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岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2018/11/21
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今回は、ニコ生ゼミ11月11日(#256)から、ハイライトをお届けいたします。

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 【『紅の豚』ジーナとポルコは最後どうなったのか? 1 】 JALの機内上映だけで公開された幻のエンディング


 では、「ジーナとポルコの仲は、結局どうなったのか?」の解答編に入っていきたいと思います。


 これは、スタッフロール前のほとんどラストシーンで映る1コマです。

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 「ジーナさんの賭けがどうなったか私達だけの秘密……」というフィオのモノローグと共に映されるカットですね。

 誰もいない東屋を映すことで「結局2人がどうなったのかはわからない」ということを語っているんですけど。

 この賭けの結果については簡単で、『紅の豚』の作品内で答えが出ています。

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 これは、物語が終わった後、成長して大人になったフィオが、おそらくは自分でデザインしたジェット飛行艇で、ホテル・アドリアーノに行くカットです。

 この絵の中に答えがあります。

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 ここに “赤い飛行艇” が映ってるんですよ。


 まあ、これについては気が付いていた人も多いと思いますけども。

 ちょっとだけ付け加えさせて頂くならば、ここで映る、フィオが自分でデザインした飛行艇が、なかなか細かく描いてあるところですね。

 フラップがちゃんと降りていて、エアブレーキが開いていて、“前縁スラット” という着陸の際に揚力を生む乱気流を発生するための部分が開いてて、なかなか凝った仕掛けになっています。

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 ちゃんとポルコの飛行艇が、桟橋に停まっているのが映っているのがわかりますよね?

 この桟橋は “ジーナ専用の裏庭” に直結する桟橋なんです。

 ここに真っ赤なサボイアが停まっている。

 なので、単純に映画を見ていると「ああ、ポルコはジーナの元に行ったんだ。昼間にアドリアーノに出かけて、きっと人間に戻ったんだろう」と思うところですね。

 これが “普通の見方” です。


 「ポルコとジーナがどうなったのか?」については、もちろん、そういった解釈でも構わないんです。

 だけど、冒頭でも言った通り、この『紅の豚』というのは「作者の表現したいこと」が何層にも重ねて作られている作品なんですよ。


 もちろん「カーチスとの対決の後でボコボコになったポルコは、フィオのキスのおかげで人間に戻りました」という幸せな話と捉えても全然構わないし、「人間に戻れなくても、ジーナと一緒に暮らしました」という、ちょっと苦いハッピーエンドでも、もちろん構わないんです。

 でも、宮崎駿は、もう1つ別のラストを用意していたんですね。

・・・

 それが何かというと、さっきのシーンからの繋がりなんですよ。

 「ジーナさんの賭けがどうなったのかは、私達だけの秘密……」というフィオの声のナレーションが入った後、絵コンテではどうなっていたのかというと。

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 「ガーッ!」というジェット機の音が入って、いきなりジェット旅客機が飛んでいる様子がドーンと映るんです。

 そして、それを颯爽と追い抜くポルコの飛行艇。

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 次に、ジェット機の中から見たポルコの飛行艇が見えます。

 二重反転プロペラで、超高空を音速以上の速度で飛んでるわけですね、こいつは(笑)。

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 そして、操縦席のポルコが親指を立てるサインをして、そのままジェット機を追い抜いていくところで終わる。

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 これが、本来、宮崎駿が描こうとしていたラストシーンなんです。


 『アート・オブ・ポルコ・ロッソ』という、ジブリ公式の『紅の豚』の設定美術本の83ページに、このシーンの完成図案が載っています。

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 これが、ボーイング727と思しきジェット旅客機を追い抜いていくサボイアです。

 これを見ればわかる通り、背景もちゃんとあるし、セル仕上げもされている。おそらくは撮影までされているんですよね。


 このラストシーンについては「JALの国際線での上映でのみ公開された」という話もあります。

 まあ、この話が本当かどうかは今となってはわからないんですけど。


 というのも、ジブリとしては「JALの国際線で公開した」と公式に言っているんですけど、「それと劇場公開版のラストシーンが別モノであったかどうか」については言及されていないんですよ。

 その上、当時の目撃情報もよくわからなくなっている。

 だけど、ここまで作られているということは、おそらく撮影もされているし、僕はJALでは公開されたんじゃないかなと思っています。


 なにより、モデルグラフィックス誌の92年5月号で…

 …もう本当に、20数年前の雑誌なんですけど。

 その雑誌の中でのインタビューで、宮崎さんは「このカットを描くのが楽しみでしょうがない。

 1カットだけ、サボイアにターボプロップエンジンを付けて、二重反転プロペラで飛ぶところを描くんだ。で、ジェット旅客機を追い抜くんだよ。

 それを描くのが、もう、今から楽しみだ!」とまで言ってますから、作ったんでしょう。

 でも、実際に劇場では公開されなかったんですね。


 このジェット機の尾翼のエンブレムを見る限り、これはおそらくドイツのルフトハンザ航空のボーイング727。

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 それが現役でピカピカの機体で映っているということは、このシーンの時代設定は1963年から65年の間くらいではないかと思います。


 ポルコが生まれたのは1892年頃ですから、この時の彼は、おそらく70歳は超えているんだけど80歳にならないくらいの年齢で、まだギリギリ現役で空を飛んでいるというのは、ありえる世界観なんですね。

 じゃあ、その70過ぎのポルコはどんな姿か?

 それがこれなんです。

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 ここで映るポルコは、成層圏を飛ぶために与圧服を着ていて、顔が見えなくなってるんですよ。


 よく見ると、このサボイアには「ハートにG」のマークが付いています。

 まあ、これはいわゆる “撃墜マーク” というやつで、ジーナの頭文字と受け取ってOKでしょう。

 つまり「ついに俺はジーナを口説いたぞ!」というサインなのか、もしくは「俺はジーナに撃墜されちゃった」という意味かもしれません。

 ポイントは、このジェット機を追い抜いた時のポルコのポーズなんです。

・・・

 ここでは、人間に戻れたのか、まだ豚のままなのかがわからないように描いてるんですけど。

 この時のポルコは親指を立てているんですね。


 これは何かというと、先週の初歩編で説明したこのシーンと同じポーズなんです。

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 『紅の豚』冒頭で、マンマユート団を追いかける際に、アドリア海の観光用の飛行艇とすれ違い、それに乗っていた女の子から「キャア! 豚さんよ!」と言われた時、「そんなとこにいると誘拐されちゃうぜ?」と言って親指を立てた。

 この「カッコイイー!」と言われる時と、全く同じポーズなんです。

 こういった「全く同じポーズをする」というのは、作者にしてみれば “映像的な伏線回収” でしかありえないわけです。これらは対になっているシーンなんです。

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 では、これが何を意味するのかというと。70歳になったポルコは、相変わらず旅客機にちょっかいを出しに行って、女の子にキャーキャー言われて「カッコいいだろ? 俺」とギューンと去って行く、という意味なんですね。

 そういうシーンをラストに入れることで、映画の冒頭で見せたシーンと韻を踏んでるんです。

 それも、ご丁寧に、飛行機が飛んでいる方向や、ポルコの構図まで同じにすることで「韻を踏んでますよ」と比較的わかりやすく作っています。


 まとめると。

 ポルコとカーチスの対決があった、あの夏の日から40年くらい経った今、フィオはホテル・アドリアーノを訪れる。

 すると、桟橋にはポルコのサボイアが停まっている。「ああ、やっぱりポルコはジーナさんと幸せに暮らしたんだ」と。これが普通に映画を見ている人が思う第1のオチなんですけど。

 しかし、次にジーナの東屋が映っても、そこには誰もいない。


 そして、ここで「私達だけの秘密……」というフィオのナレーションが入ることで、含みを持たせて、このまま “第2のオチ” に行く予定だったんですよね。

 第2のオチというのが何かというと。

 実は桟橋に停めてあるポルコの飛行艇は、もう古い機体で、すでに使っていないものなんです。

 
 つまり「ポルコは、ターボプロップにエンジンを換装した新型のサボイアで、今日も大空を飛び回っている」ということなんですね。だから、東屋には誰もいなかったんですよ。

 ポルコは今日も、わざわざ旅客機の横をこれ見よがしに飛んで、女の子たちに親指を立てている。


 新型サボイアに描かれている “ジーナの撃墜マーク” というのは “結婚指輪” と同じであって、要するに「俺は結婚して指輪を付けてるんだけど、キャバクラとかに行ってお姉ちゃんと遊んだりすることを忘れてるわけじゃないぜ」という意味なんです。

 これが第2のオチになってるんですね。

 「家に嫁がいるけど、俺は外で女の子と遊んでる。だけど、別に浮気してるわけじゃないから、それくらいはいいよね?」と。

・・・

 前回も話した通り、『紅の豚』というのは、もともとJALの国際線に乗る中年のオジサン向けに作るはずだった映画なんです。

 なので「ご同輩、俺達中年のオジサンというのは女房持ちなんだから、浮気はしちゃいけない。

 でも、若い女にモテようとする色気を忘れちゃいけない」というメッセージが入っていたんです。


 そして、このラストシーンが削除された理由は、こういった「中年オジサンのための映画」という目的が変わったためだと僕は考えています。

 JALの機内上映版だけでこのラストシーンが残っていたというのは中年オジサンのための映画というのを残していたんですね。


 でも、劇場で公開するバージョンでは、このシーンは差し替えられています。

 ラストのスタッフクレジットが終わった後で映るこれが、劇場版のラストシーンなんですね。

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 ラストのスタッフクレジットが終わった後で映されるのが「サボイアが積乱雲の上の超高空を飛んで行く」というカットなんです。

 つまり「ポルコは今も自由だ」と。

 仮にジーナのところに行ったとしても「危険だから、もう空を飛ぶのなんかやめてくれ」という彼女の願いは聞かずに、今も自分の好きに生きてます、ということなんですね。


 ラストシーンが差し替えられた理由は、監督自身が「このメッセージだけが伝わればOKだ」と考えたからだと思います。

 もし本当にジーナとの関係を描きたいんだったら、東屋のテーブルに昔の写真でも置けばいいんです。

 それだけで2人の関係というのは描けるんですから。


 だけど、宮崎駿監督が描きたかったのは、ジーナとポルコの関係ではなく、ポルコ・ロッソという個人なんですね。

 なぜなら、私小説だから。

 だから、今でも空を飛んでいる飛行艇というのを描いたんですよ。

 「ポルコの心は、アドリアーノに留まるのではなく、今も空の上にあります」と。

 言い方は悪いんですけど「女に縛られていない」というのを描こうとしているから、このカットがラストに入るわけなんです。

 
 
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