「宮崎駿さんが言う”正直さ”とは」
【質問】
“いつも面白くて役に立つお話をして下さりありがとうございます。宮崎駿さんの「風立ちぬ」の評論や他のジブリ作品の解説も動画で楽しく拝聴させて頂いて います。宮崎駿さんがインタビューで、庵野秀明さんの事を「彼はとても正直な男ですから」と言ったり、ジョン・ラセターのカーズを「大変、正直な作品だと 思います。」と言ったり、「正直」という言葉を口にしているのを耳にします。ここでいう「正直さ」というのは駿さんにとって、岡田さんはどんなニュアンス だと思われますか。是非、岡田さんに伺いたいです。よろしくお願いします。”
【回答】
<岡田>
多分、宮﨑駿は正直に作ってない。だから、他人の正直さを褒めるんだ。自分の中で「こういう作品を作るべきだ」と思いながら作ってる。でも、自分の中のドロドロしたものを出してない自覚がずっとあったと思うんですよね。
ジョン・ラセターの『カーズ』というディズニー映画でピクサーの出来のいいアニメがある。ただのCGアニメだと思ってる人が大部分なんだけども、実はカミングアウト作品なんだ。
車が田舎の町に行く、そしたら田舎の町が打ち捨てられていて滅びていく、そこでは車に乗る文化が失われつつある、みたいな事を描いてるの。でも、言っ ちゃえばジョン・ラセターの、「俺はハリウッドに行って、ディズニーにも雇われて、自分の好きな映画作ってる。だけど俺が生まれ育った町はどうなのか?」 というアメリカ人のアイデンティティーが関わってくる。それは別に悪い事じゃないけど、「自分がメジャーになる事によって、忘れていた故郷は今、どうなっ ちゃってるのか?」みたいな問題が出てくるわけ。でも、それは宮崎駿作品に全然出てない。宮崎駿の出身がどこかわかる? 実はあの人は東京出身なんだけ ど、まるで地方とか田舎がいいように描いてるじゃん?(笑)。
<山田>
そうですよね(笑)。
<岡田>
それに学習院大学まで出てるくせに「インテリがいい」とは一言も描いてないじゃない(笑)。ピケはって政治運動してたくせに、自分の原罪みたいな事は まったく描かない。「こういうのが本当はいいんだ」と言ってる農民と職人とが手と手を取って作る世界みたいなものをいいように描いている。いわゆる嘘を描 くわけよね。
『アルプスの少女ハイジ』だって、誰一人として田舎暮らし経験のない高給取りのアニメーターが取材費まで貰ってアルプスに行って、貧乏人の暮らしをカメラ でパシャパシャ撮って、「へえ、こうなってんだー」「ヤギの乳搾るんだー。面白いねー」ってやってる(笑)。それで世界一のアニメ作っちゃうわけよ。言っ ちゃえば、エリート集団なワケよ(笑)。
<岡田>
「正直な男だ」って言うのは、庵野秀明だったら「俺はどんなエロ妄想してるんだ」と。「俺は何だかんだ言っても、2人の女がキャーキャー言ってくれる『エ ヴァンゲリオン』みたいな世界の作品が好きなんだ!」ってのをやると、ロボットアニメとして完結しない、それをまた未解決のままで出す所を見たら、「俺に は出来ねえ、正直だなあ」と思っちゃったり(笑)。
<山田>
正直ですよね。「俺って、気持ち悪ーい!」で終わるわけですよね。
<岡田>
そうそう! ジョン・ラセターだったら、「車が好きだ!」って事を正面から言ってる。でも、宮﨑駿は「1回も戦争が好きだ」とか、「兵器が好きだ」と言えずにアニメをやってた。色んな言い訳つけてた。『風立ちぬ』を作ったのは、宮崎駿なりの正直なカミングアウトだと。
<山田>
うん。カミングアウトですね。
<岡田>
だから、その辺を庵野秀明も昔から気が付いてて、「富野由悠季はパンツ脱ぐけども、宮崎駿はパンツ履いたまま作品作ってる」って言ってるんだけどね。その辺りが正直さだと思う。
宮崎駿は正直になれないこそのエンターテイメント作家であって、庵野君とか、ジョン・ラセターとか、富野さんは正直が故のアーティストなんだよ。ジョ ン・ラセターは正直さとハリウッド・ピクサームービーを両立させれる所がすごいなあと思ってるから、自分の後継者だって言ってるのじゃないかと思います。
【まとめ】
宮崎駿は正直になれないこそのエンターテイメント作家であって、庵野君とか、ジョン・ラセターとか、富野さんは正直が故のアーティスト。ジョン・ラセターは正直さとハリウッド・ピクサームービーを両立できるところがすごい、と宮﨑駿は思ってると思います。
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【おしらせ】
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1月1日 岡田斗司夫 第45回ゴー宣道場『道徳教育は可能なのか?』第一部・後半
1月2日 岡田斗司夫ゼミ12月28日号『漫画家・田中圭一が実践できる鬱対策をインタビュー』
都合により、公開予定を変更させて頂きました。
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