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岡田斗司夫の毎日ブロマガ「『ラピュタ』『ガンダム』を題材に“アニメの読み方”を教えます!<前編>」

2017/10/10 06:00 投稿

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岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2017/10/10
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今回の記事はニコ生ゼミ10/01(#198)よりハイライトでお送りします。


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「『ラピュタ』『ガンダム』を題材に“アニメの読み方”を教えます!<前編>」


 『天空の城ラピュタ』が、また金曜ロードショーで放送されましたよね。

 そんな中で、ムスカの「3分間待ってやる」っていうシーンが話題になっていました。


 「3分間待っている」っていうのは、ラピュタの内部を逃げるシータを、銃を持ったムスカが追いかけているところにパズーが来て、「捕まえようとするんだったら、石を捨てる!」という脅しを掛ける場面です。

 ここで、パズーが「シータと2人で話させてくれ!」と言うんですね。それに対して、ムスカは「3分間待ってやる」と言って、2人が相談することを許すんですよ。

 だけど、相談している間に、ムスカは手にしたリボルバー拳銃の薬莢をポンと抜いて、新たな弾を込めるんですね。


 僕がこれを映画館で見た時、「やっぱり、この辺の宮崎さんの演出は上手いよな」って思ったんですね。

 冷酷なムスカに「待ってやる」と言わせることで、一瞬、人間味があるように見せて、次の瞬間、拳銃を装填させることで、「あ、弾が切れてたんだ。こいつも実は打つ手なかったんだ」と見ている人にわからせる。

 つまり、この悪役を最後まで憎んでもらうために、「一瞬だけいい人に見せて、やっぱり違う」という描写を入れ込んでいる。

 「宮崎さんのこの演出、上手いよな」って思ってたんですけども。


 でも、これに対して、なんか「え? そうだったの?」とか、「いや、知らなかった!」とか言う人があまりにも多くてですね。

 「“実は”、コンテの段階で宮崎さんはそういった意図で書いているんです! これが証拠のコンテです!」っていう分かりきった解説に対して、「へー! ムスカって、あの時、弾がなかったのか! 驚き!」っていうツイートがどんどん流れて、それがネットニュースにもなっているんですね。

 ……なんかね、「お前らは、どんだけ読解力がないんだ!?」って言うかですね。

 「これが真相だ!」というのがニュースになっていること自体に、メチャクチャビックリしたんですけども(笑)。

・・・

 だけど、「まあ、それが普通の人だよな」っていうのが、ちょっと今回の話なんです。
 
 ここからがこの話の本番なんです。


 今回の一件でわかったことは、「宮崎さんがどんなに頑張ってアニメを作っても、それを読み取ってくれる人は、案外 少ない」ということなんですね。

 そこで、宮崎さんに限らず、アニメを作る人というのが、どんなに思いを込めて作っているのかっていうのを、ちょっと『機動戦士ガンダム』という作品をベースに解説してみたいな、と。


 これ、なぜこんなことをするのかというと。

 実は僕、DMMサロンの方で、毎週1回、「ガンダム講座」というのをやっているんですね。

 1年くらい前から、第1話の解説からはじめて、今、ようやっと12話の「ジオンの脅威」まで来たんです。

 その「ジオンの脅威」のAパートの解説だけで、また1時間も語ってしまって、来週からは、やっとその続きに入るんですけど(笑)。

 ただ、1時間も語ったんだけど、まだ語り足りないことがあるから、ちょっと追加で語りたい話というのを、ここでやってみようと思います。

・・・

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 (パネルを見せる)

 これは、第12話「ジオンの脅威」で、ランバ・ラルというおじさんとハモンさんという女の人が初登場するシーンです。

 彼らは、主人公のアムロたちの乗る“ホワイトベース”という戦艦を、敵討ちのために追撃しに来たんです。逃げているホワイトベースを追いかけています。


 そして、いざ攻撃を仕掛けるかという時のセリフです。

 ハモンという女の人の方が、「ガルマ様の仇を討つチャンスというわけですか?」と言うと、ラルは「そう急ぐな、ハモン。ヤツの現在地は我々の基地からかなりの距離だ。航続距離を計算に入れなければ」と言う。

 すると、ラルの部下のクランプという男が、「我らの乗るこの“ザンジバル”なら問題ありませんが、他のは“ただの大気圏突入カプセル”ですから」と言います。

 このクランプからの報告を受けている間に、ランバ・ラルは戦艦のブリッジ最前列の椅子の方へと、ゆっくりと歩いていき、座ります。

 ここからです。

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(パネルを見せる。該当シーン)

 ハモンに対して「そういうことだ」と言う時のラルは、顔の前で指をくんで座り、じっと正面を見据えています。

 ハモンさんはというと、ラルの座る椅子の後ろというポジションにいつの間にかゆっくりと近寄っていて、背もたれにそっと手をかけています。


 実は、アニメーターというのは、キャラクターに何か演技をつける時は、その動きを実際にやってみるものなんですよ。

 走るシーンを描く時には、実際に椅子から立ち上がって走る真似をするし、腕を振り上げるシーンを描く時は、どんなアニメーターでも、それは大塚康生さんですら、一度、自分で手を挙げてみてから描くものなんですね。

 「全て、一度、自分の肉体で再現してから描く」っていうのが、アニメーターの習性だと思ってください。

 なので、この指を顔の前で組んでいるランバ・ラルも、彼の座るイスの背もたれに手を乗せるハモンというのも、一度、自分でこの動きをやってから描いてる。

 つまり、全ての演技、全ての動きには、ちゃんと意味があるということなんです。

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 (新たなパネルを見せる)

 「そういうことだ」と言うラルに対して、ハモンは問いかけます。「では、このまま見過ごすおつもりですか?」と。

 ここで注目すべきは“ランバ・ラルの目線の変化”ですね。

 それまで正面を向いていた男が、ハモンに何か言われた瞬間に、振返らずに目線を送るだけの表情で答えている。

 ここら辺が、安彦良和さんの演技の付け方の上手いところ。これだけの演技で、ちゃんと話を聞いている感じがするんですね。


 すると、ラルは「フッフッフッ。私の任務は“ガルマ様の仇討ち”だ。ドズル中将からの直々の命令を、なんでやり過ごすものかよ」って言うんですけども。

 「フッフッフッ」と笑う時には目を閉じる。ハモンの方に送っていた目線を、前に戻すんじゃなくて、目を閉じる。
 
 指は組んだままですね。

 そして、「ドズル中将からの直々の命令を~」というところで、もう一度、目を開ける。

 すると、ここでハモンが、この背もたれに置いていた手を、ラルの肩に動かして、「でも、只今は大気圏に突入している途中です。ご無理は……」と声を掛ける。

 それに対して、ランバ・ラルは返事をするんですが、ここでは、さっきのように横目で見るだけではなく、首を少しだけ曲げて、はっきりとハモンの方を見て、こう言います。

 「しかし、手出しをせずに行き過ぎる男なぞ、お前は嫌いなはずだったな」と。そして、肩にかけられた手をそっと握るんですね。

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 ……この手の握り方がエロいとも言えるんですけども(笑)。

 この連続した動き、ぜひみなさんも自分でやってみてください。

 この時、ランバ・ラルという男が何を考えていて、ハモンはなんでこんな行動をしたのかわかるはずです。

・・・

 この時のランバ・ラルというのは、セリフだけを見ていると、まるで余裕があるかのように見えるんですけども、実はメチャクチャ追い詰められているんです。
 
 新型の宇宙戦艦を与えられて、仇討ちとしてホワイトベースの討伐を命じられている。

 これは絶対に失敗できない。
 しかし、航続距離の問題もあるから、達成出来るかどうかはわからない。
 
 なので、緊張して指を組んでいるんですね。


 人間が顔の前で指を組んでいる時というのは、絶対に緊張している時なんですよ。

 作画をしている人間は、実際にこの動きをしているはずだから、このシーンを描いている時にも「この人間は緊張している」というメッセージを込めているはずなんです。

 じゃあ、その緊張をいつ解くのかというと、自分の女が心配そうに肩に手を掛けた時に、「大丈夫だ」と言って握り返してあげる時。

 ここで初めて、こいつの緊張というのがとける。

 このハモンという女が何のためにいるのかというと、余裕の表情の裏で張り詰めているランバ・ラルの緊張をほぐすために、いろいろと話しかけているんですね。

 そして、ランバ・ラルは、彼女に対して「大丈夫だ」と答えることによって、ちょっと心が楽になっている。


 これだけの演技というのを、作画している人間は、絶対に意識しながら描いているんですね。
 さっきも言ったように、描く前にまず“肉体化”してますから。
 
 この肉体化まで勘定に入れて読み解くと、顔の前で指を組んでいた後で、それをといて、それまで目線しか動かさずに話していたところから振返って「お前はそんな男は嫌いだろう?」と言うところで、ようやっと心が穏やかになっているということがわかる。


 ハモンというのは、そんな女なんです。
 ランバ・ラルっていうのはこんな男なんです。

 でも、この肉体化というのを理解しないまま見ていると、「さすがランバ・ラル! 渋い! プロフェッショナル! カッコいい!」っていうふうに見えちゃうし、「ハモンさん! 内縁の妻! 色っぽい!」っていうレベルで終わっちゃうんですよ。

 だけど、一度アニメーターの目で、こういうシーンを見て、自分でその演技をやってみれば、「なぜ、このシーンをわざわざ秒数を使ってまで入れたのか?」っていうのがわかるんですよね。



 次号に続く

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