岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2019/08/29
今日は、2019/08/11配信の岡田斗司夫ゼミ「『千と千尋の神隠し』の「不思議な話」、その他“幽霊” “UFO” “怪奇現象” ……の「少し怖い話」特集!」からハイライトをお届けします。
じゃあ、もうちょっと詰めた話をしていきましょう。
ええと、今度の8月16日の金曜日、金曜ロードショーで『千と千尋の神隠し』をやるんですけど。ちょうど僕は、そのタイミングでアメリカに行っているので、来週はその話が出来ないんですね。
なので、今のうちに『千と千尋』の都市伝説の話をしたいと思います。
といっても、よくあるタイプの都市伝説って、僕は嫌いなんですよ。
例えば、『千と千尋』の中に「主人公の千尋が電車に乗って、おばあちゃんのところへ行く」というシーンがありましたよね?
この時、駅構内に女の子の影が見える。
(パネルを見せる)
「この、駅に立っている少女は、『火垂るの墓』の節子だ」とか、そういう説がありますよね。
僕、こういうのは嫌いで。「絶対にない」と思うんですよね。
なぜかというと、「宮崎駿というのは、そういう程度の低い遊びをやらない人だから」なんですよ。
それぞれの作家には、作家なりの癖というのがあるんです。宮崎駿という作家がやる遊びというのは、もうちょっと回りくどいんです。
なので、そんな「高畑勲のアニメに出てきたキャラクターを、自分の映画の中にちょっと出して遊ぼう」みたいなことは、まず考えないはずなんですよね。そういうのを一番嫌がる人だから。
どちらかというと、この都市伝説というのは、無理矢理「そういうふうに見える!」って言ってるんだと、僕なんかは思っちゃうんですね。
他にも、一番最初の冒頭、アウディの自動車をガーッと飛ばして、トンネルのあるところで急に停まって、「こんなとこもあるんだ。中へ入ってみよう」というシーン。
「実は、あの時点ですでに、あの自動車は事故にあっていて、両親は死んでいて、千尋は臨死体験をしている。このアニメ全体が千尋の臨死体験なんだ」という都市伝説もあるんですけど。
いや、もう、それもやっぱり「ないない」って、僕なんかは思うんですよね。
なぜかというと、宮崎駿は、もうハッキリと、このアニメを作る前とか、作っている最中も「10歳の女の子に見せるためのアニメを作ってる」って言ってるんです。
「でも、『千と千尋』というのは、制作に3年も4年も掛かってしまったから、一番見せたかった10歳の女の子は、このアニメが完成した時には14歳15歳になっていて、見せるべき対象ではなくなってしまった。この辺が切ないですよね」というふうに語ってるんですよ。
だから、そういう「臨死体験だった」という噂は「月着陸はなかった」と同じように、何を見てもそう見たい人のための遊びだから、放っておこうと思っています。
あとは、『千と千尋』に出てくる湯屋。いわゆる物語の舞台となる場所ですね。「あれは風俗だ」っていう意見も、よく聞きます。
働いている女の人は、みんな胸元をはだけているし、場所もお風呂だし、「来た神様たちを慰めてあげる」施設だし、ということで。
何よりも、監督の宮崎駿自身が、インタビューで「風俗みたいなもんです」とハッキリ言っちゃってるので、僕も昔は、この「『千と千尋』の湯屋=風俗説」というのを信じていました。たぶん、過去のニコ生でも、そういうことを言ったこともあると思います。
でもね、今になって、ニコ生でちゃんと『千と千尋』を語るために一から考えたら、やっぱり、これも違うと思うんですよね。
これは『千と千尋』の特集をやる時に言いますけども。風俗っぽく見せているのは、いわゆる宮崎駿が本来の客層として考えていた10歳の女の子じゃない、大人とか評論家が見た時に、意図的にミスリードするために、あえて作った仕掛けだと、僕には見えているんです。
でも、この話は、9月以降に予定している『千と千尋』特集で話すので、もうちょっと待っててください。
・・・
今日、話す「『千と千尋』の都市伝説」というのは「千と千尋」の部分ではなく、その後ろの「神隠し」の部分です。
たぶん、日本で一番有名な神隠しというのは、天狗に拐われた寅吉少年事件だと思います。
江戸後期、栃木と茨城の間くらいに住んでた子供、寅吉は、お祭りで壺売りの壺を見ていたら、その壺の中に飲み込まれてしまうんですね。
数年後、この寅吉は、いきなり浅草の観音堂の前に現れて、「自分は今まで数年間、天狗の世界で暮らしていた」ということを言い出しました。
当然、周りの大人達は、寅吉の言うことを全く信じなかったんですけども。そこに有名な国学者の平田篤胤という人と彼のグループがやってきて、話を聞いてみたら、「これはすごい!」と寅吉の言うことを信じて、以後の数年間、寅吉は平田篤胤やその仲間の家に住み込んで、天狗の世界の風習とか、修行、日常などの文化に関して、細かなディティールまで異常に詳しく話をし始めたという事件がありました。
平田篤胤は、これを『仙境異聞』というですね本にして出版したところ、江戸後期の大ベストセラーになったんですね。
では、この神隠しに遭った寅吉の言う天狗の世界というのは何だったんだろうか? いまだに真実はわかっていないんですね。
単に「大ボラふきの子供が、大国学者平田篤胤やその仲間を騙しただけ」というシンプルな説もあるんですけど。ただ彼は、その時代の最高頭脳の一人であって、そんな学者が友達の学者達と一緒に……数年間ですよ? 数年もの間、一緒に住んでいて、問い詰めても、ウソだとわからなかったというのは、ちょっとね不自然だと思うんです。
「だから、天狗の世界というのは、本当にあったんだ」と言う人もいます。
もうちょっと不思議な日本の神隠しについては、番組の後半でお話しようと思います。
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