連載第2回(同1月18日号)では、米国で言われ出した新語「JIBs」を紹介し、米国にとって最も重要な同盟国であるはずの日本とイスラエルとイギリスがそれぞれ地域トラブルばかり起こして米国の「頭痛の種」になっている、と書いた。連載第8回(同3月1日号)のようやく実現した安倍訪米についてのコメントでは、日本のマスコミは訪米が成功したかに提灯持ちをしているが、米人記者に聞くとオバマの態度は「アン・アームズ・ディスタンス」、つまり肩を抱き合うような関係でなく、片腕を伸ばしたほどの距離を置こうとするものだったと指摘した。
つまり、昨年12月末の安倍の靖国参拝に対して米政府が公然と「失望」を口にしたのは、何も突然の出来事ではなくて、安倍政権のスタートの時からすでに現れていた兆候の数々を、日本側が無視してきたことの結果なのだ。
英国を代表するエコノミストであるビル・エモット(元エコノミスト誌編集長)も日経ビジネスへの最近の寄稿で「安倍が首相になった時、多くの外国政府や海外投資家は彼の国粋主義的な態度を黙認した。自民党内の支持を固め、アベノミクスに必要な改革に役立つと考えたからだ。しかしその黙認にも限界がある」と書いた。靖国参拝が「決定的な要因」となって安倍への「楽観と称賛は懸念と苛立ちに変わった」。日本株を買っていたジョージ・ソロスはじめ投資家が一斉に売りに転じたのも同じ理由である。
米政府だけでなく他の国も投資家も、初めから安倍は危なっかしいなとは思いながらも、まあどこまでやるか見守ろうという姿勢だったのに、そうとは知らない安倍が舞い上がって靖国参拝という虎の尾を踏んでしまった。気が付けば、中国包囲網どころか日本包囲網である。
ジャーナリズムの大事な役目は「早期警戒情報」の提供である。“保守”の皮をかぶった“右翼”である安倍政治の本質は最初から垣間見えていて、いつか世界から見放されることは分かりきっていたのに、正面切って警鐘を打ち鳴らしてこなかった日本のマスコミの罪も重い。▲(日刊ゲンダイ2月26日付から転載)
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<高野孟(たかの・はじめ)プロフィール>
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。94年に故・島桂次=元NHK会長と共に(株)ウェブキャスターを設立、日本初のインターネットによる日英両文のオンライン週刊誌『東京万華鏡』を創刊。2002年に早稲田大学客員教授に就任。05年にインターネットニュースサイト《ざ・こもんず》を開設。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。
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私達日本人は、一般的に自分に対して甘く優しく体制に対しても甘いし優しい。この国民性が幸いして、戦後、廃墟の中から、一生懸命努力して素晴らしい経済国家に立て直しました。ところが、人まねで成長できた時代が過ぎ、独創性が要求されるようになると、前に進めず経済が長い間停滞しています。生活困窮者が出始めたといっても、米国ほど悪化せず、皆が平和な生活を楽しんでいるといってよいのではないか。
我々多くの日本人は、敗戦を忘れてしまっているが、戦勝国が処罰した戦争犯罪人を総理がお参りするということは、中国韓国の問題でなく、戦勝国、国際社会に対する挑戦とも見られてしまいます。
この間違いが起こる根本を考えるとき、「自分に厳しく他人には厳しくとも優しい」自立の精神が日本人に欠如していると見ざるを得ません。「自分に優しく他人にも優しい」体制に甘いお友達精神は、日本のような島国では通用するが、常に切磋琢磨、競い合って生きる社会では通用しないことです。
弊害はいろいろな面で現れています。民主主義が「お友達精神」では育たないことです。いつでも体制側に引っ張られていってしまう傾向が修正できず、国際社会から疑惑の眼で見られがちになってしまう。乗り越えなければならない壁ですが、乗り越えるためには、「ゆとり教育」などもってのほか、自分を厳しくしなければ、他人を良く理解できないお友達国家から脱皮できないのです。