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「神社仏閣で語り合う」「残された時間を家族旅行で思い出にしたい」

そんな希望を叶えようと主治医が介護旅行を応援してくれることがあります。

映画「風立ちぬ」でも肺を患った主人公が信州で養生する場面がありましたが、ターミナルケアを施されている人、死期が迫る患者に自然環境のよい場所への転地療養をすすめることが今もあって、そうした転院の際に看護資格を持つトラベルヘルパーが付き添うケースがあります。

湯治で有名な秋田県の玉川温泉など、遠方で長期滞在の際にケアを依頼されることもあり、私たちも可能な限りの対応を心掛けています。

これまでは本人や家族が「死」をタブーとする向きは大半でしたが、超高齢者社会を迎え、日常会話にも介護の話、最期をどう迎えるかという話が増えました。いずれは誰もが死を迎えるわけですが、それでも老いを認め、介護サービスを受けいれることにはまだ抵抗があるようです。いかに死を迎えるのか、それまでにどのような時間が持てるか、戸惑いながらもその可能性を探ることは家族の勤めだと後から教えてくれました。

私達トラベルヘルパーは、そうした心情を受けて身体状況や可能なADLを聞き取り、普段の介護をする方と情報を共有した上で、旅行日程と旅先で行うケアについてアセスメントをつくり、さらに家族のご希望を伺いながらトータルなサービスプランを作成していきます。

特に旅行日程をつくる過程では、単にバリアフリーのホテルや交通機関を選択するだけでなく、その方にとって最良のプランは何か、比較検討しながら参加型で作業を行うことで、本人の主体性が生まれます。例えば孫と一緒なら、ユニバーサルデザインが行き届いたディズニーランドをホテルとセットですすめる際に、自宅や最寄駅からの交通手段を教えて頂き、途中車いすが必要となる方なら、どこまで頑張れるかを聞いたうえでその手配を行います。

一方、受け入れる施設側、例えば「かんぽの宿」や「休暇村協会」など、公共の宿と呼ばれる施設には高齢となった家族を連れた旅行客が宿泊先に求めることは何か、立地する地域の方にも協力を頂き、シームレスな受け入れ体制の整備を提案しています。

杖を使えば歩行が可能な方なら、多少の不自由を覚悟で宿坊の滞在を薦めることもあり、トラベルヘルパーの研修先にもしています。そこで主に頼むのは、死を受け入れる準備をしたいという人と話す時間をつくってほしいというお願いです。若く元気なときのお参りであれば、あれをしたいこれをしたいと先のお願いが多いものですが、介護旅行を利用する人には、静かに死を迎えたいと望む声があるからです。最後の思い出と覚悟しながら、家族の戸惑いはいつも見え隠れしていて、旅はリハビリというのは、家族の心を癒すという期待でもあると思いました。

4人に1人が高齢者の時代になっても、まだ死を迎えることへの理解がすすだとはいえません。ただ、神社、仏閣の前で静かに語る姿には、たとえ介護が必要な高齢の人でも、決して憐れで弱いものでなく、そうした姿を家族が知ることでもう一つの役割がその場にあるのと思います。


【篠塚恭一(しのづか・きょういち )プロフィール】
1961年、千葉市生れ。91年(株)SPI設立[代表取締役]観光を中心としたホスピタリティ人材の育成・派遣に携わる。95年に超高齢者時代のサービス人材としてトラベルヘルパーの育成をはじめ、介護旅行の「あ・える倶楽部」として全国普及に取り組む。06年、内閣府認証NPO法人日本トラベルヘルパー(外出支援専門員)協会設立[理事長]。行動に不自由のある人への外出支援ノウハウを公開し、都市高齢者と地方の健康資源を結ぶ、超高齢社会のサービス事業創造に奮闘の日々。現在は、温泉・食など地域資源の活用による認知症予防から市民後見人養成支援など福祉人材の多能工化と社会的起業家支援をおこなう。