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岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2019/01/15
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今回は、ニコ生ゼミ01月06日(#263)から、ハイライトをお届けいたします。

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 【『ナウシカ』の世界を歩いてみよう 2 】 先人たちの血と汗で積み上げられた “砂退け棚” の列


 さて、ユパと再会を果たしたナウシカは「ユパ様が来た」という良いニュースを谷のみんなに伝えるために、一足先に族長であるお父さんの待つ城に帰るため、崖の上から一気にジャンプします。

 ここでまた、抜けのいい絵に切り替わります。

 ずーっと砂漠の砂の上で話してるだけだったところから、「タッタラターター♪」みたいな感じで、急にメーヴェを担いで、崖から大ジャンプするというシーンになるんですけども。

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 メーヴェに乗ったナウシカが崖から大ジャンプする場面で、崖の下の方にかすかに道が見えています。

 この崖を、ずーっと果てしなく進んでいくと、その先に明るいところがあるんです。

 つまり、この渓谷というのは、ゆっくりと右の方へカーブしているわけです。


 風の谷へ続く崖というのは、実は微妙にカーブしていて、ナウシカはそれに沿って飛んでる。

 崖下にある道というのは、後でユパが通ることでわかるんですけど、崖の横に刻まれた、細い細い、本当に人間1人通るのがやっとくらいの道です。

 その横をナウシカが先に飛んで行って、遥か彼方に消えて行くんですね。

・・・

 この風の谷 周辺の位置関係というのは、実はこれまでほとんど画像化されたことがないんですよ。

 大きく右へ折れているために、ナウシカが飛び立った崖からでは、風の谷の底が見渡せない構造になっています。


 ここから飛び降りることでもわかるように、ラストシーン近くで出てくる酸の海というのは、実は海抜1000mくらいの高さの台地の上に存在するんですね。

 風の谷というのは、海抜1000mの台地の上にある酸の海とか腐海のある場所から、かなり下がった崖の底、海の近く、海抜0mのところに存在しているんです。

 この高低差というのが、実は風の谷の存在そのものなんだ、と。


 つまり、この映画には海が2つ出てくるわけですよ。

 まずは、風の谷の近くにあって、“塩の海” と呼ばれている風が吹いてくる安全な海。

 まあ、「安全な海」と言っても、ナウシカ達はそこで漁業とかは一切やっていないから、実はこの海も死んでいるわけですけど。

 それとは逆に、ナウシカたちからすれば、谷をどんどん上がっていって、1000m近く登った末にある砂漠の中の酸の海。

 その向こうに腐海があるという、2つの海に挟まれているわけですね。


 そういう狭い狭いところで暮らしているという、風の谷の全体構造というのを軽く掴んでおいてください。

・・・

 さっき話した崖に刻まれている細い道を通って、ユパが坂を降りて行きます。

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 ナウシカみたいにメーヴェに乗ってないので、ユパは歩いて降りるしかない。

 なので “トリウマ” と呼ばれる馬のような生物に乗って、谷の側道を下って行きます。

 すると、足元から砂塵が崖の上の方に流れて行きます。


 ここで吹いている風は、ただの風ではなくて、砂混じりです。

 これは、酸の海や腐海からの胞子を吹き飛ばすための砂なんです。

 ただの風ではなくて、酸の海や、山の上の方から降りてくる瘴気、毒とか胞子とかを吹き飛ばすために、風の中に砂を含ませて、それで吹き飛ばしているわけですね。


 谷をどんどん降りて行くと、ユパの前に、巨大な “砂退けの棚” というのが現れます。

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 これも絵コンテに解説があります。

 「砂を退けるための棚」という意味なんですけど、これが風の谷までの道の途中に何箇所かあります。


 これ、棚の根本の方から砂煙が上がっているのがわかりますね?

 この砂は腐海の方から降りてくる砂もありますし、海から飛んでくる砂もあるんですけど、それを1回、このクルクル回転する羽みたいなもので叩き落として、下に貯めるんですね。

 そして、海からの風が上がってきた時にこの砂が吹き上げられて、腐海の方に吹き戻されるようになっている。

 これが、風の谷が長年かけて作ったシステムなんです。


 これも見たら分かる通り、“蟲除けの塔” と同じく、塔の材質は石。

 この羽の部分というのは木と布で出来ているんですけど、土台は石積みです。

 役割は、さっきも話したように「酸の海の方から侵入する砂塵を防ぎ、同時に海からの風に乗せて、上に吹き上げること」なんですよ。

 宮崎駿の初期案では、このすぐ下に村があるんだけど、その案では「村人は全員は村の中に暮らさずに城の中に住んでいる」という設定なんですね。


 どういった設定だったのかというと、「この砂退け棚がちゃんと完成するまでは、気密性の高い城の中に、何かというとみんなで逃げ込んでいた」と。

 何かちょっとマズいことがあると、すぐに城の中に全員で逃げ込むために、風の谷の城っていうのは、あんだけデカいんだ、ということなんですね。


 風の谷には村人の数が500人しかいないのに、明らかにオーバーサイズな城が建っているんですけど、それは当たり前で、とりあえず風の向きがもう一度変わるまで、村の全員が逃げ込むことを前提にした大型の宿泊施設を兼ねているからなんです。

 仮宿舎を兼ねているから、あの城というのは、あんなにデカいんですね。

 しかしそれも、この砂退けの棚が出来て、常に砂を吹き戻すことが出来るようになったということで、皆が城の中に住まなくて済んだ。

 ということで、この初期の案の設定は使われなくなりました。

・・・

 ユパがさらに進むと、砂避け棚の根本が見えます。

 ユパは下からそれを見上げながら通っているんですけども。

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 さっきのカットの構図と見比べると、どんどん谷底に降りていっているのが分かりますし、本当に1つ1つの土台となっている塔が石造りだということがわかるんですね。

 この風の谷というのは、思った以上に高低差がある谷の底だという事が、この絵で分かると思います。


 巨大な棚板が回転しています。

 腐海の側から流れてくる胞子や砂塵をここで1回叩き落とすのと同時に、海からの風でそれを腐海側へ吹き戻すという機能があります。

 この仕組みを思いついてから、完成させるまで、一体何年かかったか分からないんですけど、その頃の風の谷のことを考えると、本当にゾッとするんですよね。

 偶然、風が止んだり、風向きが変わるだけで、村が全滅しちゃうくらいですから。


 だから、常に誰もが城の近くに住んでなきゃいけないし、農作業をする時でも、風が変わった瞬間に、それがわかる仕掛けが必要なんです。

 つまり、蟲よけの塔みたいなところに風車を設置して、カラカラカラとか、カチカチカチって聞こえた瞬間に、皆が城に向かって何もかも放り出して走って行って、隠れなきゃいけない。

 そういう状況の中で、何世代も何世代も暮らしていたわけですね。

 そんな中で、石を少しずつ積み上げながら造ったんです。


 だからこそ、風の谷の人達っていうのは、風とか水を確保するために働くことを、全く惜しまないんですよ。

 普通に『ナウシカ』を見てると、「宮崎アニメに出てくる村人ってつまんねえな」って思っちゃうんですよ。

 みんな善良で働き者で、なんかいい人っぽくて、「宮崎アニメに出てくる村人ってつまんない」って思っちゃうんですけど、とんでもない。


 なぜ、みんな働き者なのかというと、この風の谷というのは、怠け者というのが生きていけない、存在することが許されないほどに、貧しくて過酷な生活なんです。

 この棚を作る時も…

 …だって、考えてみてくださいよ?

 この巨大な石の塔が完成したら、これによって村は安全になるんです。

 でも、この石の塔も棚田も、何十もあるんですよ?

 
 それを一番外側からか作って行く時というのは、実は一番危険なわけじゃないですか。

 だって、そこに行けば自分の死が早まってしまうんだから。


 族長のジルですら、安全な風の谷の中にいたのに、わずか1年半で急激に病気が進行して死んじゃうんですよ?

 そんな環境の中、砂塵にまみれて、つまり、腐海から飛んでくる最も危険な物質の中で働くんです。

 いわゆる「放射能まみれの原子力発電所の事故現場で、ずーっと働く」というようなことを、何世代も何世代も続けないと、これは完成しないわけですね。

・・・

 この砂退けの棚を作る時も、塔を建てるために石を積み上げた人達というのは、みんな早死したはずです。

 自分達が早死する事を分かりきっている中で、それでも積み上げ続けなければ、こんなものが完成するはずないんですよね。

 「自分の父親も死んじゃったし、自分も他人より早く死ぬだろうし、今、自分と一緒に手伝いに来ている小さい息子も同じように早く死ぬことだろう」と。

 こういう覚悟を持って働くことを何世代も続けなければ、こんな巨大な構造物を何重にも何重にも作れるはずがないんですね。

 「でも、これをちゃんと作らないと、自分達の孫やその子供たちもずっと、自分と同じ様に寿命が短いままだ」と、そう思った祖先たちの犠牲の上に、この砂退け棚というのは出来ているんです。


 だからこそユパは、この前を通る時に、尊敬の眼差しで見上げながら通るんです。

 このシーンをサラッと見ちゃうと、ユパは「おお、風の谷に着いた。久しぶりだな。うん。見事な砂退け棚だな、なかなかだ」って思ってるように見えちゃうんですけど。

 ここでのユパは「今まで通って来た滅びた村々に対して、風の谷の人達というのは、自分達が死ぬことをわかりながら、何世代も何世代も頑張ってきた結果、こんなものを作った。だから、今もこの村は守られているんだ」という、かつての人達に対しての尊敬の目線で見上げながら通ってる。

 そう思うと、盛り上がる音楽と共に、このユパ様が砂退け棚の前を通るだけのシーンが、すごい感動的で、僕、いつもこのシーンでメチャクチャ胸にグッと来ちゃうんですね。


 これは、高畑勲が怒ったところでもあるんですよ。

 「そこまで考えているんだったら、それをわかるように描けよ!」と(笑)。

 だけど、宮崎駿は「いや、それを描くとストーリーが進まなくなる! ここは、棚板がクルクル回っている様子をユパが見上げてるだけで、十分カッコいいじゃん!」と。

 ここら辺で “民衆を描きたい高畑勲” と、“事件を描きたい宮崎駿” というのが分かっちゃうんですよ。


 なので、ここらへんはもう、僕らが分かってあげなきゃいけないんですね。

 「なんでユパ様はそうやって見上げて歩いたのか?」というと、別に風景が良いからではないんですよ。

 かつて、これを成し遂げた祖先の人達…

 …祖先といっても、つい数世代前の人達の働きのおかげで、こういうものが出来ている、と。


 だから、僕はこのシーンがかなり好きなんです。

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