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 翌朝、ぼくがまだ眠っているときにそれは起こった。
 寝袋にくるまって眠っていたエミ子は、ふいに何かの物音に気づいて目を覚ました。ただ、その物音に不安や不信感を覚えたわけではなかった、なぜならその物音は、なんというかやさしく、穏やかな雰囲気をたたえていたからだ。
 それでエミ子は、普段家で眠っているときにもないような目覚めの良さで覚醒し、そこからおもむろに体を起こした。そして、手近に置いておいた眼鏡をかけると、その物音がした方を見たのである。
 すると、そこには鹿が立っていた。体は小さかったし、角も生えていなかったから、まだ子鹿だったのかもしれない。その子鹿は、たった一頭でそこに立っていた。
 エミ子は、その子鹿をじっと見つめた。子鹿も、少し小首をかしげるような仕草で、やっぱりエミ子のことをじっと見つめた。

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 エミ子は、このときなぜか、驚いたり、慌てたりしなかった。不思議なことに、