「小飼弾の論弾」で進行を務める、編集者の山路達也です。 9月26日(月)に行われた、SF作家 山本弘さんとの対談を3回に分けてお届けします。動画も合わせてぜひご覧ください。

次回のニコ生配信は、10月17日(月)20:00、「お金特集:お金で苦労しないためにはどうすればいい?」を予定しています。

■2016/09/26配信のハイライト(その2)

  • 別々の短編をつないで、壮大な未来図を描いた『アイの物語』
  • 人間はダメな生物だ
  • 創作の秘訣は、「穴を埋めると宝が見つかる」
  • 読者の先入観を逆手にとって、キャラクターを生み出す
  • 疑似科学、疑似歴史を斬る!

別々の短編をつないで、壮大な未来図を描いた『アイの物語』

小飼:その意味でいうと、現在の人工知能研究はまだ機械に自我を持たせるところまで行っていないですよね。今の人工知能は人間の言うことを聞きすぎる。 「碁のチャンピオンになれ!」と言われたら、「碁なんかより将棋を指したい!」と答えるロボットはまだできない。 どうしてできないのか、その理由はすごく単純。「それで儲かるの?」という問いに研究者が答えられないから。これはけっこう重要なことですよ。 単純に能力だけ見たら、すでに現在のコンピュータでも我々より高い知能を持ちえます。ただ、その能力はあくまで我々のお金儲けのために使われているんですよ。あまりお金が儲からない分野というのは、なかなか進歩しない。 「ロボットに自我を持たせる?それは面白い。それで、なんぼになるんや?」って言われた時に、研究者は黙ってしまう。でも、碁に勝つということに対してなら、もうお金を出るようになってきた。 意思らしきものを備えた最初の人工知能は、どこかの寂しいお金持ちの話し相手として作られるのかもしれません。

山本:実は、それはもうすでに『アイの物語』で書いていまして。

小飼:ですよね。

山本:『アイの物語』は、人工知能に自我が芽生えて、人間からドンドン独立して行く話です。そこで書いているのは、「夢をかなえるのには、夢だけじゃ足りない」ということ。ちゃんとお金とか、人間の強い動機がないと、それは実現しないと思いますから。短編の1つ、『詩音が来た日』では老人介護用ロボットを取り上げましたが、これは介護がお金になるから。 仮想空間上でロボットを戦わせて、ファイトマネーを手に入れるというゲームも出てきます。このバーチャルロボ・バトルっていうのは、人間のマスターが仮想空間でロボットを組み立てて、それを戦わせる。ロボットは自分の意思で戦い、人間はそれを観戦する。実現したら絶対にウケると思うんですよ。

―――間違いないですね。にしても、この『アイの物語』は1つ1つの作品ごとにまったく違うアイデアや設定が盛り込まれているのに、それが大きなテーマにまとまっていく構成が本当にすごいです。

山本:元々は別々の話だったんですよ。雑誌でバラバラに発表した話をまとめました。

小飼:初めから、まとめるべく書かれたんですか?

山本:いやいや、違いますよ(笑)。

小飼:えぇーっ!?

―――マジですか!?

山本:最初はバラバラです。

小飼:じゃあ繋げたのは、後付だったんですか?

山本:そうそう。全部、後付ですよ。

小飼:すごいことを聞いてしまった! すごい誕生秘話を聞いてしまった!

山本:最初の「宇宙をぼくの手の上に」から「ときめきの仮想空間(ヴァーチャル・スペース)」、「ミラーガール」、「ブラックホール・ダイバー」、この辺はもう本当にバラバラに書いています。短編集にまとめる時に、「うまくまとめられないかな?」と考えていて、思いついたのが、ブラッドベリの『火星年代記』。あれも、ブラッドベリがいろんなSF雑誌に書いた短編を、まとめて並び替えて、1本の話にしたものです。

小飼:『火星年代記』方式だったんだ。

山本:で、『火星年代記』方式をやろうと思ったんですよ。ところが、どうしても1本の歴史に並ばないんですよ。登場するテクノロジーが矛盾するので。それで「どうしようかな」って思って悩んだ末に……。

小飼:お話の中のお話にした?

山本:そう。『火星年代記』じゃなくて『刺青の男』にすればいいんだと。 『刺青の男』は、全身に刺青をした男がいて、その刺青を見ているといろんな話が浮かんでくるという構成です。さすがに刺青を持った男じゃダメだから、美少女アンドロイドにしようと(笑)。最後に2本の書下ろし作品を加えてまとめました。

小飼:フィクション内フィクションという継ぎ手があるとは言っても、こんなにキレイにつながるんだ。

山本:自分でもこれは奇跡のようなものだと思ってます。

人間はダメな生物だ

小飼:『アイの物語』は、「物語とは、何なのか?」がテーマでもあります。物語そのものの物語でもあるんですよね。

山本:人間が書く物語の偉大さを、訴えたかったんです。収録している物語に共通しているテーマは、「人間って実はダメな生物だ」ということ。人間とは、知的生物だと思い込んでいるだけで、本当の知的生物じゃないと。『アイの物語』の作中では、スペックが足りなかったという表現を使っています。

小飼:それは、すごく感じます。かなり痛いのが、神経伝達に電気信号じゃなくて電位差を使っているということ。このせいで、神経の伝達速度がムチャクチャ遅くなっている。

―――しかし、すごく高速に思考できれば、知的になれるものなんでしょうか?

山本:それは難しいですね。この番組の前に、日本未来学会のシンポジウムでそんな話をしてきたんですけど。僕は、機械は人間よりも正しく論理的に考えるだろうと思っているんですよ。人間は論理的には考えられないから、戦争が起こったり、差別があったり、迫害があったり、虐殺があったりする。どう考えても、それは論理的じゃない。 論理的に考えられないというのは、人間の脳が本質的に持っている欠陥でしょう。

小飼:そもそも我々の体の進化は、あまり合理的ではありません。生物学を学ぶと、いかに我々の体というのが、行き当たりばったりな設計になっているのかがよくわかります。

山本:本当にひどいものです(笑)。

小飼:さっき言った「神経伝達に電気信号でなくて、電位差を使っている」というのもそうなんですけど、それ以外にも盲点の問題があります。人の眼には盲点がかならず存在します。なぜかといえば、視細胞の上を、信号を流す神経が通っているから。神経の集まっている部分が盲点になっているわけです。 iPhoneのカメラなら、信号を通す線がちゃんとセンサーの裏を通っていますから盲点はありません。これが、まともなエンジニアが考える、まともな設計という物なんですけれども、人間の眼はまともでない設計がずっとまかり通ってきちゃった。

―――仮に造物主がいたら、相当アホなヤツだなと。

山本:アホです(笑)。

小飼:スチャラカですね。「死ななきゃいいじゃん。子孫を残せりゃいいじゃん」くらいのノリで設計しているとしか思えない。

―――それを信仰している人達もいると考えると何だか……(笑)。

小飼:あなたが痔になるのも、進化のおかげですからね。

創作の秘訣は、「穴を埋めると宝が見つかる」

―――山本先生の作品はいずれも緻密な設定がなされていますが、どうやってそういう物語が生まれるのでしょう?

山本:僕の個人的な信念なんだけども、小説を書くための設定を作る時、穴を埋めると宝が見つかります。

―――穴を埋めると宝が見つかる?