シン・ゴジラを必ず見なければいけない理由の二つ目です。
それは邦画の持つ“ダメ演技の壁”を破った事。
邦画には“ダメ演技の壁”というのがあって、俳優さんが張りきるほど、映画がダメになっちゃうんです。
伊丹十三さんが生きてる頃、「サラリーマン映画が撮れない」と言ってました。
『マルサの女』は撮れる。
『スーパーの女』は撮れる。
そういう特殊なジャンルは撮れるんだけど、サラリーマンの映画は撮れない。
理由は、役者の想像力が貧困だから。
役者がサラリーマンを模倣できないんですね。
サラリーマンっていうのは、会議の時に、あからさまに退屈そうなヤツはいないんです。
あからさまに企画を通そうとしているようなヤツもいない。
みんな腹の中でいろいろと考えてる。
「ここで発言をしても、しょうがないな」という時にも、あきらめの顔を見せない。
無表情じゃなくて、まわりに合わせることが出来る。
そういう“含みがある顔”っていうのを、役者は想像できないから、サラリーマンの演技が出来ない。
だけど、感情が昂ぶって叫ぶクリエータータイプの演技は、役者も表現が出来るんですよ。
なので、山崎監督の『宇宙戦艦ヤマト』では、ミサイルが接近する時にブリッジの中が、叫び声でいっぱいになる。
「ミサイル、接近します!」
「あと5秒で接近!」
あと5秒でミサイルが当たる事を、大きい声で言って、どうなるんだよ(笑)
でも役者さんは、緊迫感を自分の演技で出そうとしちゃう。
役者のエゴですね。
本来ならばピンと張り詰めた雰囲気かもしれないシーン。
それを役者のエゴと善意で、ダメ演技がどんどん重なっていく。
これを僕は“ダメ演技の壁”と呼んでいるんです。
今回のシン・ゴジラは、登場人物はほぼ全員、政治家か官僚なんです。
なので全員、早口で熟語ばっかり しゃべる。
これは庵野監督と樋口監督が、官僚とか政治家を取材したから。
政治家や官僚は、全員が すごく難しい四文字熟語を使って、すごい早さで しゃべってたの。
それで庵野監督は、俳優さんに「熟語を早口で しゃべってくれ」と言ったの。
主演の俳優さんに「もし ゆっくりしゃべったら、そのシーンはカットしますよ」と脅したそうなんですね。
すると、全員の演技のレベルは下手なんですけども、みんな上手く見えるんですね。
早口で、やりとりをしているだけだから。
官僚も表情が無いので、無表情なのも気にならない。
変に感情を入れないから、含みがあるようにも見える。
これは演出の勝利です。
実相寺昭雄が、役者の演技が下手でセットがせこいから、魚眼レンズでドーンと寄って撮ろうとしたのと同じ。
「役者さんのレベルがこれぐらいなんだったら、ぜんぶ早口でしゃべらせて、情報量を上げてしまおう」
そんな演出の勝利なんです。
ここで唯一、損をしているのが 石原さとみ です。
石原さとみ も、もちろん下手です。
他の役者と同じです。
だけど、石原さとみ だけ感情を入れた普通の人間として しゃべってるんです。
その結果、官僚や政治家は下手に見えないんだけど、石原さとみ だけ 下手に見えるというハンデがある(笑)
みんなが「石原さとみ は、ダメだ!」と言うのは分かるんです。
僕も 石原さとみ は、ダメだと思います。
でも、あの映画に出てるヤツはほぼ全員ダメなんですよ。
ただ、それを隠せる演出をしてたんです。
石原さとみはキャラクターの用法上、感情を出さなきゃいけない しゃべり をしているので、下手さがバレてしまった。
だけども、他の人は、みんなバレていないという。
“ダメ演技の壁”を破る為には、こんな方法があったんだと。
僕には、それが面白かったです。
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いがでしたか?
次週の8月7日(日)20時からのニコ生は、原爆念日の翌日ということもあり
一般放送
「シンゴジラ〜誰も教えてくれない究極の質問10個に答えます」
限定放送
「シンゴジラのタブーと闇〜庵野秀明の恐るべき広島原爆投下肯定論」
の予定です。
お楽しみに!
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