今週のお題…………「大晦日と格闘技

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文◎田中正志(『週刊ファイト』編集長)…………木曜日担当



 世間的には「戦後70年」、「安保法案強行採決」などが記憶される一年なのであろうか。日経MJヒット商品番付のランキングは、市場を操作する相場取引者らも見る世間側目線の年間回顧であり、ブランド評価なのかも知れない。そこで前年度は、中年男性が若い頃になじんだものが復活してヒットすること、ゆとり世代の若者には新鮮に映り憧れの存在という意味の“オジ知る系”として「新日本プロレス」が西前頭15に選出された。ちなみに14位が♪イジメ、ダメ、ゼッタイのBABYMETAL、北米で大ヒットのTVシリーズ傑作『ブレイキング・バッド』が16位だった。2015年のリストに、そのいずれも入ってないが、世の中はそういうモンである。
 
 タイムラグもあるようで、新日本プロレスを讃える『V字回復』だの単行本まで出ているそうだが、現実には早くもピークアウトの兆候が見え隠れしている。親会社ブシロード出向の手塚要社長は、「年商を100億円に持っていく」と所信表明していたし、エンタメ産業の場合は火がついたら急に倍になったりが十分にアリの世界だから非現実目標ではなかったが、7月末の最新年商額が27億円である。なにしろテレビ朝日の『ワールドプロレスリング』中継は土曜の深夜3時またぎ30分番組、マニア向きジャンルの世界だと言わざるを得ない。オカダ・カズチカ、棚橋弘至、中邑真輔らの名前が世間に浸透しているかと問われれば、実際、苦しいままなのが実情だ。
 
 日経MJヒット商品番付のランキングに話を戻せば、2015年はNETFLIXに代表される「定額配信」が猛威を振るったと記録された。マット界では、WWEネットワークとか新日ワールド999円サービスが、少なくとも前者は100万の加入者数を達成している。ちょうど2016年からは日本からも公式に視聴可能となった月額自動課金していく動画配信サービスのことだ。
 
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 プロレス界をグローバルに見渡して評価するなら、為替の変動も大きいがWWEの年商は約800億円になるため、2015年を記者として振り返れと問われるなら、冷静にWWEがどういう一年だったかに触れない訳にはいかない。旧名WWFとWCWが「月曜生TV戦争」で激突してお茶の間にプロレスブームを起こしたものの、WCWを吸収合併したのでRAWとスマックダウンの2リーグ制にした、と。しかし、視聴者がどうしてもRAWを格上と見る傾向から抜けず、地方巡業も「スマックダウン」ブランドだと客入りが悪くなる。日本公演が良い例でハウスショーは、実際は二班が回っていることをオモテにしなくなったのが近年だった。そんな中で、要は二軍養成所だった第3ブランドのNXTが、メジャーのプロレスよりインディー好きなファンの感性を汲んで、例えば日本からならイタミ・ヒデオKENTA、フィン・ベイラーこと新日プロのプリンス・デヴィット、女子はASUKA華名と、トップクラスを集め出したのだから快進撃もうなずける。前出WWEネットワークがNXTを目玉にしていることも相まって、プロレスの楽しみ方が変わってきた一年だった。『G1クライマックス 2015』は両国国技館三連戦だったが、三連戦ともリラックスした家でパソコン画面から楽しむことが出来た図式は、書き忘れないようにしないとマット界の大局を見誤る。
 
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 同じくグローバルな格闘技界というなら、UFCのロンダ・ラウジーをぶっちぎりのMVPにしないと、すべての辻褄すら合わない。現在世界で最も価値の高いプロ選手ということで、ボクシングでなく総合格闘家の、しかも女性のロンダが無敵No.1だと一般紙からも北米では評価されている。11月14日、オーストラリアのメルボルンで開催された『UFC 193』にて同じ米国人のホリー・ホルムに負けたPPV大会は100万件の大台を超えそうで、2016年7月9日のラスベガス大会で”世紀の再戦”が公表。とてつもないビジネスになることは確実だからだ。

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 シルベスター・スタローンらと共演した『エクスペンダブルズ3 ワールドミッション』の公開、さらにはWWE春の祭典『レッスルマニア 31』に、映画俳優としてとてつもない成功をおさめたロック様ことドウェイン・ジョンソンともロンダはリング上に上がっている。まさにキャリアのピークを象徴する絵であった。しかし、もしかしたら海外のロンダ・ラウジー社会現象は、日本の一般的な「格闘技好き」程度のファン層は、知らない話かも知れない。国内的には、本稿執筆時点で旗揚げ戦すら終わってない地上波放送RIZINの初陣が2015年の最大ニュースであり、イベント巌流島のローラーコースターもまた大事件だったのは間違いない。より広い観点では、マット界の2015年は「復活」がキーワードだったのかもだ。