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ホスピタリティ人材の育成派遣会社を創業して暫くした頃、高齢者サービスに特化すると決めてトラベルヘルパー(外出支援専門員)の育成を始めました。20年前のことです。まだ介護という言葉にも馴染みが薄く、誰に話しても介護付き旅行は理解どころか想像さえできないという反応でした。

今でこそ年に1,000件近い介護旅行の希望を聞き、毎日のように自分もトラベルヘルパーになりたいという人の相談を受け、必要に応じた専門教育を行っていますが、当時は年に10件もありませんでした。

介護保険制度が始まる頃、行政や福祉関係者との視察で欧米のサービスに触れる機会を多くもらいましたが、日本とはかなり雰囲気が違う印象がありました。それぞれ歴史や人口、社会体制も違いますから単純な比較はできませんが、助けが必要でも明るい笑顔のお年寄りをみると福祉に対する思想やその文化に対して学ぶ点が多いと知りました。

2000年に制度が始まり日本のサービスは格段の進歩を遂げ、今では世界の手本になる点も多くあります。しかし、旅を楽しむ元気なお年寄りに接した後に施設へ伺うと、一日中無表情でじっとしている人が多いことに違和感を覚えます。同じ時代に育ち、きちんと勤め上げた普通の人が、健康を失っただけでお墓参りさえ我慢しなければならない暮らしに悲しくなります。私は制度のことはよく知りませんが、人を幸せにすることを福祉と覚えたので、この違和感を自分なりに解消しようと努めています。

お年寄りは豊富な人生経験の塊で、学校が教えてくれないことをよく知っていますから、若者がお年寄りに介護で力を貸し、お年よりが経験を語ることで若者が育つ、そんな環境が福祉の仕事にはあると介護旅行に携わり知ることができました。

一方で、旅もまた多くの学びを与えてくれる職場でから介護職には広く他の世界を見て欲しい、特に若い人には視野を広げ感受性を鍛える場として旅を活かして欲しいと思います。

今協会で学ぶ人の多くが介護職ですが、自身が所属する組織や地域の質を上げようと努力する人が集うようになりました。自己投資をして頑張るくらいですから、福祉に対する意識は高く、他者の役に立とうとする努力が働く喜びを与え、自らの仕事の価値を高めてくれる、そんなこと知る老若男女です。被災地で活躍する人もいますが、豊かさの先にある幸せをつかもうと努力する人で、こうした仲間に出会える仕事に感謝しています。

この原稿を書く間にも・・・残念ながら、母親は昨日亡くなりました。生前には、旅行や観劇を実施出来ましたから、良い思い出となり、本当に助かりました。皆さん方のような会社が有った事は、救いの手でした。・・・と励ましの声を頂きました。

介護旅行は単に屋外で車いすを操作することやトイレのバリアフリーチェックをすることではありません。公共の場に出ていくには掟がありますし、担い手の安全など就労環境を整えるのも大事な仕事です。

家族がトラベルヘルパーの存在を知り、介護のある暮らしを愉しむ助けとなることで、制度サービス同様、介護家族の負担が軽減されると嬉しいです。


【篠塚恭一(しのづか・きょういち )プロフィール】
1961年、千葉市生れ。91年(株)SPI設立[代表取締役]観光を中心としたホスピタリティ人材の育成・派遣に携わる。95年に超高齢者時代のサービス人材としてトラベルヘルパーの育成をはじめ、介護旅行の「あ・える倶楽部」として全国普及に取り組む。06年、内閣府認証NPO法人日本トラベルヘルパー(外出支援専門員)協会設立[理事長]。行動に不自由のある人への外出支援ノウハウを公開し、都市高齢者と地方の健康資源を結ぶ、超高齢社会のサービス事業創造に奮闘の日々。現在は、温泉・食など地域資源の活用による認知症予防から市民後見人養成支援など福祉人材の多能工化と社会的起業家支援をおこなう。