クリミヤ半島にロシア軍を進駐させたプーチン大統領に対し、ヒラリー・クリントン前国務長官が4日「ナチスのヒトラーと同じだ」と発言した。1930年代にヒトラーがチェコスロバキアやルーマニアに住んでいたドイツ民族の保護を理由に軍事侵攻し第二次世界大戦の引き金を引いた事と同一視したのである。
翌5日には「プーチン大統領は大ロシア圏構想を抱いており、ロシアの周辺国を再ソビエト化したいのだ。プーチン大統領をヒトラーと比較した訳ではないが、歴史的観点に立ってこの問題を考えて欲しい」と述べた。この発言を共和党のマケイン上院議員が賞讃した。
安倍政権の誕生以来、東アジアでは第二次大戦の「歴史認識」を巡って緊張が高まっている。それはアメリカの国益にならないとして、アメリカは「歴史認識」を越える現実的な対応を日韓に求めた。しかしプーチン大統領の行動をヒトラーと比較し、歴史に学ぶよう求めたヒラリー氏の発言で、世界には第二次世界大戦の「歴史認識」を再確認する動きが出て来るかもしれない。
そうした事を考えると、昨年7月に突如飛び出した麻生副総理の「ナチスに学べ」発言を今一度考えてみるべきという気がする。発言は撤回されたが、あの時期になぜ出てきたのか。96条改正問題や集団的自衛権の解釈変更、さらにNHK会長人事などを見てくると、準備されていた政治の動きを麻生副総理が不用意に漏らしたように思える。
発言は昨年の7月29日に都内の改憲派のシンポジウムで飛び出した。参議院選挙で与党が大勝し「ねじれ」が解消して8日目の事である。発言は麻生副総理らしく意味不明の部分が多いのだが、主題は憲法改正の話だった。「ねじれ」が解消したのだからいよいよ憲法改正に手を付けるべき時が来たと考えたのだろう。
麻生氏はまずヒトラーは民主主義によって議会で多数を握って出てきたことを強調した。「ヒトラーは選挙で選ばれたんだから。ドイツ国民はヒトラーを選んだんですよ。間違わんでください。そして、彼はワイマール憲法という当時ヨーロッパで最も進んだ憲法下にあって、ヒトラーが出てきた」と発言した。その通りである。民主主義は気を付けないと民主主義によって殺されるのである。
次いで麻生氏は「憲法は、ある日気づいたら、ワイマール憲法が変わって、ナチス憲法に変わっていたんですよ。誰も気づかないで変わった。あの手口学んだらどうかね」と発言したのである。内容には間違いもあるが、言いたいことは「憲法は国民が気づかないうちに変えられる」という事らしい。
ヒトラーがドイツ国民に選挙で選ばれ首相になった時に求めたのは、憲法改正ではなく全権委任法の制定である。ヒトラーは国会を解散し、全権委任を訴える選挙キャンペーンを行った。その選挙中に国会議事堂放火事件が起こり、共産主義者の犯行と断定された。ヒトラーは大統領に緊急大統領令を要請し、その権限で共産党員を逮捕・拘禁した。選挙はナチスと国家人民党の連立によって過半数を確保した。
そこでヒトラーは全権委任法を閣議決定し、連立を組む国家人民党と共同で法案を国会に提出した。憲法改正ではないが憲法にかかわる法案のため、本来は国会議員の三分の二以上が出席し、その三分の二以上の賛成が必要だったが、与党の議席は三分の二に足りなかった。そこでヒトラーは国家人民党に働きかけ議院運営規則を修正し、欠席議員を採決の分母から排除する事にした。これで全権委任法は成立する。それによって立法権が政府に移り、国会は開かれなくなり、ワイマール憲法は骨抜きになった。
ヒンデンブルグ大統領が死亡すると、ヒトラーは大統領の権限を首相の権限と合体させ、国民投票によって90%近い支持を得て国家元首に就任する。その背景には宣伝工作に天才的能力を発揮したゲッベルスによる国民洗脳のためのメディア操縦があった。
こう見てくるとヒトラーの与党は、連立相手の国家人民党と合せて三分の二の議席に達しなかったため、過半数の議席数で憲法を骨抜きにする工作をやったのである。憲法改正と大上段に振りかぶらず、国民は誰も憲法改正と思わなかったが、事実上の憲法改正が行われヒトラーの独裁体制はできた。
その手口を安倍政権はしっかり学んでいるのである。三分の二の賛成を必要とする憲法改正手続きを「世界で一番ハードルが厳しい」と嘘を言い、国会での議論より国民投票の方が民主的だと国民に思わせて96条改正を要求し、さらに集団的自衛権では憲法を改正するのではなく、総理の解釈によって憲法を骨抜きにしようとしている。
さらにゲッベルスがメディアを操縦し、ベルリン・オリンピックを最大限に活用し、圧倒的な国民の支持によって独裁体制をつくりあげたように、安倍政権もNHK人事に介入し、東京オリンピックに期待を抱かせるなど、メディアとオリンピックの活用に余念がない。
国会の過半数を握れば法律を成立させることが出来る。法律とは国民を縛るものである。違反をすれば罰則を受ける。国会の過半数さえ握ればおかしな法律を作ることも可能だが、おかしな法律から国民を守るのが憲法である。憲法が権力を縛ると言われるのはそのためである。憲法は権力に勝手なことをさせないためにあるのである。
その憲法が総理の解釈で変えられたり、国会の過半数で変えられたり、メディアに洗脳された国民の直接投票で変えられたりすれば、まさに1930年代のワイマール憲法下でヒトラーが誕生した時と同じになる。麻生発言はそのことを示唆していた。
しかし言ってはならない事を言ってしまったので撤回したが、それはNHK籾井会長や衛藤晟一議員と同レベルの発言撤回である。むしろ本音はそこにあるのだ。その事に世界の目が向くような事になればまた日本は世界から孤立する。
■《甲午田中塾》のお知らせ(3月31日 19時〜)
田中良紹塾長が主宰する《甲午田中塾》が、3月31日(月)に開催されることになりました。詳細は下記の通りとなりますので、ぜひご参加下さい!
【日時】
2014年 3月31日(月) 19時〜 (開場18時30分)
【会場】
第1部:スター貸会議室 四谷第1(19時〜21時)
東京都新宿区四谷1-8-6 ホリナカビル 302号室
http://www.kaigishitsu.jp/room_yotsuya.shtml
※第1部終了後、田中良紹塾長も交えて近隣の居酒屋で懇親会を行います。
【参加費】
第1部:1500円
※セミナー形式。19時〜21時まで。
懇親会:4000円程度
※近隣の居酒屋で田中塾長を交えて行います。
【アクセス】
JR中央線・総武線「四谷駅」四谷口 徒歩1分
東京メトロ「四ツ谷駅」徒歩1分
【申し込み方法】
下記URLから必要事項にご記入の上、お申し込み下さい。21時以降の第2部に参加ご希望の方は、お申し込みの際に「第2部参加希望」とお伝え下さい。
http://bit.ly/129Kwbp
(記入に不足がある場合、正しく受け付けることができない場合がありますので、ご注意下さい)
【関連記事】
■田中良紹『国会探検』 過去記事一覧
http://ch.nicovideo.jp/search/国会探検?type=article
<田中良紹(たなか・よしつぐ)プロフィール>
1945年宮城県仙台市生まれ。1969年慶應義塾大学経済学部卒業。同 年(株)東京放送(TBS)入社。ドキュメンタリー・デイレクターとして「テレビ・ルポルタージュ」や「報道特集」を制作。また放送記者として裁判所、 警察庁、警視庁、労働省、官邸、自民党、外務省、郵政省などを担当。ロッキード事件、各種公安事件、さらに田中角栄元総理の密着取材などを行う。1990 年にアメリカの議会チャンネルC-SPANの配給権を取得して(株)シー・ネットを設立。
TBSを退社後、1998年からCS放送で国会審議を中継する「国会TV」を開局するが、2001年に電波を止められ、ブロードバンドでの放送を開始する。2007年7月、ブログを「国会探検」と改名し再スタート。主な著書に「メディア裏支配─語られざる巨大メディアの暗闘史」(2005/講談社)「裏支配─いま明かされる田中角栄の真実」(2005/講談社)など。
翌5日には「プーチン大統領は大ロシア圏構想を抱いており、ロシアの周辺国を再ソビエト化したいのだ。プーチン大統領をヒトラーと比較した訳ではないが、歴史的観点に立ってこの問題を考えて欲しい」と述べた。この発言を共和党のマケイン上院議員が賞讃した。
安倍政権の誕生以来、東アジアでは第二次大戦の「歴史認識」を巡って緊張が高まっている。それはアメリカの国益にならないとして、アメリカは「歴史認識」を越える現実的な対応を日韓に求めた。しかしプーチン大統領の行動をヒトラーと比較し、歴史に学ぶよう求めたヒラリー氏の発言で、世界には第二次世界大戦の「歴史認識」を再確認する動きが出て来るかもしれない。
そうした事を考えると、昨年7月に突如飛び出した麻生副総理の「ナチスに学べ」発言を今一度考えてみるべきという気がする。発言は撤回されたが、あの時期になぜ出てきたのか。96条改正問題や集団的自衛権の解釈変更、さらにNHK会長人事などを見てくると、準備されていた政治の動きを麻生副総理が不用意に漏らしたように思える。
発言は昨年の7月29日に都内の改憲派のシンポジウムで飛び出した。参議院選挙で与党が大勝し「ねじれ」が解消して8日目の事である。発言は麻生副総理らしく意味不明の部分が多いのだが、主題は憲法改正の話だった。「ねじれ」が解消したのだからいよいよ憲法改正に手を付けるべき時が来たと考えたのだろう。
麻生氏はまずヒトラーは民主主義によって議会で多数を握って出てきたことを強調した。「ヒトラーは選挙で選ばれたんだから。ドイツ国民はヒトラーを選んだんですよ。間違わんでください。そして、彼はワイマール憲法という当時ヨーロッパで最も進んだ憲法下にあって、ヒトラーが出てきた」と発言した。その通りである。民主主義は気を付けないと民主主義によって殺されるのである。
次いで麻生氏は「憲法は、ある日気づいたら、ワイマール憲法が変わって、ナチス憲法に変わっていたんですよ。誰も気づかないで変わった。あの手口学んだらどうかね」と発言したのである。内容には間違いもあるが、言いたいことは「憲法は国民が気づかないうちに変えられる」という事らしい。
ヒトラーがドイツ国民に選挙で選ばれ首相になった時に求めたのは、憲法改正ではなく全権委任法の制定である。ヒトラーは国会を解散し、全権委任を訴える選挙キャンペーンを行った。その選挙中に国会議事堂放火事件が起こり、共産主義者の犯行と断定された。ヒトラーは大統領に緊急大統領令を要請し、その権限で共産党員を逮捕・拘禁した。選挙はナチスと国家人民党の連立によって過半数を確保した。
そこでヒトラーは全権委任法を閣議決定し、連立を組む国家人民党と共同で法案を国会に提出した。憲法改正ではないが憲法にかかわる法案のため、本来は国会議員の三分の二以上が出席し、その三分の二以上の賛成が必要だったが、与党の議席は三分の二に足りなかった。そこでヒトラーは国家人民党に働きかけ議院運営規則を修正し、欠席議員を採決の分母から排除する事にした。これで全権委任法は成立する。それによって立法権が政府に移り、国会は開かれなくなり、ワイマール憲法は骨抜きになった。
ヒンデンブルグ大統領が死亡すると、ヒトラーは大統領の権限を首相の権限と合体させ、国民投票によって90%近い支持を得て国家元首に就任する。その背景には宣伝工作に天才的能力を発揮したゲッベルスによる国民洗脳のためのメディア操縦があった。
こう見てくるとヒトラーの与党は、連立相手の国家人民党と合せて三分の二の議席に達しなかったため、過半数の議席数で憲法を骨抜きにする工作をやったのである。憲法改正と大上段に振りかぶらず、国民は誰も憲法改正と思わなかったが、事実上の憲法改正が行われヒトラーの独裁体制はできた。
その手口を安倍政権はしっかり学んでいるのである。三分の二の賛成を必要とする憲法改正手続きを「世界で一番ハードルが厳しい」と嘘を言い、国会での議論より国民投票の方が民主的だと国民に思わせて96条改正を要求し、さらに集団的自衛権では憲法を改正するのではなく、総理の解釈によって憲法を骨抜きにしようとしている。
さらにゲッベルスがメディアを操縦し、ベルリン・オリンピックを最大限に活用し、圧倒的な国民の支持によって独裁体制をつくりあげたように、安倍政権もNHK人事に介入し、東京オリンピックに期待を抱かせるなど、メディアとオリンピックの活用に余念がない。
国会の過半数を握れば法律を成立させることが出来る。法律とは国民を縛るものである。違反をすれば罰則を受ける。国会の過半数さえ握ればおかしな法律を作ることも可能だが、おかしな法律から国民を守るのが憲法である。憲法が権力を縛ると言われるのはそのためである。憲法は権力に勝手なことをさせないためにあるのである。
その憲法が総理の解釈で変えられたり、国会の過半数で変えられたり、メディアに洗脳された国民の直接投票で変えられたりすれば、まさに1930年代のワイマール憲法下でヒトラーが誕生した時と同じになる。麻生発言はそのことを示唆していた。
しかし言ってはならない事を言ってしまったので撤回したが、それはNHK籾井会長や衛藤晟一議員と同レベルの発言撤回である。むしろ本音はそこにあるのだ。その事に世界の目が向くような事になればまた日本は世界から孤立する。
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■《甲午田中塾》のお知らせ(3月31日 19時〜)
田中良紹塾長が主宰する《甲午田中塾》が、3月31日(月)に開催されることになりました。詳細は下記の通りとなりますので、ぜひご参加下さい!
【日時】
2014年 3月31日(月) 19時〜 (開場18時30分)
【会場】
第1部:スター貸会議室 四谷第1(19時〜21時)
東京都新宿区四谷1-8-6 ホリナカビル 302号室
http://www.kaigishitsu.jp/room_yotsuya.shtml
※第1部終了後、田中良紹塾長も交えて近隣の居酒屋で懇親会を行います。
【参加費】
第1部:1500円
※セミナー形式。19時〜21時まで。
懇親会:4000円程度
※近隣の居酒屋で田中塾長を交えて行います。
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JR中央線・総武線「四谷駅」四谷口 徒歩1分
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下記URLから必要事項にご記入の上、お申し込み下さい。21時以降の第2部に参加ご希望の方は、お申し込みの際に「第2部参加希望」とお伝え下さい。
http://bit.ly/129Kwbp
(記入に不足がある場合、正しく受け付けることができない場合がありますので、ご注意下さい)
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<田中良紹(たなか・よしつぐ)プロフィール>
1945年宮城県仙台市生まれ。1969年慶應義塾大学経済学部卒業。同 年(株)東京放送(TBS)入社。ドキュメンタリー・デイレクターとして「テレビ・ルポルタージュ」や「報道特集」を制作。また放送記者として裁判所、 警察庁、警視庁、労働省、官邸、自民党、外務省、郵政省などを担当。ロッキード事件、各種公安事件、さらに田中角栄元総理の密着取材などを行う。1990 年にアメリカの議会チャンネルC-SPANの配給権を取得して(株)シー・ネットを設立。
TBSを退社後、1998年からCS放送で国会審議を中継する「国会TV」を開局するが、2001年に電波を止められ、ブロードバンドでの放送を開始する。2007年7月、ブログを「国会探検」と改名し再スタート。主な著書に「メディア裏支配─語られざる巨大メディアの暗闘史」(2005/講談社)「裏支配─いま明かされる田中角栄の真実」(2005/講談社)など。
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THE JOURNAL
THE JOURNAL編集部
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高野氏と視点は同じであり、日本の孤立化である。
違った観点から、問題を提起されているが、本質的には、安倍氏とお友達による、政治、マスコミの偏向である。しかし、提起していることは極めて厄介な問題であり、今までの政治家はオープンにすることを控えてきたことです。なぜなら、日本では国民的支持を得られても、国際社会、特に戦勝国には受け入れられない根本問題を含んでいるからです。
ナショナリズムを変な形で矛を収めると、米国不信が広まり、国益を大きく害することになりかねない。