今週のお題…………「大晦日と格闘技

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文◎田中正志(『週刊ファイト』編集長)…………木曜日担当



 エアロスミスが大阪ドームで大晦日コンサートやって成功、翌年もイベント歓迎となって『イノキボンバイエ』が開催。総合格闘技イベントではなかったとか、そういうことはどうでも良い。マンネリのNHK『紅白歌合戦』~『行く年来る年』で除夜の鐘を聞くよりも、格闘技試合で興奮させたら民法テレビ局にとっても視聴率取れるとの算段が成立してしまった。
 
 個人的には大晦日に仕事なんかしたくない。普通に考えたら、実家に戻って両親ら家族とゆっくり過ごすのが正月である。記者は大会終わって、さらにバックステージでの選手インタビュー収録も終わって、そこからようやく第二段階の本業仕事が始まる。元旦だから電車は止ってはいないが、さいたまスーパーアリーナから都内アパートに帰り着くまでにえらく時間を食った思い出とか、楽しいことはないものだ。
 
 恐らくは主催者側や肝心の選手たちにとっても、クリスマスというかホリディシーズンで家族と伴に過ごしたいから、航空機代金が高くなる期間で経費が膨らむ予算のやりくりまで、仕事とはいえバイオリズム的には歓迎されない大晦日イベントである。
 
 現場記者にとっての大晦日はどのKO劇が凄かっただの、大会総評をどう書くかは帰路に頭が練り始めるにせよ、なかなか電車の席も開かないからパソコンも開けられなかったとか、いざ肝心の大きなイベント取材なのにバッテリーが切れてしまう他、拘束時間がいつも長い点を筆頭に「シンドイ」の記憶がどうしても先立つ。まして、それでもなんとか仕事を仕上げて無理して元旦の夜に急いで(例えば)大阪に戻っても、「年末から遊びに来てたら良かったのに」と言われてしまう。親不孝にならざるをえないのは仕方ないにせよ、「今年はX-JAPANが出るから『紅白』の方を観たい」と、わざと愚痴ってみたくなるのが人情ってモンだ。
 
 お茶の間の大衆目線とか世間一般という観点からは、今年の大晦日は「格闘技が復活」ということで、筆者が歯医者に行ったら「曙とボブ・サップがやるんえすねぇ?」と、先生の方から振ってきて盛り上がった。シンドイなどと弱音を吐こうものなら罰が当たりかねず、ドンドン世間が格闘技を話題にしてくれて、ようやく明るい未来が見えてきつつあるマット界なのだ。大変に有難いことであり、真っ当なマスコミなら普通に全面支援なのは当然のことだろう。
 
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 別の場面では、「魔裟斗とKIDが大晦日にまたやるんでしょ? 魔裟斗は復帰出来ると思うけど、KIDって大丈夫なんですか?」と聞かれた。業界関係者は「KIDの全身刺青ですか?」と返すようだが、お茶の間はそこまで知らないと思う。ただ、大衆にKIDが危ういイメージを持たれているというのは興味深い。いずれにせよ、街で「大晦日 格闘技」が話題にされているのだから、第64代横綱・曙vs.第37代IWGPヘビー級王者ボブ・サップの両雄、あるいは魔裟斗やKIDには感謝しかない。
 
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 念のため付け加えるなら、昨年は会場も同じさいたまスーパーアリーナで『DEEP DREAM IMPACT 2014』が開催されている。この大会のドキュメンタリー映画『REVIVALこれが日本の総合格闘技だ』が、12月26日(土)からシネ・リーブル池袋で公開とのこと。但し、お茶の間目線で少なくとも5年は格闘技が視界から消されていた歴史を忘れることなかれ。要するに世間からは「無くなった」と思われているのがK-1、PRIDE、あるいは”格闘技”だった。
 
 大晦日TV戦争2015はフジテレビ亀山千広社長(59)が10月23日、東京・台場の同局で定例会見を行い、10年ぶりに再参入を果たすことを公式発表したことが肝。これが格闘技コンテンツの中核プロモーション、堂々と「PRIDE復活」を謳うRIZINの初陣であり、曙とサップの切り札カードにせよ、引退していようが納得させられるだけのギャラが提示されたことを意味する。
 
 フジが「10年ぶりに予算組みます」と株主に宣言、説明責任を果たしたのだから、RIZINの陽は昇ったのだ。
 
 以下は決して悪く評したいのではなく、結果として新日本プロレス1・4東京ドームが2016年は月曜にあたる不運とか、テレビ朝日の同夜での中継も組まれてないのは気にかかる。巷で『レッスルキングダム 10』、「棚橋弘至vs. オカダ・カズチカ」、「中邑真輔vs. AJスタイルズ」が話題になることもない。そもそも30分枠の『ワールドプロレスリング』中継すら、土曜の非常に遅い深夜からで、金曜夜8時のゴールデンに戻る目標(?)は、すっかりギブアップしたかのようだ。999円のネット配信サービス『新日ワールド』が開始1年を通過、時代環境の変化もあるから一概には言えないが、親会社がブシロードになって「V字回復」したことがアピールされているものの、世間には届いてない現実は冷静に受け止める必要があろう。
 
 ひとつに、「大晦日と格闘技」を分析するなら、1・4東京ドームまでを含める業界全体の相関もあれば、そもそも「大晦日に格闘技イベントを開催」という企画自体が、1・4の長い伝統に対抗する出発点だった経緯もある。
 
 棚橋-オカダは昨年と同じカードになってしまったが、今回はジェフ・ジャレット率いるGFW配給の北米PPV放送枠制限もないことから、最後の挑戦として60分試合やるのか否か。まして今回は、奇しくも地上波で年末の格闘技が復活した直後だ。格闘技が逆立ちしても叶わない「60分間闘い続ける格闘技とは何か?」~1995年1月19日、阪神大震災の2日後にも全日本プロレスの大阪府立体育館大会で、川田利明と小橋健太がクラッシックをやり遂げていた。
 
 RIZINから1・4東京ドームまで、マット界で一番忙しい期間が始まった。