人々が考え出す “モンスター”、恐怖の対象というのは、意外なことに、その時代の最新の科学の形を纏うことが多いんですよ。
たとえば、電気、生態電池が発見された時、ボルターが「電極をカエルの死体に当てると、ビクッと動く」という実験を行った時代には、『フランケンシュタイン』 という小説がメアリー・シェリーによって書かれました。
つまり、「最新の科学というのは、恐ろしい結末をもたらす」 というのは、人類が、もうずっと昔から持っているイメージなんですね。
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ゴジラというモンスターも、原爆の実験から産まれました。
これは、僕らもよく知っている一番最初のゴジラなんですけども。
これは、原爆によって産まれた、原爆怪獣とか、水爆怪獣というふうにいわれています。
ところが、このゴジラも、一番 最初はこんな姿ではなかったんですね。
初期のゴジラのデザイン案はこうでした。
これはもう、ゴジラファンにとっては当たり前なんですけども、全身が鱗に覆われているんですよね。
なぜ鱗が付いているのかというと、元々は 「ティラノサウルスみたいな巨大な恐竜が原水爆の実験によって目覚めて、海から出てくる」 という設定だったからなんです。
これは、粘土原型を作っているところなんですけど、これを見てもわかる通り、途中まで、ゴジラのイメージというのは全身に鱗があるんですね。
ところが、これではテーマ性をハッキリ出せない。
ということで、頭の部分からこんな感じのデザインになっていきました。
これは “原子雲” と呼ばれる、原爆水爆が爆破した時に起こる雲に似せて描かれた、ゴジラの頭の形のデザインスケッチです。
ゴジラのデザインというのは、こういうふうに段々と固まってきて、一番 最初のゴジラのような、ワニみたいな鱗というよりは「全身の皮膚が放射線によってケロイド状に焼けただれたような体表面」という表現に近づいていきます。
つまり、その時代の最新の科学による恐怖というのが、その時代の怪物の姿に反映されるわけですね。
『シン・ゴジラ』 というのも、もちろん、福島の原発事故などをモチーフにしてデザインされています。
「最新の科学が恐怖のモンスターを生む」 という意味では “遺伝子工学” というのがもてはやされた頃に、遺伝子操作で産まれた恐竜が暴れまわる 『ジュラシック・パーク』 という映画が作られたのも当然の流れなんです。
これに限らず、映画業界では、その時代の最新の科学をモンスターとして描くということが定番中の定番なんですね。
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同時に、映画の歴史というのは、イコール恐竜の歴史でもあるんです。
映画というものが生まれて以来、その時代ごとに最新の学説に基づいた恐竜を見せるんですよ。
映画 自体は、1893年、ほぼ同時期に、アメリカのエジソンとフランスのリュミエール兄弟が発明したと、お互いに言い張ってるんですけども。
この映画というメディアが誕生すると、数年もしない内にストーリーがあるドラマ映画が生まれて、その次には長編映画というものが作られるようになります。
それが 『月世界旅行』 という、ジョルジュ・メリエスが作った世界初のSF映画でした。
その後、デヴィット・グリフィスというアメリカの監督が 『國民の創生』 や 『イントレランス』 という2時間を超える大作映画を、1915,16年に作ったことで、映画の歴史上、第1期の頂点を迎えることになります。
ちょうどその頃、1918年に 『スランバー山の幽霊』 という映画が作られました。
この映画自体は14分くらいの短い映画なんですよ。
ただ、この中で、もうすでにティラノサウルス対トリケラトプスの対決が描かれているんです。
作ったのは、ウィリス・オブライエンという監督さんです。
映画が誕生して、グリフィスが 『國民の創生』 とか 『イントレランス』 という大作映画を作った時代。
モノクロの、もちろん音も何もない字幕映画の時代なんですけど。
その時から、もうすでに恐竜映画というのが作られようとしていました。
ウィリス・オブライエンが作った代表作というのが 『キング・コング』 です。
この映画が作られたのは1933年なんですけども、その15年前の1918年に 『スランバー山の幽霊』 という映画をオブライエンは作っていたんですね。
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この『スランバー山の幽霊』の後にオブライエンが作ったのが、『ロスト・ワールド』という映画です。
『ロスト・ワールド』 は、イギリスのコナン・ドイルの小説を原作とした “チャレンジャー教授” シリーズの小説です。
「南米の奥地に内部がすり鉢のカルデラ火山になっている巨大な台地があり、そこに前世紀の恐竜が生き残っている」と聞きつけたチャレンジャー教授は、そこに行って恐竜を見つける。
それどころか、イギリスに連れ帰ってきてしまうんですけども。クライマックスでは、その恐竜がで逃げだして、ロンドンの街をブラキオサウルスが歩き回るというシーンが繰り広げられます。
まだモノクロで音もない映画だった時代に、ウィリス・オブライエンという人は、こういうのを作ったんですね。
その後に撮った 『キング・コング』 では、ついに、もう本当に、みんなが待ち望んでいた “キング・コング 対 ティラノサウルス” という戦いを表現します。
これについても “恐竜愛” というか、映画という媒体の表現が新しくなれば、その時点で最高の技術を使って恐竜を作りたがるんですよね。
この 『キング・コング』 というのは “トーキー” 、つまり、音がついている映画なんですけども。
これが1933年に作られたことで、音つきの状態でコング対恐竜が見れるようになりました。
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その後、アニメが誕生して、長編アニメが作られるようになり、アニメの中にも音が入れられるようになると、あっという間に、今度はウォルト・ディズニーが 『ファンタジア』 を作ります。
『ファンタジア』 って、案外、全部 見た人が少ないんですよね。
ミッキーマウスの魔法の箒のくだりだけを見て、20分以上ある恐竜のシーンとかを、ほとんど見てないんですよ。
これ、なかなかすごい映画なんですよ。
恐竜の描写も、当時としてはメチャクチャ正確です。
さっきも言ったように、映画というのはその時代の最新の学説を導入して作るものですから。
この映画における恐竜は “前世紀の悪魔” としては描かれずに、あくまでも “生物” として描かれます。
『ファンタジア』 の恐竜のパートというのは、一番最初、宇宙が映って、地球が誕生して、地球の中がマグマでグチャグチャになって、その中から大地が生まれ、造山活動が起こり、山が生まれて、火山が噴火して雨が降って、海になって、生命が誕生する。
その生命の誕生の中から、恐竜が生まれてきて、こんなふうに戦うんですけど。
最終的には、火山活動によって地球が砂漠化してしまって、恐竜たちが “死の行列” というのをやるんです。
「お互いに殺し合っていたはずの草食恐竜も肉食恐竜も、水を求めて、地平線まで列をなして焼け付くような砂漠を歩いて、一匹、また一匹と倒れるように死んでいって、そして今では化石しか残っていない」という。
そんな光景を『ファンタジア』という映画では音楽だけで表現しているんです。
今、見ても本当にすごいです。
この映画が作られたのは1940年なんですけども、1990年に 『ジュラシック・パーク』 が作られるまでは、この 『ファンタジア』 が恐竜映像の決定版と言っていいくらい、すごい映像だったんです。
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今、言ったように、映画に新しい技術が生まれるたびに、恐竜映画の傑作が生まれるようになりました。
長編ストーリーができるようになると、『スランバー山の幽霊』 が作られるようになる。
映画に音がつくようになると、『キング・コング』 が生まれる。
カラーのアニメが生まれて、それに音楽がつけられるようになると、セリフの一切ない前衛映画として 『ファンタジア』 というアニメが作られる。
そして、ついに1990年、『ジュラシック・パーク』 という、最新のコンピューターグラフィックで描かれた恐竜映画が作られる、と。
こういう流れになっているんですね。
この奇妙な一致というのが面白いんですよ。
今回 公開される最新作の 『ジュラシック・ワールドⅡ』 というのは、CGで表現していた恐竜を、あえてもう一度 “アニマトロニクス” というロボットに戻して撮影したそうなんですね。
今、ウォルト・ディズニー社が、ディズニーランドの中で、人間には危険過ぎる動き、たとえば綱渡りとか、そういうものをロボットにやらせるという技術を開発しているそうで、それがニュースになっているんですけども。
たぶん、これから先は 「ロボットを使った恐竜」 というのが、もう一度、流行るんじゃないかと思うんですよね。
今、日本各地でやっている 「実物大の着ぐるみの恐竜を動かす」 というイベントがあるじゃないですか。
こういうのが、これからのトレンドじゃないかなと思ってます。
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