ガイナックスで、岡田と赤井のコンビがパソゲーを作るエピソードは、『遺言』第四章でも書かれていますが、アスキーの連載『ま、金ならあるし』でも「お金」」という視点から描かれています。
マジメゲームとエロゲームしかないパソコンゲーム業界。
そこに『えっちゲーム』というソフト路線を盛り込もうと決意したガイナックス。
たった2人のゲーム事業部。
僕と赤井は2日で企画と仕様を決め、せっせと作り出した。
とにかく簡単にできるのが目的だ。
お約束の「クイズに答えたら女の子が脱いじゃう」でかまわない。
この単純なゲームのグラフィックやセンスをひたすら上げていけばいい。
僕の担当は「読むだけで面白いクイズ問題と解答」、赤井は「中学生男子なら漏らしそうなエッチな絵」だ。
プログラムには経験があるという知人を何も聞かず雇った。
僕にプログラマーの優劣を見分ける目がないんだから、それが精一杯だった。
「本当にこれで売れるのか?」
赤井はマウスで器用に乳首の色を塗りながら答えた。
「大丈夫ですよ、ことグラフィックに関してはパソゲー業界はオーストラリア大陸ですから」
「???」
赤井の説明によれば、こうだ。
オーストラリアの自然は、閉ざされた環境で独自の進化を遂げたので、有袋類が食物連鎖の頂点にいる。
有袋類最強の生物はフクロオオカミだ。
ところがこのフクロオオカミ、オオカミではなく小さめの犬にすぎない。
オーストラリアで1番強い生物は犬以下。
ライオンもトラもハイエナもいない。
だから犬が最強なのだ。
ユーラシア大陸から豹とかが渡れば、必ずそいつが最強の生物になれる。
「ここまでいいですね?」と赤井。
「ゲーム業界はオーストラリア大陸です。
プログラム好きの理系が集まってゲーム性を追求し、独自の進化をとげました。
その結果、グラフィックに関しては異常に弱い。
対してわがガイナックスはアニメ業界では最強ではありませんが、それなりの実力をもっています。
絵、特にパソコンユーザーが見たいと思っている、かわいい女の子に関しては、超一流のスタッフ揃い。
オーストラリアに進出すれば、彼の地のグラフィックはフクロオオカミ同然です。
我々の実力で絶対に勝てます」
なるほど!
思わず膝を打った。
僕たちの長所を生かしたゲームを作ればいいんだ!
舞い上る僕に赤井は釘をさす。
「ゆめゆめゲームを作ろうと思っちゃダメですよ。ゲームを作る実力は、今の僕たちには全然ない。
ゲームと呼べるものを作るのは、あと数年は無理です。
いまできるのはモニター画面にすごくかわいい女の子のアラレもない姿を見せて、それをユーザーにゲームだと信じ込ませることだけです」
僕は赤井の言葉をかみしめた。
「俺たちの作るゲームは偽物なの?」
「マジメゲームとしては偽物でしょう。でもえっちゲームとして超一流を狙いましょう。
卑下して自分たちを安売りしてはダメです」
「わかった。じゃあゲームの定価は8800円にしよう」
「……本気ですか?」
「本気だよ。一流メーカーはその値段でゲーム出してるよ。
僕たちもえっちゲームとしては超一流の内容を出すんだろ。
だから、お客さんが8800円払って買っても怒らない。
それどころか『さすがガイナックス』、『次回作も買うよ』と言ってくれるゲームを考えてよ。
どうせ作るんだったら、売り逃げじゃなくて値打ちのあるゲーム作ろうよ」
赤井は腕を組んで考え込んでしまった。
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