あとはいったん出版社におまかせ。来月の刊行が楽しみです!
◆『数学ガールの秘密ノート/ベクトルの真実』
https://bit.ly/girlvector
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こんな対話を考えました。
A「数学なんて、いったい何の役に立つのかね?」
B「『役に立つ』とはどういう意味ですか」
A「役に立つっていうのは…そりゃ、何だ、そんなこと、なあ、わかるだろ?」
B「言葉の意味が合意できていないと、実りのある議論は難しいですね」
A「そりゃそうだが…」
B「数学を学ぶと、それを痛感します」
これは半分ジョークですが、 「数学は何の役に立つのか」という問いについて少し話します。
この問いをする人は主に二つに分かれるように思います。
・純粋な問いとして「何の役に立つんだろう」という人
・「何の役にも立たない」と思っている人
純粋な問いをしている人に対して、 答える人は真摯な態度で向かうべきです。 特に数学の面白さを知っている人や、 数学の喜びを知っている人は、決して相手を茶化すことなく、 きちんと答えるべきと思います。 (「べき」と書いてしまいましたが、そのように期待しますという意味です)
それに対して、数学を「何の役にも立たない」と思っている人への回答は難しいですね。 そういう人は「数学は何の役にも立たない」という自分の考えを、 「数学は何の役に立つのか」という問いの形で表現しているわけです。 これは修辞疑問(レトリカル・クエスチョン)の一種です。 この場合、質問者はそもそも回答を聞く耳を持っていない可能性がありますね。 そうすると、なんらかの形で答えても、 「ああ、ごちゃごちゃ言ってるね」で終わることもあるでしょう。
話は少しずれますが、世の中には、 「自分が理解できないものは無価値なものだ」と思う人もいます。 でもさすがにそうは言えないので「役に立つ」という言葉を使います。 「自分が理解できないものは他人も理解できない」と考える人もいます (いや、ほんとにいるんです)。 また、歴史的に無数の数学愛好者がいたことを想像しない人もいます。
そういう方々に何と答えればいいのか、私にはわかりません。 でも、そのような問い「数学は何の役に立つの?」に対して、 自分なら何と答えるだろうかと考えるのは無駄ではないと思います。
私自身は(数学者ではありませんが)、
「数学は言葉である」
と思っています。考える・表す・伝える・残す。 数学的な思考を数式や論証で表現する。 それは「役に立つ」し、価値がある。
「数学が何の役に立つか」への答えは、 「言葉が何の役に立つのか」の答えとよく似ています。
「数学は一般の人・普通の人に役に立つか」という問いも興味深い。 数学は広くて深い。人の理解や状況に応じて、 いろんな数学は役に立ち、いろんな数学は役に立たない。 これもまた言葉と同じ。 深く学べば多くの数学が「役に立つ」し、そもそも美しい。 ほんとうに言葉と同じですね。
そういえば、プログラムも同じなのに、 「プログラムは何の役に立つのか」という人がいないのはなぜかしら。
あなたはどう思いますか。
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それでは今週の結城メルマガを始めます。
今回は「再発見の発想法」のコーナーで、
Library(ライブラリ)
についてお話しします。
それから、「文章を書く心がけ」のコーナーでは、 『月刊群雛』から原稿依頼を受けたときの経験を題材に、
「原稿依頼を受けたときに考えること」
をお届けします。
先日読んだ、
『凡庸な作家のサバイバル戦略──結局どうすりゃ売れるのさ』
http://amzn.to/1MmKSBI
という本の感想も少し書きました。
また、先週の結城メルマガでお話しした生活改善の話が、 一週間経ってどうなったか、
「自分を誘って、新しい場所へ行く」
というタイトルでご報告します。
では、今週も、どうぞごゆっくりお楽しみください!
目次
- はじめに
- 再発見の発想法 - Library(ライブラリ)
- 原稿依頼を受けたときに考えること - 文章を書く心がけ
- 『凡庸な作家のサバイバル戦略』を読んで - 本を書く心がけ
- 自分を誘って、新しい場所へ行く - 仕事の心がけ
- おわりに
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