「小飼弾の論弾」で進行を務める、編集者の山路達也です。 9月26日(月)に行われた、SF作家 山本弘さんとの対談を3回に分けてお届けします。動画も合わせてぜひご覧ください。
次回のニコ生配信は、11月7日(月)20:00。前半はニコ生公式放送「ニコ論壇時評」として、旬のニュースを斬っていきます。
■2016/09/26配信のハイライト(その3)
- タコ型宇宙人をリアルに描いた『UFOはもう来ない』
- ググる人は少数派?
- 粋な江戸っ子は虐殺された?! トンデモ歴史観の江戸しぐさ
- 悪質なデマを笑い話で済ませてはいけない
- 日本がどんどん安全になっていることを信じたくない人たち
- 相対性理論は間違っている!?
- 本を知る楽しみを知る本『BISビブリオバトル部』
タコ型宇宙人をリアルに描いた『UFOはもう来ない』
山本:もう1回宣伝させてください。PHP文庫から出した『UFOはもう来ない』は、現代の日本を舞台にした、宇宙人とのコンタクトを描いた話です。この宇宙人はずっとUFOに乗って地球を監視しているんですが、何とタコ型です(笑)。
小飼:ちゃんとタコなんだ。
山本:タコって、実はすごく頭がいいんですよ。
小飼:ですよね。海の霊長とは、よく言ったものです。
山本:だって人間以外でガラス瓶の蓋をねじって開けられるのは、タコとチンパンジーだけと言われている。
小飼:あと、眼もまっとうな設計です。ただ、哀れなことにタコは寿命が短い。
山本:だからタコが進化して、知的生物になった星もあっていいと思ったんです。この小説の最後で、主人公たちは、宇宙人から銀河系に存在するいろんな知的生物の姿を見せられるんですよ。その中に、哺乳動物はあんまりいない。爬虫類だとか、軟体動物だとかがいろいろといて、さらに哺乳類は毛むくじゃらなヤツの方が多いんです。なんでかというと、人間はたまたま進化の途中で毛を失ったけど、それは別に知性と関係ないから。
小飼:そう。実はまだ理由がよくわかっていないという。
山本:わかってない。だから宇宙には、毛むくじゃらのまま知性を持った哺乳動物がたくさんいるんじゃないかな。
―――最近だと「毛がないと放熱効果が良くて、長距離を走れた」という説もありますね。
山本:でも、知能とあまり関係ない(笑)。
―――確かに。
山本:この中では「二足歩行は、決して知性の必要条件ではない」とも書きました。脚の数が4本でも6本でも、脳を支えられる構造だったら、何でもありだと。 あと、SFドラマでは知的生物同士が音声でコミュニケートしてるじゃないですか。実は人間の声帯の構造ってすごく特殊で、こんな複雑な声を出せる動物って少ないんですよ。
小飼:なんでネアンデルタール人ではなくて、今のホモ・サピエンスが唯一のヒト科の動物になったか。ネアンデルタール人はあまり発声は上手じゃなかったらしいですね。脳はあっちのほうが大きいんですよ。そして、あっちの方が筋肉量があります。マッチョでオツムも切れたはずなのに、ドモリだったのかなぁ。
―――複雑なコミュニケーションができなくて、たとえば集団行動をやりにくかったと。
小飼:ただし、ホモ・サピエンスとネアンデルタール人が混血していることはわかっています。だからネアンデルタール人は絶滅したというより、ホモ・サピエンスの中に溶けちゃったんじゃないかという意見もあります。
山本:そういう音声によるコミュニケーションは、宇宙ではそんなに一般的ではないと考察しています。それよりも、手話のほうが一般的なんじゃないか。
小飼:それは感じます。
山本:だって知的生物は、必ず手に類する器官を持っているはずなんで。手を動かしてコミュニケートする方が、宇宙では一般的なんじゃないかな。
小飼:僕はどんなふうに知的生命体が発生しても、ある時点で電子化しちゃうんじゃないかなと思っています。その時に使われる、オペコード(コンピュータに対する命令)の体系が銀河標準語なんじゃないか。だから、そもそも生身があるうちは野生扱い。ちゃんと電子化できて、銀河知的生命体連合に加盟できるとか。 二進法で電子化するのはシリコンベースの半導体でなくともいいわけだから、宇宙のどこでもできるはず。イーガンの『ディアスポラ』で描かれたように、「肉滅」という形になるかどうかまではわからないですけども。 生身のままの宇宙人がいっぱい出てくるのは、僕にとっては魅力的ですが、「はたして宇宙はそれを許すほど大らかだろうか」とも思います。
山本:「どうしても肉体を捨てたくない」という、一種の宗教的信念を持っている一族だけが、まだ繁栄しているのかもしれません。
小飼:ガンマ線バーストのように、何らかの形で肉体の制約というのを維持できなくなる可能性というのは、別に地球に限らずどこにでもあるわけで。
―――『UFOはもう来ない』のタコ型宇宙人というのは、言ってみたら既存の宇宙円盤モノとか、UFOの設定の穴をふさいでるわけですね。それを無理やり合理的につないで、作っていった感じなんですかね。
山本:そうですね。これまでの「UFOに乗った」という話の矛盾点とか、おかしい所を、片っ端から直していった。たとえば、UFOの天井が低いとかね。この本に出てくるスターファインダーって種族は、人間よりも背が低いから、天井が低いんです。これまでのSFドラマでは、天井の低いUFOなんて出てきてないんですよ(笑)。
―――何となく、UFOの中は広いみたいなイメージがありますよね。
山本:あるいは、トイレはどうしているとかね。
小飼:フィクションに出てくる宇宙人のみなさんは、変に人類に合わせているって感じがしますよね。 その意味では『銀河ヒッチハイク・ガイド』の「高速道路を引くのに邪魔だから地球をつぶします」という方が、リアリティがあります。宇宙人に滅ぼされるんだとしたら、そんな感じだろうと。そんな真面目に戦争なんかしないでしょう。あまりに技術レベルが違いすぎて、宇宙人にしてみれば、うっかり高速道路を引いちゃって「あ、ごめん」という感覚。
山本:あと僕は、ストルガツキーの『ストーカー』が好きです。 かつて異星人がやってきた場所に、異星人の遺物を探しに行くという話なんだけど、異星人自体が出て来ないし、どういう連中なのかわからない。落ちていた異星人のテクノロジーが、まったく理解できない。あの小説は、本当にすごいですよ。まったく人間の理解を超えたもの。人間とまったくかけ離れていて、レベルが違い過ぎて理解できない。この本の原題は『路傍のピクニック』といいます。たとえて言うならば、どこかの家族がピクニックにやって来て、食べ残しを捨てていって、それをアリが漁っているようなものだと。アリと人間くらい、レベルの差があるんです。
小飼:逆に、種のレベルで見たら、人間なんてアリの足元にもまったく及ばないですね。バイオマスの差で10万倍から100万倍あると言われていますから、地球はアリの惑星といってもいい。光合成をしない従属栄養生物で、地上にいる生物のうち、重さでいえば2割くらいはアリなんじゃないかな。それくらい、成功しています。
山本:細菌とかも、本当に多い。
ググる人は少数派?
―――それにしても、山本先生は、トンデモなどあらゆるところから創作のネタを引っ張ってきますね。
山本:元々は超常現象とかUFOが好きで色々な本を集めていましたから。それが高じて、仲間と「と学会」を作ったという経緯もあるんですけども。 ちょっと、この機会に言わせてください。 僕は「グループSNEのゲームデザイナー、山本弘」であり、「SF作家の山本弘」であり、もう辞めましたが「と学会の山本弘」でもあるんですが、どうも読者層が重なっていないらしいんですよ。 数年前、角川のパーティーに行った時、知らない人から声をかけられて「あ、山本弘先生ですか。『ラプラスの魔』を読みました。『ソードワールドRPG』のリプレイとかも読んでいましたよ」と声を掛けられました。そう言われたら嬉しいですから、「ありがとうございます」と応えました。そこまでは良かったんですが、「ところで最近は何も書かれていないんですか?」ってその方が言うんです(笑)。
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