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「【『紅の豚』ジーナとポルコは最後どうなったのか? 2 】宮崎駿の私小説としての『紅の豚』」
さて、この辺から、私小説としての『紅の豚』の解析になるんですけども。
“不倫” じゃないんです。
“恋愛” なんですよ。
そして、『夢と狂気の王国』という、スタジオジブリのドキュメント映画の中でも撮影されています。
スタッフの間では「サンキチさん」というふうに呼ばれているんですけど。
そのサンキチさんという女性スタッフは、このドキュメンタリーが撮影された当時、『風立ちぬ』を作っていた当時の “宮崎駿のお気に入り” だったんですよ。
この「原画チェック頑張って」とか、「あと何カット残っているのか?」というかわいいイラストが入った張り紙を描いたのが、サンキチさんという、まあ、すごい童顔で可愛らしい、もうひと目で “宮崎駿お好み” というのが誰にでもわかる女性なんです。
で、サンキチさんが「本当ですか? 良かった!」と言うと、宮崎駿は…
…あの宮崎駿がですよ?
自分から彼女に “ハイタッチ” をしようとするんですね。
「ハイ! ハイ!」って。
サンキチさんは、一瞬「え?」という顔をした後で、「ああ」とわかって、ハイタッチに応じる。
そんな、はしゃぐ宮崎駿の様子が収録されているんですけど。
実は、どうも本人としては隠してるつもりらしいんですけど。
これについては、鈴木敏夫も、すごく嬉しそうに「もう本当に宮崎さんは可愛い。あれで隠してるつもりだ」って言ってるんですけど。
でも、それを完全にプラトニックに、ストイックに、自分の中で抑えてるから、宮崎駿は他人にはバレてないと思ってるんですよね(笑)。
それを示すように、このドキュメンタリーの中にはサンキチさん絡みのエピソードやカットがすごく多いんです。
宮崎駿の「恋愛してるんだけど、それに関して自分でもわりと無自覚な様子」とか、「周りにバレてないと思っている様子」というのを、意地悪に…
…という言い方もナンですけど、すごく丹念に掬い上げて編集して残しているんですね。
だって、この『夢と狂気の王国』の中には、サンキチさん絡みのシーンが本当にいっぱい入ってるんですよ。
遂には「サンキチさんの結婚式」というところまで収録されているんです。
もっと重要で、普通のドキュメンタリーだったら収録すべき「ジョン・ラセターが、わざわざ来日して宮崎さんと話している」というところは、一切ないのに。
あのジョン・ラセターが出てこないドキュメントなんて、普通はありえないんですけど。
まあ、そういう配分で見せています。
「どうしよう?」と。
ということで、宮崎駿以外のジブリのスタッフが「誰が宮崎駿にこのことを告げるか?」という相談をしたんですね。
で、その結果、鈴木敏夫が「しょうがない。じゃあ、俺が言うよ」となったんです。
……何が「しょうがない」なのか、もうわからないんですけど(笑)。
そして、話をするために鈴木敏夫が宮崎駿をジブリの屋上に呼び出したんですよ。
すごく遠くから望遠で撮っているから声は聞こえないんですけど。
「話がある」と屋上で横を向いて語る鈴木敏夫の横で、宮崎駿は、それを小石を蹴りながら聞いていて、「わかった」みたいなことを言ってるんですけども。
こんなシーンまで入ってるんですよね。
このブログには、サンキチさんの結婚式の写真まで載っているんです。
サンキチさんが描いた「原画チェック頑張って」という張り紙にあった可愛らしいイラストのウェディングケーキの写真が載っています。
そのブログによると「新郎新婦の2人が、神父の前でなく “宮崎駿の前で” 愛を誓う」というセレモニーまであったそうなんですけど(笑)。
宮崎駿の恋の仕方って、すごいストイックで、プラトニックなんです。
このドキュメンタリーの中でも、宮崎駿が毎日、奥さんが作った愛妻弁当を持ってジブリに出勤している姿が映されているんです。
この「奥さんが作った愛妻弁当を持ってジブリに出勤して、そして、その現場で他の若い女の子相手に恋愛をしている宮崎駿。でも、浮気じゃないからOKだ」と。
宮崎駿はそれを「カッコイイとは、こういうことさ」と言っている。
これについて僕は、中年のオジサンの考え方としてわかるんですよ。
そういったところを僕は「カッコいいな」って思うんです。
この様子はニコニコ生放送で配信されたので、まだ映像も残っていると思います。
2012年、ニコ生で押井守、鈴木敏夫、川上会長の三者鼎談というのをやった時、押井守が鈴木敏夫に「『紅の豚』のポルコって、最後は奥さんのところに帰るんでしょ?」と聞いんです。
すると、遂に鈴木敏夫も諦めて「いや、言ったんだけど、その件で宮さんのことをちょっと怒らせちゃってさ」と言う。
押井さんが「ポルコって、宮崎さんのことでしょ? あの豚のお面をパッと取ると、宮崎さんの顔になってるわけじゃん? 絶対そうでしょ?」と言うと、「いや、まあ、ちょっとその時のことを言うと、こっちも気が緩んでいて、こんなやり取りがあったんです」と、鈴木敏夫は渋々話すんです。
これですね。
実は、この小屋の奥はだいぶ先まで続いていて、奥へトントントンと行くと、そこにはポルコの奥さんが住んでいる本宅があって、最後、彼が家の中に入ろうとすると、いきなり「ゴミ捨てしといてって言ったでしょ!」と怒られる。
で、晩御飯だけ、ジーナのところへ食べに行っている。
そして、フィオみたいな若い子と、プラトニックに遊んでいる。
「そこが日本の中年サラリーマンのカッコいいところだし、中年のオジサンを本当に応援するアニメなら、そこまでわかりやすく作ってもいいんじゃないの? だって、宮崎さん、現にあなたは毎日、奥さんの愛妻弁当を持ってジブリに来て、そこでサンキチとイチャイチャしてるじゃん!」ということを、冗談としてチラッと言ったら、宮崎さんは本気で怒ってしまったらしく、返事をしてくれなかった。
これ、『もののけ姫』の時もそうなんですけど「どんな話を作りたいかが分かっていたら、それは言葉で言えばいいことだし、分かった瞬間に映画なんか作る必要がない。 分からないから映画を作る。 一生懸命に作っていたら、“自分のために作っている作品” ではなく “映画のために作らされている作品” になる。 そうなって初めて、1本の映画として完成する」と言ってるんです。
だから、宮崎駿も一度は「いまだにモテたいと思っているポルコ」というラストシーンを描いて、JALの機内上映までは許したんだけど、完成版ではこれをカットして、ジーナと一緒のシーンはあえて描かないまでも「今でも空を飛んでるポルコ」というのを描くというところで抑えたわけですね。
映画のラストとしては、これで正解なんですよ。
今、DVDで公開してるバージョンもそうですし、金曜ロードショーで公開しているバージョン、このラストで正解なんです。
しかし、まだ秘密基地には通ってて、そこには最新のサボイアがある。
ジーナのところに置いてるのは古いバージョンのサボイアなんですよね。
宮崎駿にも、ジブリ以外に “二馬力” という個人事務所があって、そこに毎日、意味もなく出勤しているんですね。
そこでカーテンを開けて、奥さんのお弁当を食べて、その後でジブリに行って仕事をしている。
そんなふうに、やっぱり、縛ることが出来ない人なんです。
……まあ、もっとすごいのは高畑勲だったんですけども(笑)。
なので、まあ「そういう爺さんだ」と思っていればいいんじゃないか、と。それが大人になってから、もう一度『紅の豚』を見た時の、中年のオジサンの生き方を肯定する見方なのではないかなと思います。
「いや、よくそこまで正直に描いたな」と。
庵野秀明は『紅の豚』を見た時に「宮崎さんも、やっとパンツを脱いで見せましたね。いくらモノが小さくても、見せたことは評価します」って言ったんですよね(笑)。
庵野秀明もなかなか酷いことを言うんですけど。
まあ、その辺は「どこまで自分というものを晒すのか?」というのが私小説の作り方ですので。
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