「バリー・リンドン」は、普通の映画のような見方で見ると、面食らうかも知れない。なぜなら、そこでは普通の映画が当たり前のように目指す「観客に感情移入させること」を、むしろ拒絶しているからだ。結果的にできていない……というのではなく、あえてさせないようにしているのである。これは、感情移入を拒絶する映画なのだ。

なぜ感情移入を拒絶しているかといえば、人間社会そのものを客観的、俯瞰的に見るという眼差しを観客に持たせるためだ。登場人物の眼差しではなく、それを遠くから見ている、いうならば神様のような視点で見てもらおうという試みなのである。

では、なぜそういう試みをしているかといえば、そういうふうに客観的、俯瞰的に見ることで、人間の小ささみたいなものを実感してもらうためだ。人間の儚さや無力さをあらためて知ってもらい、人間に対する新たな視座を獲得してもらおうとしているのである。

人間というのは、誰もが人間である