先日、東京駒場にある東京大学の先端科学研究センターを訪れた。ロボットクリエイターの高橋智隆さんを取材するためだ。
高橋さんは、立命館大学の出身だ。就職活動をして、いくつかの会社から内定をもらったが、希望していたところへの入社はかなわなかった。子どものころからの夢だった、「ロボット」製作をあきらめられなかったのだ。
高橋さんは「鉄腕アトム」を見て育ち、ロボットにずっと憧れていたそうだ。そこで高橋さんは、京都大学工学部に入り直す。夢をかなえるための勉強を始めたのである。在学中に2足歩行ロボットを開発した。そして卒業後は、たった1人でロボット製作会社「ロボ・ガレージ」を起業したのだ。
高橋さんは、4年前から東大先端研の特任准教授となっている。現在の日本のロボット開発は、産業ロボットや介護ロボットなどが主流だ。これらのロボットは、本来、人間がしていた仕事を担う。しかし高橋さんは、「自分の目指すロボットは違う」と考えた。高橋さんが夢見たロボットは、人間にとっての「相棒」だ。まさに、幼い頃に夢中になった、「鉄腕アトム」なのである。
ソフトバンクの孫正義さんが発売したロボットは、これに近いのかもしれない。20日のソフトバンクの株主総会で、孫さんが壇上で紹介した。人の感情を認識できるというロボット「ペッパー」は、さまざまな知識を持ち、人間が困ったときに相談できたり、忘れてしまったことを思い出させてくれる。そういう意味で、人間の「相棒」だといえよう。
人間は一度、覚えたことでも忘れてしまうことが、たびたびある。ロボットは、一度、情報をインプットすれば、壊れない限り絶対に忘れない。知識をどんどん蓄積していくのだ。しかもロボットは「論理的」である。感情に左右されず、論理的に判断を下す。迷ったとき、困ったとき、ロボットの「相棒」が相談にのって、的確なアドバイスをくれるというわけだ。
実におもしろいではないか。先端研で出会ったロボットは、僕の言うとおりに動き、会話もできた。これだけでも、たいへん楽しい。さらに正しい「情報」と「論理的思考」を持ちあわせているのだから、将来、新聞の社説を書くロボットが生まれたりするのかもしれない。
僕は、高橋さんにひとつ注文を追加してみた。
「相棒ロボットは、蓄積された情報をもとに、正しい判断をしてくれる。つまり『建前』の相棒だ。けれどそれだけじゃ、つまらない。例えば、ちょっと浮気をしたいとき、相談したら『建前』ロボットは絶対止めるだろう。けれど『本音』のロボットは、『しちゃえ、しちゃえ』と言ってくれる。そんな相棒も欲しいですよね」
すると高橋さんは、「それもそうですね」と笑って答えてくれた。こんな柔軟さも、クリエイターとしての強みだろう。高橋さんはまだ39歳だ。これからさらに理想のロボットに、近づいていくだろう。ぜひ彼の「相棒」に会ってみたいものだ。
【お知らせ】
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〈田原総一朗(たはら・そういちろう )プロフィール〉
高橋さんは、立命館大学の出身だ。就職活動をして、いくつかの会社から内定をもらったが、希望していたところへの入社はかなわなかった。子どものころからの夢だった、「ロボット」製作をあきらめられなかったのだ。
高橋さんは「鉄腕アトム」を見て育ち、ロボットにずっと憧れていたそうだ。そこで高橋さんは、京都大学工学部に入り直す。夢をかなえるための勉強を始めたのである。在学中に2足歩行ロボットを開発した。そして卒業後は、たった1人でロボット製作会社「ロボ・ガレージ」を起業したのだ。
高橋さんは、4年前から東大先端研の特任准教授となっている。現在の日本のロボット開発は、産業ロボットや介護ロボットなどが主流だ。これらのロボットは、本来、人間がしていた仕事を担う。しかし高橋さんは、「自分の目指すロボットは違う」と考えた。高橋さんが夢見たロボットは、人間にとっての「相棒」だ。まさに、幼い頃に夢中になった、「鉄腕アトム」なのである。
ソフトバンクの孫正義さんが発売したロボットは、これに近いのかもしれない。20日のソフトバンクの株主総会で、孫さんが壇上で紹介した。人の感情を認識できるというロボット「ペッパー」は、さまざまな知識を持ち、人間が困ったときに相談できたり、忘れてしまったことを思い出させてくれる。そういう意味で、人間の「相棒」だといえよう。
人間は一度、覚えたことでも忘れてしまうことが、たびたびある。ロボットは、一度、情報をインプットすれば、壊れない限り絶対に忘れない。知識をどんどん蓄積していくのだ。しかもロボットは「論理的」である。感情に左右されず、論理的に判断を下す。迷ったとき、困ったとき、ロボットの「相棒」が相談にのって、的確なアドバイスをくれるというわけだ。
実におもしろいではないか。先端研で出会ったロボットは、僕の言うとおりに動き、会話もできた。これだけでも、たいへん楽しい。さらに正しい「情報」と「論理的思考」を持ちあわせているのだから、将来、新聞の社説を書くロボットが生まれたりするのかもしれない。
僕は、高橋さんにひとつ注文を追加してみた。
「相棒ロボットは、蓄積された情報をもとに、正しい判断をしてくれる。つまり『建前』の相棒だ。けれどそれだけじゃ、つまらない。例えば、ちょっと浮気をしたいとき、相談したら『建前』ロボットは絶対止めるだろう。けれど『本音』のロボットは、『しちゃえ、しちゃえ』と言ってくれる。そんな相棒も欲しいですよね」
すると高橋さんは、「それもそうですね」と笑って答えてくれた。こんな柔軟さも、クリエイターとしての強みだろう。高橋さんはまだ39歳だ。これからさらに理想のロボットに、近づいていくだろう。ぜひ彼の「相棒」に会ってみたいものだ。
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〈田原総一朗(たはら・そういちろう )プロフィール〉
1934年、滋賀県生まれ。60年、岩波映画製作所入社、64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。現在、早稲田大学特命教授として大学院で講義をするほか、「大隈塾」塾頭も務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数。また、『日本の戦争』(小学
館)、『塀の上を走れ 田原総一朗自伝』講談社)、『2時間でよくわかる! 誰も言わなかった! 本当は恐い ビッグデータとサイバー戦争のカラクリ』(アスコム)など、多数の著書がある。
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THE JOURNAL編集部
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