「小飼弾の論弾」で進行を務める、編集者の山路達也です。
無料公開部分の生配信およびアーカイブ公開はニコ生・ニコ動のほか、YouTube Liveでも行っておりますので、よろしければこちらもぜひチャンネル登録をお願いいたします!
今回は、2019年4月16日(火)配信の「小飼弾の論弾、対談:ライフハッカー堀正岳さんが語る、日本の研究者残酷物語」(その1)をお届けします。
次回は、2019年6月4日(火)20:00の配信です。
お楽しみに!
2019/04/16配信のハイライト(その2)
- 揺れない耐氷船「みらい」の船酔い
- 北極航路と「砕氷船のない日本」
- 北極と南極の研究はけっこう被らない
- 日本の研究環境の変化
揺れない耐氷船「みらい」の船酔い
コメント「北極点行ったことあるのかな?」
堀:北極点までは行ったことがないですが、海洋研究開発機構のほうで船に一度乗せていただいて、北緯71度くらいまで。そこくらいまでは行ったことがあります。
小飼:その船がすごい面白い、超いわくつきの。
堀:いわくつきのね。JAMSTECで北極に行くときの船は、文科省の船で行くんですけど、その名前が「しらせ」とかは自衛隊の管轄ですので、ロシアとアメリカの国境を渡ることが出来ないので、文科省の船で行くんですけど、それが「みらい」という名前の船で、ただ「旧むつ」なんですよね。原子力船むつ(笑)
小飼:そう、原子力船から原子炉を抜いたやつなんですよね。
堀:抜いたやつ、そう。原子力船むつを退役した後で、船を真っ二つに割って、原子炉を抜いて、もう1回くっつけ直して、それでエンジンで直して、いまだにこれたぶん作業した人のシャレだと思うんですけど、「むつ」って下に残っているのが見えるように上から塗って「みらい」って書いてあるので、近づいてみるとね「むつ」ってまだ見えるんですよ。微かに。これが味があるなと思って。
山路:すごいな。この北極に行くようなそういう船って、もう氷のとこガンガン、ぶち当てたりとかしてるんですか?
堀:残念ながらじつはですね、日本は今、北極に行ける砕氷船は持っていないんですよね。これはけっこう難しい話で。
小飼:「しらせ」だけ。
堀:「しらせ」は砕氷船なんですけど、自衛隊のほうの管轄なので、北極に行ける船は「みらい」だけですね。「みらい」は耐氷船といって、前のところの鉄板がちょっと。
小飼:砕氷船ではない。
堀:ではない。若干鉄板が分厚くしてあって、多少の氷にぶつかっても沈みはしないんですけど、じゃあ氷の中にガンガン入っていけるかっていうと、そうではないという、そういう船になっています。ちょっと面白い船で(笑)、くっつけたら空洞、空くじゃないですか、原子炉の分だけ。
それでそれをじゃあこれ、減揺装置入れられるねっていうことで、たとえばこっちに揺れたらこっちに振り子がふれて、こっちに揺れたらこっちに振り子がふれるというような、揺れを相殺するような、揺れを減らす装置、減揺装置という。
小飼:原子炉を抜いて、揺れ止めを入れたと。
堀:はい。それを入れたお蔭でだいぶ揺れが収まるので、あろうことか船の上にですね、揺れては絶対にいけないドップラーレーダーを積んでるんですよ。上にすごいレドームがあって、ドップラーレーダーを積んで、船の上から雲の3次元構造を見たり出来る。
山路:めちゃめちゃハイテク?
堀:ハイテクなだけじゃなくて、その細かい揺れもちゃんと相殺するようにデータ解析してやってますので、めちゃくちゃ派手ですね(笑)。
山路:乗組員はけっこう酔う度合いが、普通の船よりはだいぶ少なかったりするんですかね?
堀:それがおかしくてですね、普通の船だったら波に対してこういうふうに揺れてくれるので、だいたい船員さんはこれにはもう慣れてるんですよ。でも減揺装置を入れると、揺れを相殺するので、こう、こんな感じでちょっとブレるんですよね。
小飼:揺れ方が違うんですね。
堀:揺れ方が変になるので(笑)、普通の船で酔わない百戦錬磨の船員さん達が「この船、酔うんだよね」「この船、気持ち悪いんだよね」
小飼:アハハ。なんか揺れ止めが入っているのに、揺れ止めがあるお蔭で、船酔いすると。
堀:お蔭で「ちょっと予想に反する揺れ方するんだよねー」みたいに冗談っぽく。
山路:海の男でないと、逆に優しかったりする?
小飼:素人さんには優しいの。
堀:でもみんな慣れますよ、3日もすれば。
山路:ああ、もう吐くだけ吐いたらみたいな(笑)
堀:いやまあ吐かないくらいですね。だいたいそんなに南緯70度の吠える海を行くわけじゃないので、まあたいてい低気圧の中に入っている時の揺れは、アネロンという薬でも飲んでおけば、だいたい大丈夫なんで、何とかなりますよ。
山路:その辺の光景ってどんな感じなんですか。行かれたところの、かなり70数度のところって、相当高緯度。
堀:ものすごい緯度高いんですけど。基本的にただ曇っていて、ただ灰色の海が広がってるだけで、時々カモメが飛んでるので、こうね、衛星通信介してLINEが出来たので、僕乗った時にも、LINEでこう今こんな状態ですって写真送るんですよ。そうしたら友人がみんな「はいはい。わかったわかった。お前は北極行ってるつもりだろうけどな。本当は日本海にいるんだろ」って。
小飼:アハハ。『カプリコン・1』っていう。
堀:「わかったわかった」みたいな感じで「本当に北緯71度なんだから!」って言うんですけど、信じてもらえない。基本的にあんまり北極感はないですね。
小飼:北極感(笑)
山路:あんまりエキサイティングな眺めではないんですね。
堀:陸が見えてきた瞬間、ようやく北極感が出てくるんですよ。一番感動したのが、ベーリング海峡って地図、Googleマップでぜひ開いてみて下さい。ベーリング海峡って何もない海かと思ったら、ズームインすると双子の島があるんですよ。
山路:双子の島?
堀:双子の島が、2つ小さい島があって、なんという島だっけな?
小飼:片方が米国で、片方がロシアみたいな。
堀:そうなんですよ。片方が米国、片方ロシアで、真ん中に日付変更線が入っているっていう、そういう島があって、大小の2つの島(ビッグorリトルディオミードもしくはダイオミード)があって、それを見た時には、僕は本当にウンベルト・エーコの言っていた前日島を見ているんだと。こっち側が今日で、こちら側が昨日なんだとかいうふうに見えて、ああ前日島が見える。
小飼:なるほどね。
堀:っていうふうに、ちょっとこう感動して見てました。
山路:普通の人には感動のポイントが伝わりにくいかもしれないですよね(笑)
堀:でもやっぱり沿岸とかそういうのアラスカっぽくて、極域の沿岸なんだなっていうのが、わかりますね。
山路:そこでしばらく滞在という、
堀:そうですね。我々船で北極に行く時にはだいたい40日間、46日間くらい、行ってるんですけども、実際に北極海の中で観測をすることができるのは、本当に2、3週間あればいいとこですね。氷がなくなって、さっきも申し上げた通り、氷にぶつかっちゃいけないので、氷がこう溶けて消えていくのに合わせてスーッと入っていって、戻ってきたら逃げろーって感じで逃げていく状態なので。そこを狙って行く。だいたい氷の溶け残りがあって、そいつらを避けなきゃいけないので、それに合わせて目的を必死で走り回ってやる。
小飼:地表というか海氷は大変だ。で、思い出したんですけれども、北極に行くんであれば少なくとも、もう1つ手段がありますよね。
堀:もう1つ手段?
小飼:原潜に乗る。
堀:原潜に乗る、いいですね。
小飼:ないですか?
堀:僕らの使っているデータにもありますよ。原潜から取れたデータみたいなので、そいつしか氷の分厚さがないんですよね。昔の冷戦時代の頃の氷の分厚さのデータって、だいたい原子力潜からとったデータが本当に点のようにあるだけで、最近のやつと比較してみるとぜんぜん薄くなっているみたいな、そういうデータはあります。原子力潜乗ってみたいですね。いや乗りたくないか、あんな狭いのね。嫌ですね。あとは氷が張っている時だったらば、普通に飛行機で入れます。一般の人が北極に行くの1番楽な方法は、たぶん400万円あれば、ロシアがやっている北極点のアイスキャンプが、だいたい5月くらいかな、までやっているので、それで飛行機で入って行くと、ちゃんと宿泊施設もあって。
山路:え? そう?
堀:北極点で、普通にアイスキャンプで、観光施設ですから。
小飼:空からというのもカウントするのであれば、もう普通に日本からヨーロッパに行く時には。
堀:近いですね。僕は日本からヨーロッパ便の時には必ず窓側の席に行って、目の前には地図を出して。
小飼:時々オーロラ見えますよね。
堀:僕、ずーっと窓開けっ放しですよ。もうすごい迷惑ですけど、窓開けっ放しで、写真撮りまくりの、こっちこうやって、今ここ緯度だで、ここにこういう地表面があって、ああこの氷いいねみたいな感じで、ほんとに迷惑な客ですけどね。隣が開いてたら隣の地図まで出しちゃって、はい地表面の画像と、はいこちら地図みたいな感じで。それを10時間やってますから。
山路:寝ないで(笑)
堀:寝ないでずーっと。もう本当に。
山路:ある意味、研究の一環みたいな感じなわけ。
堀:シベリアの通り方とか見えているだけでも本当に楽しいですので、いいです。
北極航路と「砕氷船のない日本」
山路:今その北極圏って、そういう北極航路とか、通るんじゃないかみたいな話があって、そこのところと堀さんの研究っていうのは、どういうふうに繋がってきたりするんですか?
堀:直接僕は北極航路に関する研究はやっていないんですけれども、今までやってきた共同研究とかのなかには、たとえばバレンツ海と言われる、ヨーロッパ側ですね、ノルウェーのあたりのスカンジナビア半島の北側の海が開くと、こちら側に寒気が降りてきやすくなるというような、そういう研究もやっていて、あそこの氷が開くと、どうやってそれが維持されているのかっていうそういう研究もされているんですけど。
それが繋がっていくとですね、沿岸に沿って、どれだけ船が通りやすくなるのかっていう、そういう研究にも繋がっているので、じつは今極地研究所のほうで雇われているプロジェクトは、そちらの北極航路がどう開くのか、どのように維持されるのか、というそういう基礎研究をやっているところのプロジェクトの端っこのほうに私は在籍しております。
山路:しかし、北極航路って将来的に、なんというか金の相当お金の絡んできそうな。
堀:絡みそうですね。スエズとか喜望峰まわりで行くよりは、2割位距離が短くなりますから、ヨーロッパの、特に北側のほうとかに物を輸送するに当たっては、ものすごく重要な航路になりますね。あの辺りってぜんぜん人がいないのかと思いきや、その「みらい」が北極に行く時に寄港する場所として、アンカレッジからプロペラ機で3時間くらい行ったところにウナラスカ島という、日本が真珠湾以外で爆撃した唯一の島があるんですけど、そこに港があって寄港するんですけど、何もない辺鄙な島なのかなと思ったら、北太平洋一のコンテナ置き場なんですよ。
ものすごい数のコンテナ船があって、コンテナ集積になってて、こんな僻地にこんなコンテナがなんであるの? っていったら、もう本当にあの辺り、物流の一要素になっているんですよね。もし北極航路が開いたならば、ウナラスカ島はもう本当にコンテナだらけ、たぶん国際的なポートになって、そこをたぶん基地にして、欧州に向けて物流がもうすごいことになるんじゃないのかなという、けっこうそれ見てみたいなという気もしないでもないですね。温暖化は困りますけど、でも、あそこが1つの開けていくのは見てて面白いんじゃないかなと思います。
山路:なんかそこに日本というのは、食い込んでいる感じなんですか? 今。
堀:ええと、いちおう。
山路:そういう北極航路利権みたいな。
堀:いちおう北極評議会というのがありまして、そこのオブザーバー国というのに、日本はなっています。北極評議会の国は基本的に北極圏に接している国しかなれないので、アメリカとかノルウェー、ロシア、カナダといった国しか入れないんですけど、いちおうそのステークホルダーの一部ということで、日本、韓国、中国もオブザーバー国として入ってます。が!
山路:が!?
コメント
コメントを書く