長谷川幸洋 コラム第23回「利子だけで800億円の国民負担。原発事故対応にかかる金額を政府は明らかにすべき」
会計検査院が東京電力に対する国の支援状況について調査した報告書を公表した。朝日新聞はじめ各紙が10月17日付朝刊で報じ、国民負担が膨らむ懸念について警鐘を鳴らしている。
ポイントの1つは、国の支援額を5兆円とした場合、東電と電力各社による返済は最長で31年かかり、国の利子負担は最大で約794億円に及ぶ、というところだ。これを読んで、私は「ちょっと桁が違うのではないか」と目を疑った。
そこで報告書(http://www.jbaudit.go.jp/pr/kensa/result/25/h251016_1.html)を読んでみると、記事は間違いではなかった。たしかに記載された国の利子負担の単位は「億円」であり、兆円ではない(ここが兆円だったら、あまりに大変すぎるが)。
それにしても、国の利子負担、すなわち国民負担がわずか800億円弱とは、いくらなんでも安すぎる。そんな金額で済むなら、たとえ完済に30年かかろうと「たいしたことはない」と思われても不思議ではないだろう。
いったいどうして、そんな話になるのかと思って報告書本体をよく読んでみたら、いくつか現実離れした想定が前提になっている、とわかった。
まず、報告書が試算の根拠にしているデータがいかにも古すぎる。東電は経営の現状や見通しについて政府に事業計画を提出しているが、今回の報告書が基にしたのは、2012年5月に認定された「総合特別事業計画」の数字である。
そこでは、たとえば要賠償額を2兆5462億円と見積もっていた。ところがその後、ことし13年2月には改訂版を出して3兆2430億円に膨らんでいる。もちろんこれで足りるわけがなく、6月にはまた計画(http://www.tepco.co.jp/cc/press/betu13_j/images/130625j0102.pdf)を見直して3兆9093億円になっている。
これで十分かといえば、まだ足りない。11月には、さらに数字を見直して最新版の総合特別事業計画を発表する予定である。おそらくもっと増えるだろう。
つまり、会計検査院がいろいろ数字を試算した労は多と評価したいが、残念ながら、事故は現在進行中であり、したがって肝心の国民負担もまだまだ増えるのは確実なのだ。
以前のコラムで書いたように、そもそも東電は昨年11月の段階で「国の全面的な支援がなければ、もうやっていけません」という内容のギブアップ宣言を出している。
東電自身が賠償、除染、汚染物質の中間貯蔵施設に加えて廃炉費用も考えると「一企業のみの努力では到底対応しきれない規模となる可能性が高い」ととっくに認めてしまっているのだ。現状はそこから一段と悪化して、汚染水問題は「もはや収拾不能ではないか」と思われるほど混乱を極めている。
汚染水問題で、政府は当座の資金だけでも470億円を投じる方針を決めた。となると、とてもじゃないが、国民負担が800億円どころですまないのは、だれでも分かる。
それから、報告書が指摘した国民負担は国の利子負担に話を限っている。だが、そもそも東電が国に立て替えてもらっている賠償と除染の費用をちゃんと返済できるのか、という疑念がある。利子どころか元金だって返済できるかどうか、まったく怪しいのだ。
東電自身がギブアップしているということは、すなわち「いまのままでは賠償も除染も汚染水対策もできません」という話である。だから「国に立て替えてもらっている費用の元金だって返せません」とみても、まったくおかしくない。
つまり「利子の800億円が国民負担に」などという話ではさらさらなく「元金の数兆円が返せない」というのが実態なのだ。まさに、数字は少なくとも二桁は違っているのである。
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