兵頭新児の女災対策的随想

ズッコケ三人組シリーズ補遺(その五)

2015/03/06 21:01 投稿

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 続きです。
 正直、ニーズがあるのかどうかわかりませんが(以下略)。
 今回は本当に女災と関係ないです。
 実のところここしばらくストレスフルな毎日を送っており、フェミ本などを読む精神的余裕がなく、『ズッコケ』だけが癒しという状況で……。
 後、性質上、ミステリなどもネタは全部バラしていますので、そこはお含み置きください。

『ズッコケ三人組対怪盗X』
●メインヒロイン:九条茜

 先にも書いたように、永らく本シリーズの挿絵画家を勤めた前川かずお先生は物故され、本作よりは高橋信也先生がイラストを担当します。
 レビューブログなどでは苦言を呈する声も聞かれるのですが、高橋先生は本来アニメーター。元の絵の模倣も巧みで、当初は絵師の交代を忘れていたくらい、違和感がありません。
 いや、晩期の前川センセの絵は等身が高くなりすぎ、ちょっと可愛さがなくなってたから、むしろそれよりいいくらい。モーちゃんなんか丸っこい初期の感じで描かれていますし。ゲストキャラの(つまり前川センセのお手本のない)女の子は萌え絵とは違えど前川センセのタッチを逸脱した可愛さで、これも好ましい。高橋センセは白黒時代から活躍していますが、近年の萌えアニメでも原画を手掛けるなど、女性の描写に定評のある人なのです。

 さて、それは余談として……。
 タイトルからも明らかなように、本作は三人組が怪盗と戦うというもの。レビューブログでも「意識的に大時代的な活劇の再現を狙った異色作で云々……」と書かれていましたが、成功しているかとなるとちょっと微妙な気がします。
 恐らくですが、『ズッコケ』は『ドラえもん』の時代に『オバQ』をやったらどうなるか、という企画です。逆に表現するならば、「正ちゃん」ではなく「のび太」を主役にした、しかしドラえもんはいないという話。
 と言うのも、以前にも書いた通り、三人組はスクールカーストの下位の存在。言わばのび太です(『オバQ』の正ちゃんは優等生ではないがいじめられっ子でもなく、のび太のイメージで読むと面食らいます)。
 のび太は「個」というものを確立した存在であり、ジャイアンもママも明確な「他者」として描かれます(それに比べて正ちゃんとゴジラは、意外に並列的に描かれています)。それ故、そんな世界には小池さん、即ち「子供と同じ目線を持つ大人」はいない。ましてや赤塚漫画のイヤミやデカパン的な異形の大人は存在し得ません。
 同様に『ズッコケ』においても、基本「子供にとって異物である大人」という図式は透徹されており、その意味では怪盗X自体に無理があったのではないか。この種の「怪盗」の魅力は上の小池さん、イヤミと同様、「子供である主人公を対等に見てくれる大人」ということに尽きると思うので、『ズッコケ』の世界観にはそもそもそぐわない。
 考えれば先に挙げた『ドラえもん』時代の『オバQ』という比喩は80~90年代に(つまりまさに『ズッコケ』と時を同じくして)作られたスーパーロボットアニメが『ガンダム』的な「リアル系」のドラマ設計を一応は包摂しつつ「スーパー系」として作られていたことに置き換えて考えてもいいかも知れません。『ダンクーガ』とかあの辺ですね。それらは一応は成功していたと思うのですが、怪盗Xは宇宙世紀でマジンガーZが暴れ回っているような痛々しさを感じなくもなかったわけです。
 それは怪盗Xのキャラが明らかに江戸川乱歩、怪人二十面相の類を意識しているのに、冒頭で語られるXの犯行がそれらの模倣ではなく、三億円事件の模倣であることが象徴しています。以降、Xの私生活、家族や元の職業について盛んに暗示されるのもいかにも那須センセですが(恐らく会社をつぶした人物で、元部下のために怪盗をやっているものと推察されます)、果たしてそれが「怪盗X」という「異形の大人」のキャラクター造形に益するかということです。それは言えばそもそも、まあ、名前からしてちょっと取ってつけたような……ねえ。
 もう一つ、特にどうと言うことではないのですが、本作では「メーデー」が登場します。単に「人混みに紛れて怪盗Xが逃げる」というそれだけの状況設定のためにメーデーが出てくるのですが、「メーデー祭り大混乱」と章タイトルにまでなっており、何だかちょっとぎょっとしました。

『ズッコケ三人組の大運動会』
●メインヒロイン:なし

 運動会をテーマにしたお話で、ハチベエのライバルとも言うべき俊足の少年、努が登場するのですが――ストーリーの焦点は勝負そのものよりも努少年の屈折にあり、勝負がつく前に努が負傷し、リタイアしてしまう辺りもいかにも那須センセの曲者っぷりが現れています。
 一方、運動会が運動会に留まらず、地域の大人たちを交えた音頭の発表会という性格を持っているなどもいかにも那須センセです。

『参上!ズッコケ忍者軍団』
●メインヒロイン:陽炎、胡蝶、夕霧

 時は夏休み。
 近所の山を他学区の生徒たちが占拠、アジトを築き上げて「さばげぶっ!」状態に。しかもそこはカブトムシの猟場であるため、乱獲してデパートに売りつけてもいるのです。
 カブトクワガタもぼくらのものだ、エアガン部隊を追い返すんだ、御国の四方を守るため、俺たちも今すぐに銃を取れ!
 というわけで三人組+同じ学区の生徒たちが彼らに戦いを挑みます。が、前半戦では敗北を喫し、ハカセとモーちゃんは裸にひん剥かれるという屈辱を味わうことに。
 後半戦は復讐を誓ったハカセの頭脳戦。敵のテントに潜入、メイン武装であるエアガン、ガスガンを封じ、食料に下剤を盛るというゲスっぷりを見せつけるハカセ。
 いつも通りあちこちのブログを見て回ったのですが、一方で「左派の作者ながら『暴力はダメだ』などといったおためごかしを言わず、徹底抗戦していたのが意外であり、またそうしたリアリズムが評価すべき点」といった感想が聞かれたのに対し、一方では

両セクトの闘争勃発が決定的になります。

ハチベエはさっそく片端から電話をかけ仲間(同志ともいう)を募り(オルグともいう)

そりゃ『われらがズッコケ山岳闘争』とか『ズッコケ花山砦攻防戦』なんてタイトルをつけられないだろうとは思いますが


 と揶揄する向きもあり、その対比がおかしかったです。
 さて、それにプラスして当ブログで注目したいのは、いつもの美少女トリオが参戦して女活動家……じゃなかった、くノ一になり、諜報戦を展開するところです。上に挙げたヒロイン名はくノ一モードでのトリオの名前です――が、これはあまり必然性がなく、かなりムリヤリ。美少女キャラの登場を男の子へのサービス、と見る向きもありますが、これは当然、むしろ少女読者へのサービスでしょう。
 もっとも、くノ一軍団が男の子以上の残忍さを発揮して、敵を竹刀で滅多打ちにする辺りは、いかにも那須センセです。
 それともう一つ。敵軍のボスは中学生で、同級生には友だちがいない人物。つまり落ちこぼれが小学生を集めてはお山の大将を気取っているというわけなのですが、同時に子分となっている小学生に勉強を教えてやってもいる。また子分たちは親が共働きで、夏休みは一人で食事をする羽目に陥るがため、山のアジトでのみんなでの昼食を楽しみにしている、といった描写がなされ、何だかうら寂しいものも感じます。

『ズッコケ三人組のミステリーツアー』
●メインヒロイン:川本さやか

 タイトルは「ミステリーツアー」ですが、早々に「この旅行は(旅行会社に仕組まれ、)十年前のツアーと同じメンバーが集められて、同じコースを辿っている」ことが明らかになり、(ミステリーと言えばミステリーですが)本来のミステリーツアーではなくなります。
 また、旅行会社がそのような状況を仕組んだミステリアスさはまるで『EVER17』みたいで非常に興味をそそられるのですが、実はそれ自体が犯人が自分たちの犯行をくらますためにやったフェイクというのはどうなんでしょう。ミステリの分野ではアリとされるんでしょうか。ちょっと肩すかしという感じです。
 第一、その十年前の旅行では死者が出ており、旅行会社がそうしたツアーを組むこと自体が非常識です。間接的とは言え赤ん坊時代のハチベエが人死にに関わっていたというのも……。
 更に決定的なのは三人組が活躍しないこと。ハカセの推理で犯人を押さえ、警察に知らせる、とすべきだったのではないでしょうか。
 後、ヒロインのさやかはハチベエに冷淡で、彼がここしばらくリア充だったのが嘘のようです。

『ズッコケ三人組と学校の怪談』
●メインヒロイン:なし

 三人組が……ではないな。三人組を中心とした七不思議制定委員会が、我が校の怪談を「創作」していたら、その怪談が現実のモノに――といったお話。評価の高い一本ですが、個人的にあまり感心しませんでした。
 上にヒロインはなしとしましたが、本作では既にお馴染みとなった美少女トリオを含め、三人組以外の生徒たちがふんだんに登場します。
 そうした作品をこそ「世界観に広がりがある」と評価する向きが多いのですが、個人的にあまりいいと思いません。それは恐らく、『ドラえもん』が「のび太個人」の物語であるのと同様に、ぼくが『ズッコケ』シリーズを「三人組」という「個」の話である、と捉えているからのように思います。
 いや、むろんその解釈がどこまで正しいのかはわからないし、じゃあ三人組以外の生徒が活躍する話は『劇場版ドラえもん』と思って楽しめばいいじゃん、と言われてしまいそうなのですが。
 しかしやはり、三人組と行動を共にする美少女トリオはどこか「劇場版のジャイアンがきれいなジャイアンとして描かれている」ようなうさんくささを感じてしまうのです。

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