実際、米通商代表部(USTR)は24日、コメ、麦など穀物、乳製品、砂糖、牛肉・豚肉の農産品の重要5分野の関税について協議するため、日米の実務者協議を27日にワシントンで開くと発表した。また31日には自動車分野についての事務レベル協議も開かれる。本会合再開のメドが立たない中、2国間交渉で日本をねじ伏せようという米国の焦りが透いて見える。農産物の重要5分野を“聖域”とすることを条件にTPPに参加するという自民党の選挙公約は、もはや風前の灯と言える。
これとの関連で農林族が注目しているのは、4月上旬のアボット豪首相の来日である。同首相はこの機会に、かねて交渉を重ねてきた日豪経済連携協定(EPA)を合意に持ち込みたいとの強い意向を持っており、そのため同国のロブ貿易相が25日に来日、林芳正農相らと会談する。ところがこの交渉に臨む豪政府の態度は強硬で、「重要5分野のすべてで市場アクセスの改善を」と主張している。とりわけ牛肉については、現在は38・5%の牛肉関税を半分以下、つまり20%を切るところまで下げろと要求していて、日本側の「30%前後までなら」という妥協案とは隔たりが大きい。日本としては、牛肉などである程度譲ってもコメだけは例外とすることを何とか豪州に認めさせる作戦のようで、それは昨年妥結を見た韓豪自由貿易協定(FTA)で韓国がコメや脱脂粉乳などを自由化の例外とさせることに成功した前例があるからだ。
このように、日豪EPAでは、コメさえ守れれば牛肉など他の聖域は一部明け渡しても仕方がないという“実績”が作られようとしている。それをステップに米国にはもっと大胆に屈服して、批判に対しては「コメの聖域だけは確保したじゃないか」と開き直ろうというのが安倍の魂胆ではないか。▲(日刊ゲンダイ3月26日付から転載)
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<高野孟(たかの・はじめ)プロフィール>
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。94年に故・島桂次=元NHK会長と共に(株)ウェブキャスターを設立、日本初のインターネットによる日英両文のオンライン週刊誌『東京万華鏡』を創刊。2002年に早稲田大学客員教授に就任。05年にインターネットニュースサイト《ざ・こもんず》を開設。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。
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