小学四年生の頃、人生で唯一の転校を経験した。その頃、どういう経緯だったかは忘れたけど「前田君は頑張り屋さんだね」と担任のうら若き女性の先生に言われた。

そうか、僕は頑張り屋さんなのか…と(まだ)純真だった僕は思ったのだけど(そうして僕は本当は頑張り屋じゃなくて漫画家になりたいですと思ったけど)、まあ何となく褒め方向の言葉であるというニュアンスは感じ取ったので悪い気はしなかった。

しかし頑張り屋さんというのは便利な言葉ですね。結果じゃなくてプロセスを評価しているので、教育には悪くないと思う。じゃ「恥ずかしがり屋さん」とか「照れ屋さん」はどうなんだと訊かれても困りますけど。

この、性格の傾向を形容して「〜屋さん」とのたまう風習は、何を起源としているんだろう。他に「〜屋さん」ってあるかなと考えてみたけど、あとは「笑い屋さん」くらいしか思いつかなかった。これは性格の傾向というよりは、ある種の都市伝説的な職業である。ドリフの全員集合を見て、あはあはと笑い声を収録する、と言うような。

そして、性格の傾向がマイナスの傾向を帯びて来ると「〜んぼ」になるようだ。「けちんぼ」とか「おこりんぼ」とか「食いしんぼ」とか。他に「美味しんぼ」や「チビ黒サンボ」もあるけど、これはマイナスの傾向とは言い難い(冗談を言ってみたかったんです)。なんにしても「〜んぼ」を発音すると唇がちょうど突き出したような形になるので、「なんだよ、けちんぼ」みたいな、不服を表すのにもってこいの言葉である。

「んぼ」というのは「の坊」の変化であると思われるのでまだ良いとしても、性格がもっとめそめそしてくると「泣き虫」とか「いじけ虫」とか、もはや人ではなくなってしまう。「坊」から「虫」はなかなかの生物学的ジャンプである。

「虫」じゃあ急過ぎるからもっとジャンプをマイルドに…と考えて頭に浮かんだのは「犬」とか「ケダモノ」であった。これでは虫の方がなんぼかマシである。まあ難しくも奥深いのが言語というものである。(と無理矢理に稿を締める僕である)